ネタバレ多め!オカルト映画の佳作『リーピング』を邪推してみた

基本情報

The Reaping ★★★
2007 スコープサイズ 99分 @DVD

感想

■南部の町ヘイブンで川が赤く染まる。出エジプト記の10の災いか?信仰を捨てた女科学者が科学的に解明しようとするが、町外れに悪魔崇拝者と疑われた少女がいて。。。

■だいぶん前に一度だけ観ているけど、お話の詳細を忘れていたので、再見。確かによくできたお話でした。旧約聖書の10の災いは神の仕業なのか、悪魔の仕業なのか。少女は悪魔の化身なのか?図と地が逆転するクライマックスは、さすがに捻りが効いて、痛快なほど。

■ただ、それまでの展開があまりすっきりしないのが残念で、スーダンで難民支援活動中、旱魃に逆上した原住民に夫と娘を生贄にされてしまうという悲劇も、その残酷さも編集がガチャガチャしていまいち焦点を結ばない。ダークキャッスル製作なので、あまり意味のないショックシーンを盛り込むのだが、かえってサスペンスを削いでいる気がする。

■でもよく考えると、キャサリンと元同僚の神父との関係性にどうしても違和感が残る。単にスーダンで一緒に働いただけの関係で悪魔の前兆が現れるだろうか?これもともとは、彼はキャサリンの夫で、スーダンでは娘だけが死んで、信仰を捨てたキャサリンと別れたという設定じゃないか?自然に考えればそうなると思うんだけど。

■さらに違和感があるのは、キャサリンがヘイブンの町で知りあって間もない教師ガイと簡単に寝てしまうこと。キャサリンは夫と娘を虐殺された寡婦なので、こんなに尻軽だと観客は違和感しか感じないはず。いや実際そう。この不自然さはラストのオチのアイディアのために逆算して伏線を作ることが必要だったから、後で無理やり押し込んだのではないか思われる。そして、このアイディアを活かすためには、夫も死んだことにする必要があり、神父は単なる同僚に格下げされることになったのではないか。元夫の神父と頻繁にやりとりしているのに、一方でほとんど行きずりの男と寝ていたんでは観客の反感を招くだろうから。

■そして、このラストのアイディアのせいで、本来の結末が棄却されてしまったのではないか。本来なら、あれだけの奇跡を見せられて神の実在を思い知ったキャサリンは失った信仰を取り戻すはずだよね。本当はそこに着地するはずだったのに、最後にもう一捻り欲張ったために、構成が歪になってしまった。というのが、個人的な邪推なんだけど、いい線いっている気がするなあ。

■しかし、かなり入り組んだ設定で、逆さの鎌がキリスト以前からの悪魔崇拝のシンボルというのはいいとして、初子はその印を刻印され、それ以外は思春期に悪魔の生贄にされると。でも思春期を無事に過ぎた第2子は、初子を排除して代わって悪魔の化身となる??なんだかわかったような腑に落ちない設定だなあ。神父が言うんだけど、結局あの神父の当て推量は外れだったからね。部屋の中で本だけ読んで生半可な知識を振り回すより、フィールドで実際に見聞きして体験的に把握したほうがより真実に近づくことができる、という教訓話かな?

参考



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南部ゴシック映画としては、なんといっても『スケルトン・キー』がオススメ。
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新しいところでは、『ジェサベル』なんて佳作もあります。知る人ぞ知る良作。
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『去年夏突然に』て、ほとんど怪奇映画ですがな。
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なぜに恐竜じゃなくてイナゴの日?『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』

基本情報

Jurassic World: Dominion ★☆
2022 ヴィスタサイズ 147分 @アマプラ

感想

■恐竜たちが世界中に放たれ、人間との共存を模索する世界で、遺伝子操作によって生まれた巨大イナゴが食糧危機をもたらす驚異となる。その根源を求めて、バイオシン社の奥深くに潜入するが。。。

■シリーズ三部作の完結編だけど、実に残念な超大作。特に大型液晶テレビで観るとCG感とデジタル合成感がマシマシで、劇場で観るほうが陰影や質感がリアルに感じられるはず。中盤のマルタ島での恐竜たちとのチェイスシーンはさすがに見ごたえがあるけど、それ以外は全く取り柄がない失敗作。大自然の中野CGの恐竜たちが、NHK特集に見えてくるから困ります。いやほんとに。

■そもそも恐竜がテーマになってなくて、人類存亡の危機を握るのは巨大なイナゴって、なに?イナゴの日が観たかったら『リーピング』観ますから、そんな場違いな話をジュラシックでされてもねえ。
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しかも旧シリーズのロートルたちまで引っ張り込むから、お話が無駄に拡散することに。それに、恐竜の密輸組織の話って、そんなに観たい人いるの?ジュラシック・パークジュラシック・ワールドに観客が求めるものをわかっているのだろうか?恐竜密売組織の女を演じるディーチェン・ラックマンという女優はネパール出身のモデルで、個性的な顔立ちなので儲け役だったけどね。

■なんなくコロナ禍の中で企画され、製作されたハリウッド映画ってなんかタガが外れている気がしてて、『ブレードランナー2049』だって、あんな作品、普通ならスタジオが再編集を求めるはずの代物。本作も長い、長い。延々とどうでもいい話が続き、ひらめきのない、サスペンスも効いていない見せ場が垂れ流される。と思ってみたけど、『ブレードランナー2049』てコロナ禍以前の公開だったね。全くダメだこりゃ。

■しかし監督のコリン・トレヴォロウって、第一作があんなに傑作だったのに、どうしたのかなあ。ここはホントにコロナ禍の影響だと思うんだけど。コロナ禍のなかで、共存と変化というテーマ設定は悪くないし、間違っていないのに、肝心のドラマが散々だったのは脚本の責任だけど、監督が自分で考えて書いてるんだよね。

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なぜスタジオはOKを出したのか?ひたすら冗長な蛇足映画『ブレードランナー2049』

基本情報

Blade Runner 2049 ★
2017 スコープサイズ 163分 @アマプラ

感想

■『ブレードランナー』の正式な続編だけど、なんでこんなお話でOKが出たのか不思議だし、スタジオが編集をやり直せと言わなかったのも不思議な、謎映画。監督のドゥニ・ヴィルヌーヴは『メッセージ』が良かったけど、本作はひたすら疑問。

■そもそもお話に新味がないし、各シーンの編集が長い長い。アート映画じゃないんだからね!撮影監督はロジャー・ディーキンスだから凝りに凝っているのだけど、本来はこんな派手なスタイルの人じゃないよね。主演のライアン・ゴズリングも、こんなに魅力のない人だっけ。主役が持たないから終盤にハリソン・フォードを投入するが、わざわざ爺さん呼んでこないでも。デッカードのそんな後日談誰も観たくないですよ。。。

■配役としては ウォレス社のやり手重役にして殺し屋レプリカントを熱演する美女シルヴィア・フークスがアクション的には見どころではあり、最後の最後までしぶとく主役にまとわり付く。

■荒廃した未来のLAの情景もCGだから細密で破綻がないのは確かだけど、デザイン的に新味がないし、ライドメカたちもオリジナルのような質感の塊感、光芒のリアリティは感じられない。オリジナルのSFXはスピナーや建物の光が全部本物ですからね。合成素材だって本物の光をスモークルームで撮って合成しているから、ハレーションも含めてそれはやはりリアリティが違うんだね。オリジナルの映画はあれば唯一無二だった。敢えて言えば、同時期の『スタートレック』か。

ジェイコブズの「猿の手」てそんなに有名なの?わたしは慈愛で世界を救う『ワンダーウーマン1984』

基本情報

Wonder Woman 1984 ★★☆
2020 スコープサイズ 151分 @アマプラ

感想

■舞台は1984年、謎の遺物「願いを叶える石」にダイアナが願いをかけると、死んだはずのスティーブが現れる。一方、詐欺的な石油採掘事業が破綻したマックスは石を手に入れ、ある願いをかけると。。。

■前作のVFXがしょぼすぎたので、わざわざ冒頭にセミッシラ島のオリンピックのエピソードを置いて、ちゃんとやればできることを証明する必要があった、ということかな。正直、お話には直接関係ないので、動機はそれだけだと思います。

■肝心のお話はかなりファンタジー寄りで、なんとジェイコブズの「猿の手」を下敷きにしている。しかもみんなそのお話は知っている前提で会話をしているから凄いね。さすが欧米ではそんなに有名な怪奇短編なんだね。

■正直舞台を1984年にした意味もあまり感じられず、米ソ冷戦の危機感もリアルには描かれないし、リアリティラインはスーパー戦隊と同じくらい。1984年といえば『ゴーストバスターズ』『グレムリン』『ゴジラ』の時代ですけどね。世界大戦の危機感の映像表現も妙に薄っぺらで、背後で右往左往するエキストラも半笑い気味(に感じられる)

■悪役のマックスという男の薄っぺらさと虚妄性がこの映画のテーマと結びついているけど、結局は貧乏な移民出身ゆえの歪んだ野心ということになり、その決着も、本当に自分にとって一番大事なものはなんだ?という問い掛けに集約される。経済的な成功や社会的な認知や野望の充足がそんなに大切なのか?と問いかけるけど、でもマックスという男の人間像がやっぱり薄っぺらなので、感動的にはならない。ここはもっとリアルな人間像が必要なところ。

■一方、強くて賢くて美しいダイアナにちょっと同性愛的なあこがれをいだく同僚の中年女(年上だよ)をクリステン・ウィグが演じて、面白い役柄を力演するけど、最終的にCG豹女になってしまうのが残念なところ。中盤のホワイトハウス通路の決戦はアクション演出も冴えた見せ場だったのに。多分、パティ・ジェンキンスが監督が、自分自身の自己認識(美人でも強くもない自分自身)を投影したキャラクターだと思うんだけどね。

■ドラマがアクションではなく、全人類につながったテレビ回線に向かってダイアナが直接語りかけるところがキモになっているのもちょっとユニークなところで、超人的な行動や腕力で人類を救うのではなく、言葉による説得と共感によって世界を救うのだという強い意志が感じられる。それに、常に子どもたちの危機を救うことに意欲的なヒロインとして描かれ、未婚だけど母性的な慈愛を感じさせるところがユニークであり感動的な美点。

■前作の反省をこめてVFXにはそれなりに力が入っていて、でもアクションの見せ場は冒頭(の蛇足)を除くと意外と小さくて、むしろ透明化した戦闘機で花火大会の上空を遊覧する場面とか、ダイアナが元恋人のアドバイスに従って飛行能力を手に入れるあたりのロマンティックな場面のVFXが優れていて感動的。

VFXは酷いけど意外な良作!人類は護るに値する存在か?『ワンダーウーマン』

基本情報

Wonder Woman ★★★
2017 スコープサイズ 141分 @アマプラ

感想

■女だけの秘島でプリンセスとして育ったダイアナは、次元の違う世界で第一次世界大戦が戦われ、ドイツ軍の秘密兵器で大量虐殺が行われようとしていることを知ると島を出る決意を固める。。。

■なんで今さら観ているかと言えば、第二作『ワンダーウーマン1984』の悪役にクリステン・ウィグが出ていることを知ったからなんだけど、実際のところ、映画を見はじめて2分くらいで一度挫折している。アマゾネスの島セミッシラのVFXがあまりにひどかったからだ。

■超大作のはずなのに、CGとかアクションの見せ方は、ビデオゲーム映像かと見紛うばかりの質感の低さ。全体的にVFXのレベルは妙に低いのだけど、メインのVFX工房はダブル・ネガティブなのが信じられない。もちろん、たくさんのVFX工房に下請けに出しているわけだけど、今どきこのクオリティでいいのか?監督のパティ・ジェンキンスはこうした独特のビジュアルとかアクションの見せ方にこだわりがあるタイプではないだろうから、VFXスーパーバイザーとかアクション監督に任せきりにしたのではないか。いや、任せきりでもしかるべきスタッフなら仕上がりも良いはずなのに、どうしたの?

■なので途中で観るのやめようかと何度も思ったけど、舞台がロンドンに移ってからやっと映画らしくなってくるし、休戦協定が進む中、強力なマスタードガスの開発を成功させた気狂い将軍&毒ガス博士の悪巧みを粉砕するために独立愚連隊を結成してベルギーの最前線に乗りこむあたりは活劇として定番の面白さ。

■しかも最前線での戦場の惨禍や苦しむ無辜の婦女子たちや、疲弊する無垢な牛馬たちの姿にすら同情して、ダイアナが小さな村落をドイツ軍から開放する決意をするあたりの泣かせる展開や、最前線での鬼神の如き大活躍のあたりはVFXのショボさを忘れて燃える展開で大健闘する。戦場の悲惨な実情の部分は本当ならもっと短くインパクトの強い見せ方ができたと思うが、そこはかなりソフト路線。でも神の世界に属するダイアナが人間の本性を垣間見て義憤にかられるエピソードはこうしたヒーロー(ヒロイン)活劇には欠かせないところで、終盤のテーマ性にも関わってきて、実に王道の展開を見せるから、感心した。

■毒ガス部隊の秘密基地シーンはラスボスとして破壊神アレスが正体を表すが、そこはVFXも見飽きた趣向しかなくてあまり冴えない。でも、争いを本性として、いずれ放っておいても絶滅するに違いない人類を護る意味はあるのか?という神々の問いが真面目に語られるのは、思いがけず感動的だった。それに並行して、スティーブの泣かせる自己犠牲(僕は今日を守る。君は世界を守れ!)による毒ガス爆弾の阻止が描かれて、ちゃんとメロドラマも成立しているし、それでも人類を護る意義はあるという結論にいたるまで、実にどうも上出来なのだ。結論の雑駁さも含めて、懐かしい気がしたよ。アメコミ映画はいくつか観ているけど、新奇なビジュアルではなくて、テーマ設定とメロドラマのマリアージュとして、上出来な部類だと思うな。いや、素直に感心しました。

参考

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アメコミ映画は最初の頃日本では全くヒットしなかったけど、それ以外のアメリカ映画が絶滅してしまうと、自然とドル箱路線になってしまった。日本だけの話じゃないけど、グローバルにエグい商売。
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今度はジュブナイルだよ!マッケンナ・グレイスに萌え&燃えの快作『ゴーストバスターズ アフターライフ』

基本情報

Ghostbusters: Afterlife ★★★
2021 スコープサイズ 124分 @アマプラ

感想

ポール・フェイグのリブート版が肝心の女性観客にそっぽを向かれたからか?また仕切り直しが入った本作ではポール・フェイグ版はなかったことになっている。そして脚本、監督にオリジナルのアイヴァン・ライトマンの息子、ジェイソン・ライトマンが起用された。正直、ジェイソン・ライトマンは『ジュノ』とか『マイレージ・マイライフ』とか『ヤング≒アダルト』とか、機智のきいた秀作を連打する才人で、すでに父親を超えていると思うのだが、今更ジャンル映画をあてがわれてどうするのかと思いきや、さすがに手堅い娯楽作になってますよ。

■聞いたこともないど田舎に隠遁してた変人のおじいさんが死んで、もともと家計が破綻寸前だったうちら一家は、幽霊屋敷みたいな家を相続したんやけど、その地方では原因不明の地震が毎日起こるし、おじいさんの隠し部屋からはケッタイな機械が出てきて、ガッコの先生に見せたらゴーストバスターズって知ってるか?言われたけど、うちの生まれる何十年も前のことやて。そんなン知らんわ、誰やそれ?

■監督と撮影監督(エリック・スティールバーグ)がお馴染みのコンビなので、映像のルックはジャンル映画ではなくて、非常に繊細なロケーション撮影だし、照明の具合もリアル志向。素のドラマだけ観てると、青春文芸映画かと思う程。前作は完全にコメディ志向だったが、本作はリアルなジュブナイル路線で、子どもの冒険映画にしてしまったのは成功だった。なにしろ主演のマッケンナ・グレイスが天才的に素晴らしい。『アナベル 死霊博物館』でウォーレン夫妻の娘を演じたあの娘だけど、全く気が付かなかったよ。理系オタクっぽいチリチリのヘアスタイルと丸メガネで科学オタク少女を好演する。最初は男の子かと思ったほど、ボーイッシュで可愛くて痺れる。この娘の成長譚になっているわけだけど、実はアクションも結構良いのだ。

■特にというか、全編中の白眉なのは中盤の鉄を食うゴーストを捕獲すべくECTO-1改で猛追する場面で、ジェイソン・ライトマンの意外な才能を垣間見せる。おそらくはホークスの『ハタリ!』あたりをイメージしたのだろうが、ECTO-1の座席が銃座になって車外にせり出すびっくりギミックが最高にカッコいいから必見。オタク少女が活劇のヒロインに転じる名シーンだ。この一連の追跡シーンだけで、この映画を観る価値がある。マッケンナ・グレイス、最高にクールだ。(というか燃える演出!)

■この少女の祖父が実はハロルド・ライミスで、というところがオールドファンの琴線を刺激するところで、ラストにはもちろん、あんなことやこんなことが起こるわけ。そうそう、劇伴も昨今の脱メロディの打楽器ドンドン路線ではなく、80年代アメリカ映画風のオーソドックスな美メロで聞かせる。エリック・スティールバーグの撮影も秀逸で、何もない広大な大風景の中に登場人物を逆光気味に捉えたカットが多く、夕陽がキービジュアルになっている。一部の空の情景などは、ポスプロで雲を入れ替えたりしているようだ。VFXはMPCとかDNEGというエフェクト工房が担当しているようだが、あまり知らないなあ。

究極のセカイ系スリラー!でも意外なことは何も起こらない『ノック 終末の訪問者』

基本情報

Knock at the Cabin ★★★
2023 スコープサイズ 100分 @イオンシネマ京都桂川

感想

■ゲイカップルと養娘の三人が暮らす森の中の一軒家に4人の男女がやってきて、家族のうち誰か一人を殺さないとセカイが滅びるから話し合って選択しろと無茶を言い出す。。。

■実際にそれだけの話で、それ以降も意外な展開はほぼないというシャマラン監督の最新作。でもシャマラン映画を劇場で観るのも何年ぶりだろう。シャマラン映画といえば、独特の狂った運命論世界=シャマラン・ワールドが有名ですが、そしてそこが面白いうえに、サスペンス演出については天与の素質があり、決して侮れないと思います。でも、本作は旧約聖書を持ち出したことで、逆に発想が飛躍しなかった。

■本来なら、カルト信者か?と思わせて推理のプロセスがあって、単なる犯罪だろうと思わせ、さらに逆転があってやはり彼らの言うことは真実か、と思いきや。。。くらいの捻りがないと苦しい。実際、どんでん返しを期待して観に行くわけだけど、本作はどんでんを返さない。シャマランはもうそんな虚仮威しの次元を超えているとも言えるし、肩透かしともいえる。実際、サスペンスは継続して退屈はさせないのだが、ミクロからマクロへと視点が破局的に拡大する面白傑作『ノウイング』があるからなあ。

■ゲイカップルを演じる二人の男優に全く馴染みがないのも苦しいところで、単純に感情移入が進まない。一方の闖入者のリーダー役のデイブ・バウティスタが秀逸で、元プロレスラーらしいけど、知性と暴力を同時に感じさせる凄い個性。看護師のおばさん役のニキ・アムカ=バードという女優もたぶんはじめて観たけど、非常にニュアンスのきいた演技をする人で上手い。前作の『オールド』にも出てたんだね。

参考

やっぱり『ノウイング』って傑作だと思うんだけどなあ。単なるトンデモ映画じゃないよ。
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シャマラン、たまらん。でも『サイン』は傑作だと思います。
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二つの大戦の間を夜に生き、つかの間の天国を手にした男!ベン・アフレック自作自演の任侠映画『夜に生きる』

基本情報

夜に生きる ★★★
2016 スコープサイズ 129分 @DVD

感想

第一次大戦に出征してひどい目にあい、二度と偉い人の命令には従うまいと心に決めたジョーは夜の世界に生きることを誓う。だが愛した女がギャングのボスの情婦だったことから裏切られて入獄、出所すると復讐のためにライバルのイタリアマフィアのボスに取り入って、フロリダの密売酒を牛耳ることになるが。。。

ベン・アフレックデニス・ルヘインの原作小説を映画化したもので、どちらかというと商売路線という気がする。次の『AIR/エア』も一見物分かりの良い娯楽作だったが、むしろそちらのほうが攻めていると感じた。本作はいわばコスプレ的な活劇を狙ったもので、正直なところテーマの絞り込みが甘いと感じる。脚本はベンが自分で書いてますけどね。

■なぜかベン・アフレックの映画って、戦争映画ではないけど戦争に関するドラマになっていて、『AIR/エア』ですらそうだったけど、本作は第一次大戦の戦場でひどい目にあった男が腕と度胸で夜の世界の大物になり、つかの間の幸せを得て、天国はいまここにあると一瞬感じるまでを描くけど、すでに欧州ではナチスが台頭して、第二次大戦がそこまで迫っていることを示して終わる。二つの世界大戦の間の一瞬の成功感の儚さを描く。

■そのなかで、すぐに容赦なく人を殺す無法者のギャングなのに、南部特有の黒人差別に対しては鋭く正論を述べる正義漢として描かれる。利益と権力を貪る悪党は容赦なく瞬殺するけど、黒人や移民などの弱いものには味方して、貧しい人々のために社会投資だってする任侠の男。そう、任侠映画ですねこれ。

■完成版ではカットされたが、ジョーとエマの馴れ初めが実は撮影されている。実際のところシエナ・ミラーファム・ファタールに見えないので苦しいのだが、二人の馴れ初めの場面がカットされたことで余計に苦しくなり、ジョーやボスがなんでそこまでこの女(こんな女)にこだわるのかが腑に落ちないから、心に迫らない。言ってしまえば、主演はベン・アフレックじゃないほうが良かった気もするし、配役で失敗していると感じる。実際のところ、ベン・アフレックは『AIR/エア』の助演の方が冴えてたよね。

参考

ベン・アフレック監督作品。娯楽性は盛りだくさんだけど、実に渋い映画なのだ。特に『ゴーン・ベイビー・ゴーン』は良かったよなあ。
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ベン・アフレックは大根じゃありませんよ。役者としてもハマるといい味を出す。
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スコット・デリクソンの青春スリラー『ブラック・フォン』

基本情報

The Black Phone ★★★
2022 スコープサイズ 107分 @アマプラ

感想

■1978年のコロラド州デンバー。連続少年誘拐事件が起きるなか、主人公フィニーが仮面の男に拉致される。地下室には黒電話があり、突如着電する。電話線は切られているのにだ!

■久しぶりに観たブラムハウスホラーで、お馴染みの「家」を舞台とした低予算映画。脚本と監督もスコット・デリクソンなのでおまかせモードで安心して観ていられる。今回はホラーというよりも、サスペンススリラーといった方がふさわしく、死者からの電話が着電するものの、そこはむしろファンタジーに近い感じ。スコット・デリクソンがマジで怪異を描けばもっと硬派なホラーになるから。

■本作は少年の成長を描く青春映画として構成され、主演のメイソン・テムズも含めて登場する少年たちがみな美少年という変なこだわりは監督の趣味だろうか。普通のアメリカ映画の配役ではないよね。妹が霊能者というありがちなお手軽な設定もスコット・デリクソンが描くと、地に足がついているから偉い。普通はご都合主義になるところだけど、なにしろ監督が真正のオカルト映画『エミリー・ローズ』を撮った男だから、霊視能力の肌合いがナチュラルだね。(しらんけど)少なくとも、サスペンスが効いているから合格ですよ。

■仮面の男をわざわざイーサン・ホークが演じているのも異様で、よほどスコット・デリクソンと意気投合したのか?特に複雑な設定もなく、その意味では工夫のしがいがあるとも言えるけど、脚本に描かれていないことは表現できないので、存在感一発勝負って感じですね。それは演技者としての自信のゆえなのか?

私の居場所はココじゃない!リブート版『ゴーストバスターズ』

基本情報

Ghostbusters ★★★
2016 スコープサイズ 116分 @アマプラ

感想

ポール・フェイグ監督によるリブート企画で、さすがにコメディ映画としては面白いのだが、CGの大量動員によるゴーストの描写とか巨大◯◯とか、あまり怪異そのものにはこだわりがないようだし、そもそも派手なビジュアルも見飽きたのでそこは何とも心が動かない。オリジナルの『ゴーストバスターズ』は1984年の日本公開だからリチャード・エドランドのSFXだけで、なんだかありがたい気がしたよね。

■主人公を女性に置き換えただけでなく、クリステン・ウィグメリッサ・マッカーシーの腐れ縁(?)転じて友情の再確認のお話になっているのは、当時のアメリカ映画の流行に沿ったものだろう。同じ監督の『デンジャラス・バディ』もちょっとそこは商売臭が鼻についたところ。「ブロマンス」なる造語も大概だけど、敢えて言えば「ウーマンス」ですか?

■一流大学に任期なしのポストを獲得寸前なのに昔書いたオカルト本の存在が発覚して、自分の進むべきは公式の真面目な科学なのか、霊的感受性に基づいたオカルト分野なのかを問い直すというお話になっていて、袂を分かった旧友と再会して、封印したはずのオカルト体質が徐々に蘇ってくるクリステン・ウィグのあたりの作劇が実に痛快なので、ドラマとしてはかなり面白い。クリステン・ウィグという名前をはじめて認識したけど、良い女優だね。

■社会性を獲得するために取り繕って積み上げてきた(偽の)仮面をバッサリ脱ぎ捨てて、素の自分に戻る、いや強引に過去の霊的体験に引き戻されて、本当の自分の居場所は一流大学の研究室じゃなくてココ(中華料理屋の二階!)だったと納得する中年女性の自己確認のお話として筋は通っているのだ。このあたりのエピソードの粒立ちの良さは笑いが弾けて気持ちいいし、なかなか上出来。(個人的には笑い泣きだよ!)

■ただ、オカルト活劇としての設定はありきたりで正直つまらないし、肝心のゴーストの表現に愛が感じられない。まあ、言ってしまえばオリジナルの『ゴーストバスターズ』にあったかどうかも定かでないけど。特に今回は新調した大型液晶テレビで観たんだけど、映像のルックがテカテカで、本当にビデオ撮りとかゲーム映像に見えてしまうので困る。ちゃんと映画館で観れば、もっとフィルムルックに近くてグラデーションや自然な奥行き感が出ると思うのだが。

参考

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クリステン・ウィグって『オデッセイ』に出てたんだね。
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あっというまに再リブートされました。
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