リアルな社会派心理サスペンス!NHKドラマ10『燕は戻ってこない』を追跡中!#07更新

■今期のNHKドラマが意欲作だらけで、既に一部で話題になっているけど、実際凄いことになっていて、どんな突然変異が起こっているのだろう?

■『虎に翼』は相当な意欲作であることは理解できるけど、劇としての面白みに欠けるところが気になり、単純に作者が芝居の見せ場、見せ方がわかっていない気がする。『むこう岸』は明らかに傑作な中編ドラマで、シネマカメラで撮っているので、中編映画といっても過言ではない。『% パーセント』はドラマについてのドラマを真面目に大胆に突き詰める気らしい。

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■『燕は戻ってこない』も社会派ドラマだけど、『虎に翼』に感じられないサスペンスとか人間たちの心理状態についても、ちゃんと地に足がついていて、リアルに描かれる。特にお金の問題で主人公に一気に感情移入させるあたりは定番だけど、確実に効果的で、しかも全体にサスペンスが漲っているのが美点。貧乏故にサロゲートマザーになろうとする主人公と、先祖伝来の優秀な遺伝子を残すべくシステムを利用しようとするセレブが並行して描かれるから、サスペンスは自然と醸成されるわけ。まあ、原作小説由来だけどね。

■主役の石橋静河という人も地味にリアルな風貌で良い配役だし、同僚の伊藤万理華のチャラチャラした軽い感じも対比が効いている。なんと伊藤万理華は『% パーセント』では真面目なAP役で主演しているから、演じ分けが凄いことになっていて、演技者としての評価がうなぎのぼり。

■第1話の田中健二の演出も秀逸で、第2話は山戸結希だったけど、第1話の秀逸さが印象深い。第1話にあやしい詐欺師みたいな人が出てきて主人公の運命が変わるという趣向は名作『思い出づくり』を思わせるよね(浜村淳!)。本作では朴璐美が好演するけど、溜めに溜めたケレンたっぷりの演出も良かった。

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■第3話を観終わったところですが、田中健二の演出はやはり良いですね!本作は内田有紀の上手さを改めて認識したところですが、ホントにデビュー当時のボーイッシュな美しさを保ちながら、演技力に磨きがかかって、すごい仕上がり具合です。

■#3では中華料理屋の場面が傑作で、隣のテーブルからおじさんが振り返ると吹越満で、一緒に呑みませんか?の展開には、大笑いだし、最高に楽しい。中村優子って、何かの映画で見ているはずだけど、春画作家(!)役をヴィヴィッドに演じる。性に縛られない(興味のない)自由人として、奔放な言動で、内田有紀の硬くいじけがちな心を解してゆく。そうそう、こういう、いきいきした柔軟な人間関係の絡み合いの面白さが『虎に翼』には見られないのだ。この場面、見事だったので、もう一回観ようっと。しかも蘇州夜曲の演奏まで盛り込んで、面白さ満点の贅沢な趣向。

石橋静河の貧困生活のリアリティも大したもので、毎回身につまされます。ここも田中健二の演出に力が入っていると思います。これ10話まであるんだけど、まとめて一気見したいよなあ。1週間待てないからね。

#4

■義母の黒木瞳が嫁(ただし偽装離婚中)の内田有紀に電話して、「代理母引き受ける人なんてホント非常識だけど。産ませるあなたも…相当よね」と言いたいこと言って、一方的に電話切る場面の凶悪さ。ほんとにキレと間の良い演出は田中健二

■冒頭で石橋静河森崎ウィンの濃厚なラブシーンがあるので、女性監督かと思いきや、メイン演出の田中健二のしごとでした。NHKて、ほんとにラブホ好きだよね。。。

#5

■またまたラブホ登場。NHKどんだけラブホ好きなのか。

■自由になるには結婚すりゃいいのさ。リキはわたしみたいにならないでね。そう言っていた叔母(富田靖子!)の葬儀のために北海道に帰ったリキは、もともと故郷を捨てる気だったらしく、酒は飲むし、昔の男と寝るし、やりたい放題で、どう考えても悪い方にしか転がらないから、嫌なサスペンスが積み上がる。ほんとによくできた心理サスペンス劇です。

■そして常に胡散臭い、朴璐美(ぱくろみ)。本作で名前を認識したけど、ほんとにおもしろい個性の女優だなあ。メインの仕事は声優らしいけど、  もともとの経歴は生粋の演劇人だね。橋爪功富野由悠季て、どんな人脈だよ。

#06

■前話でのリキの自由すぎる振る舞いが観るもののヒヤヒヤ感をざわざわと掻き立てたわけだけど、今回は例の春画作家(中村優子)が、そこにがっつり食いついて、アシスタントに雇うことになる。面白い、あんたイケてるわ。代理母プロジェクトに胡散臭さを感じる(当然だけど)彼女らしいアンチの言動だけど、それはそれで、あんたも大丈夫か?あんたのほうが心配だけど、という感慨を誘い、やっぱり、嫌な予感しか生まない。そこのところが、いや面白い。毎回これだけサスペンスを喚起してくれるドラマも、近年珍しいなあ。

■最近のドラマはとってつけたような不自然なサスペンスとか、どうでもいい謎とか、そんな底の浅い趣向ばかりで、大人には付き合いきれないけど、本作はなかなか地に足のついたサスペンス仕立て。基本的には原作由来だろうけど、脚本の長田育恵の腕がいいのかなあ。女優陣の演技が見応えたっぷりなのは、メイン演出の田中健二の腕のような気はするけど。

#7
■ついにリキのもとに出現した基(稲垣吾郎)の母(黒木瞳)は、でも重いつわりに苦しむ妊婦のために、細かいアドバイスもするし、せっせと作りおきの食事も用意するし、至って甲斐甲斐しく接する。でもその後で、あれは違う人種だとか、あそこは工場だったとか、散々露骨に差別的な悪態をつき、なんだかとても不愉快だわと述懐する。

■リキのマンションで甲斐甲斐しく動き回る彼女は、自分の孫を護る打算からするのではなく、母として(?)女として(?)本能的に(科学的に不適切な表現!)そう振る舞ってしまったようにも見えるし、最終的にとても不愉快に感じるのは、リキを一方的に軽蔑しきれない、自分の矛盾を認識し始めたからだ。完全に人種が違うと切り捨てることができていれば、その不愉快さは生じないはずだから。

■このように、単純なステロタイプではない振幅のある人間像を提示して、人間がしっかり描かれているのが立派なところで、どこまでが原作由来で、どこが脚本家の工夫なのか、いまはまだ判然としないけど、ドラマとしてのレベルは非常に高い。

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