エミリー・ローズ ★★★★

THE EXORCISM OF EMILY ROSE
2005 スコープサイズ 120分
MOVIX京都(SC2) 

 19歳の娘エミリーが不審な死をとげた。裁判のなかで、悪魔が憑依したと考えた両親と娘が神父に悪魔祓いを依頼していたことが明らかになる。真相は精神疾患と主張する検事と、悪魔の実在の可能性を主張する弁護人の間で法廷は揺れ動くなか、神父はエミリーの残したある言葉を明らかにする・・・

 アメリカで実際に起こった事件の実話(!)を映画化した本作は、ちょうど「エクソシスト」と「震える舌」の中間点に位置する法廷劇である。物語の枠組みは典型的な法廷劇で、主人公のローラ・リニーは出世欲の強い嫌味な弁護士からこの事件を通じて生まれ変るまでの物語なのだ。

 しかし、奨学金が採択されて喜び勇んで大学に入学した健康な娘の姿と、検視の際の無残な顔写真を冒頭で対比して、何が彼女をこうした変貌に追いやったのかと問い詰めていく姿勢は、テーマの追求に一部の隙も無いことを予見させて、実に怖い。近年のホラー映画では最も怖い映画の部類に入る。

 実際、法廷劇としての辻褄の合わせ方も見事なもので、最後にはちゃんと感動的なエピソードも用意されているが、事実関係の追及の仕方が、黒澤明の「羅生門」を参考にしたというだけあって、超自然の現象なのか、精神疾患によるものなのか、どちらでも解釈可能なように構成されており、作者の姿勢はあくまで真摯である。

 そして、悪魔の憑依により激しく衰弱してゆく娘を演じたジェニファー・カーペンターの怖いこと。奨学金合格を喜ぶその顔つき、表情が、明るさの中にしっかりと後の惨劇を予感させる不憫さを併せ持っているのは、監督の演出の賜物だろうか、彼女の資質だろうか。彼女が目撃する悪魔のビジョンそのものは大した表現ではないが、MOVIXの音響効果は抜群で、重低音が床をびりびり振動させ、彼女の追い詰められる恐怖を体感させる。

 そして、公判の最後に神父によって明かされる彼女の遺言の意味が重く、切なく、彼女の短い人生を意味を問いかける。ここで恐怖は人間の選択の意志に対する感動へと一気に転換する。スコット・デリクソンという監督、侮れない男だ。

 しかし、彼女の遺言の持つ意味を裏側から解釈すれば、神父とその背後にある教会の持つ意図といったものが疑われ始めることにもなり、この映画はそのことも否定はしていない風に見える。そこがこの映画の恐ろしい企みなのではないか。

 撮影監督はイーストウッド組のトム・スターンで、悪魔憑きのリアリティと異常さを迫真の映像設計で描き、この映画の格をワンクラス押し上げている。寂寥感あふれる娘の生家のロケ撮影や、クライマックスの幻想シーンなどが絶妙。

 「輪廻」とは異なるアプローチで、現世以外の世界の実在を真正面から探った意欲作で、おそらく本年最も怖い映画となるに違いない佳作である。必見といっておこう。

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