基本情報
第七の封印 ★★★★
1957 スタンダードサイズ 97分 @NHKBS
感想
■おれは十字軍に10年間も身を捧げて、自分の城に帰る途中だけど、里も村も黒死病に侵され、みんな世界の終末を確信している。でもおれの悩みは、従軍であまりにも酷い目に会いすぎて、かつて信じた神を信じられなくなったことだ。ホントに神はいるのか?不吉につきまとう死神に聞いても神も悪魔も知らんというばかりだし、悪魔に聞こうと思って魔女狩りの少女に接近しても果たせず、全ては虚無に帰すしかないのだろうか?
■イングマル・ベルイマンの代表作で、なんとなく陰気な湿っぽい観念的な硬い話を想像していたので、録画したまま永らく敬遠していたのだけど、これ実に面白い寓話劇で、結構立派な怪奇映画じゃないか。しかも、後年のATG映画みたいな浮足立った観念劇ではなく、リアルな生活実感に根ざした寓話劇であるうえに、観客を歓待するために、いろんなくすぐりを入れてサービス満点であるところが貫禄を感じさせる。そもそも死神がチェス好きだけど下手なので、延命を図ることができるというあたりは、日本人には落語の世界。
■末法の世を練り歩く踊り念仏、じゃなくて自らを鞭打つ狂信団のスペクタクル演出も力感があるし、ベルイマンの演出は非常に娯楽映画としての作法にこだわっている。興行的にヒットしたいという気持ちがかなり強かったのではないか。幻覚(?)癖がある旅の道化師が死神を見て死の運命を逃れるけど、その前に幼いキリストをあやすマリア様の幻覚を見ているから、彼にとっては神の実在は、実感そのものなのだ。だから最終的に生き残ることができたのだが、主人公の騎士は、神の実在を感じることができないまま、苦悩の中で仲間たちと終末を迎える。
■でも、旅の途中で拾った若い女は、死神の来訪を涙を流して喜ぶ。「終わりなのですね」 生きること自体が苦悩であり、苦痛である貧民にとって、現世からすべての苦痛な涙が洗い流されるという闇の世界に渡ることは、それも救いであるからだ。そこに神がいるかどうかは別の話だが、彼女はそう信じているのかもしれない。
■まあ、神がいなければ虚無だというのは極端すぎる話で、監督は主人公の騎士の立場で苦悩し、旅芸人のように無邪気に直感できる能力があれば、楽に幸せになれるのにと夢想している。いや、そういう極端な考え方がいかんのですよ。と、40歳前の若造ベルイマンに教えてあげたい。
■低予算映画らしく、ロケ主体だし、ラストの城内のセットもロジャー・コーマンの映画より貧弱(残念!)だけど、気合の入ったリマスターのせいもあり、モノクロ撮影が宮川一夫レベルで精細。
参考
明らかに『第七の封印』の影響下にある実話ホラー。神がいるかどうか、裁判で白黒つけてやる!という豪快実話。
maricozy.hatenablog.jp
様式美では負けていない、というか凌駕した気もするロジャー・コーマンの力作。これも明らかに影響下にありますね。
maricozy.hatenablog.jp