トータル・フィアーズ ★★★☆

The Sum of All Fears
2002 スコープサイズ 124分
DVD

■長大な原作小説を換骨奪胎してわかりやすいサスペンスに仕立てたところに不満を感じる人もあるだろうが、十分によくできたサスペンス映画。何しろ、9・11の直後にボルチモアで小型原爆(戦術核)が爆発して20万人の米国民が犠牲になるという大惨事を堂々と描く。アメリカとロシアの疑心暗鬼が世界戦争を誘発する直前、ジャック・ライアンはどう動くのか?

ボルチモアの爆心地はもちろん直接は見せず、風向きで死の灰が降らなかった地区をジャック・ライアンは右往左往するわけだが、このあたりは9・11を経てもまだアメリカ人は暢気なものである。ラストも20万人が死亡した割には暢気に平和を謳っているし、爆心地付近で被爆したはずの大統領も元気そうだ。本来ならラストはボルチモアの爆心の見える場所に持ってくるべきだが、そこまでの根性は無い。基本的にはトム・クランシーの大看板を免罪符として、9・11のトラウマを上手に商売に使った映画で、『クローバー・フィールド』や『宇宙戦争』のような批評性と思索はない。

■でも、ホントに演出や編集や音楽が抜群に良いので、観始めると止められないのだ。ボルチモアのスタジアムの場面はホントに名場面で、気づいた時にはすでに絶望的に手遅れという腰の抜けるような驚愕は圧巻。一般市民はほっておいて、自分たちだけが恥も外聞もなく逃げ出すというのもリアル。その割に大統領は最後まで無事というのは勧善懲悪に背くことになるから、スッキリしない。

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