ジェイコブズの「猿の手」てそんなに有名なの?わたしは慈愛で世界を救う『ワンダーウーマン1984』

基本情報

Wonder Woman 1984 ★★☆
2020 スコープサイズ 151分 @アマプラ

感想

■舞台は1984年、謎の遺物「願いを叶える石」にダイアナが願いをかけると、死んだはずのスティーブが現れる。一方、詐欺的な石油採掘事業が破綻したマックスは石を手に入れ、ある願いをかけると。。。

■前作のVFXがしょぼすぎたので、わざわざ冒頭にセミッシラ島のオリンピックのエピソードを置いて、ちゃんとやればできることを証明する必要があった、ということかな。正直、お話には直接関係ないので、動機はそれだけだと思います。

■肝心のお話はかなりファンタジー寄りで、なんとジェイコブズの「猿の手」を下敷きにしている。しかもみんなそのお話は知っている前提で会話をしているから凄いね。さすが欧米ではそんなに有名な怪奇短編なんだね。

■正直舞台を1984年にした意味もあまり感じられず、米ソ冷戦の危機感もリアルには描かれないし、リアリティラインはスーパー戦隊と同じくらい。1984年といえば『ゴーストバスターズ』『グレムリン』『ゴジラ』の時代ですけどね。世界大戦の危機感の映像表現も妙に薄っぺらで、背後で右往左往するエキストラも半笑い気味(に感じられる)

■悪役のマックスという男の薄っぺらさと虚妄性がこの映画のテーマと結びついているけど、結局は貧乏な移民出身ゆえの歪んだ野心ということになり、その決着も、本当に自分にとって一番大事なものはなんだ?という問い掛けに集約される。経済的な成功や社会的な認知や野望の充足がそんなに大切なのか?と問いかけるけど、でもマックスという男の人間像がやっぱり薄っぺらなので、感動的にはならない。ここはもっとリアルな人間像が必要なところ。

■一方、強くて賢くて美しいダイアナにちょっと同性愛的なあこがれをいだく同僚の中年女(年上だよ)をクリステン・ウィグが演じて、面白い役柄を力演するけど、最終的にCG豹女になってしまうのが残念なところ。中盤のホワイトハウス通路の決戦はアクション演出も冴えた見せ場だったのに。多分、パティ・ジェンキンスが監督が、自分自身の自己認識(美人でも強くもない自分自身)を投影したキャラクターだと思うんだけどね。

■ドラマがアクションではなく、全人類につながったテレビ回線に向かってダイアナが直接語りかけるところがキモになっているのもちょっとユニークなところで、超人的な行動や腕力で人類を救うのではなく、言葉による説得と共感によって世界を救うのだという強い意志が感じられる。それに、常に子どもたちの危機を救うことに意欲的なヒロインとして描かれ、未婚だけど母性的な慈愛を感じさせるところがユニークであり感動的な美点。

■前作の反省をこめてVFXにはそれなりに力が入っていて、でもアクションの見せ場は冒頭(の蛇足)を除くと意外と小さくて、むしろ透明化した戦闘機で花火大会の上空を遊覧する場面とか、ダイアナが元恋人のアドバイスに従って飛行能力を手に入れるあたりのロマンティックな場面のVFXが優れていて感動的。

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