宍戸錠の浪速モノはチト厳しいのだ『現代悪党仁義』

基本情報

現代悪党仁義 ★★☆
1965 スコープサイズ(モノクロ) 103分 @DVD
企画:水の江瀧子 原作:佐川桓彦 脚本:若井基成 撮影:山崎善弘 照明:三尾三郎 美術:千葉和彦 音楽:三保敬太郎 監督:中平康

感想

大阪府警の元警部が明かした詐話師の実話から構築した犯罪コメディ映画で、当然ながら大阪ロケも敢行したが、どうもいまいち弾けない凡作。

■冒頭に当時の防衛予算に相当する3000億円ぶん稼いで「詐話師自衛隊」を創設したれ!と怪気炎を上げた割に、加古川の刑務所で同じ房だった殺人犯のおっさんのために80万円の借金の取り立てを請け負うというお話で、あまりにショボくて、竜頭蛇尾。。。

宍戸錠は『河内ぞろ』シリーズなどで浪速映画には馴染みがあるのだが、そもそも演技の上手いタイプではないので、河内弁も大阪弁もオーバアクトで、浪速映画らしい情感があるわけでもなく、しょうじき観ていて落ち着かない。田宮二郎のまくし立てる舌鋒の滑らかさには到底及ばないし、地に足がついていない感じが拭えない。他のキャストも意図的に関西系の俳優を使わない方針で、というかいつもの日活脇役勢で賑やかにという趣向だけど、意外にも中平康ってコメディが冴えない。同時期でもこれがヤクザ映画なら、同じメンツがリアルに怖いヤクザを演じるのに。土方弘だって天坊準だってそうだ。

■この時期の中平康の演出はすでに酒飲みながら演出していた頃なので、1カットでいけるところはワンシーンワンカット、しかもキャメラはフィックスで乗り切る方針で、特にセット撮影は長廻しが基調になっているけど、これもテンポを悪くしている。例えば森一生も、喜劇俳優を揃えた映画では、その芸に委ねて敢えてカットを割らず、キャメラはフィックスでそのまま撮るというスタイルで確実に笑わせたものだが、要は芸の力次第というところがある。本作の場合、せめてカットを割って弾けるテンポを出してくれないと、お話の薄さゆえに持たない。後で撮った『結婚相談』ではもっと的確にカットを割っていたけどね。

■ホントに良いところが見当たらないので、困った映画。藤村有弘も小沢昭一も特別出演で、このクラスがもっと本格的に絡んでくれないと面白くならないよね。

参考

増村保造のこちらの方がぜんぜん上出来でっせ。『現代インチキ物語 騙し屋』
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中平康はこうした人間喜劇は得意だったのだ。特に『才女気質』は傑作。でも、喜劇よりも暗い映画が実は資質じゃないかという気がする。
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怪獣映画✕三木聡一座の脱力コメディ=円谷プロ!ホントに大丈夫か?『大怪獣のあとしまつ』

基本情報

大怪獣のあとしまつ ★★★
2022 ヴィスタサイズ 115分 @アマプラ
脚本:三木聡 撮影:高田陽幸 照明:加瀬拓郎 美術:磯見俊裕 音楽:上野耕路 VFXスーパーバイザー:野口光一 特撮監督:佛田洋 監督:三木聡

感想

■劇場公開時にやたらと酷評が相次ぎ、みなさんはいったい三木聡の映画とわかって観ているのか?と疑問に思ったところですが、やっと観ることができました。確かにバランスが歪なのは分かりました。酷評を呼ぶのもわからんでもないです。でも、三木聡の映画なので、期待通りの脱力ギャグもちゃんとあるし、狙い所としては実相寺昭雄ウルトラマンだし(言っちゃった!)、ウルトラマンティガの「怪獣が出てきた日」だし、悪くないですよ。問題があるのは、主演の山田なんとか君の風貌が悪人にしか見えないことと、尺が長過ぎることですね。2時間は長いよ。再編集するともっと良くなる気がする。

■特撮的にはさすがに金がかかっているので、できの良いカットは非常にリアル。怪獣を中心に据えたロングショットなどは非常にクオリティが高い。でも、怪獣の身体の上で登場人物が活躍するカットはすべて残念な合成カットだ。特にクライマックスの山田くん絡みの合成カットは全部やり直すべき。中盤の見せ場であるダムバスターのあたりは、やっぱりミニチュアワークで豪快な爆破と濁流を見せてほしかったよね!せっかく佛田洋が特撮監督なんだからね!

■世評が低かったのは、福島原発やコロナ禍を取り込んだ世界観がリアルシミュレーション風に描かれるものの『シン・ゴジラ』ほどの完成度ではないし、コメディ風味もハリウッドのブラック・コメディ風でもない、独特の三木聡ワールドなので、馴染みのない観客は岩松了ふせえりのくだらないおふざけについていけないのも理解できる。特に序盤は全ての脱力ギャグがすべりがちだけど、中盤はいつもの三木聡らしく結構笑える映画になっているので安心したけどね。ただ、怪獣一匹と戦うために徴兵制が敷かれる世界観には違和感があり、そこまでやるならテーマ的には最後に首相が倒されないと画竜点睛を欠くというもの。個人的にはそこが一番引っかかるポイントだった。

■実相寺テイストの「水洗トイレ作戦」「焼肉屋の換気装置作戦」の釣瓶打ちのあたりは素直にサスペンスとスペクタクルも成功しているし、アイディアとしては決して悪くない。いやむしろ王道だと感じる。オダジョー特別出演のダムバスターの活躍は素直に燃えるし、そのおそまつなくだらない結末もちゃんとビジュアルなコメディになっている。染谷将太の無駄遣い、◯◯◯男のシーンも秀逸だと思います。銀杏の次は◯◯◯?居酒屋のメニューか!?は良いと思います。だって◯◯◯は映画に欠かせない要素なのです!だよね?

ウルトラマン好きを公言する珍しい女優、土屋太鳳は『ウルトラマンゼロ THE MOVIE超決戦!ベリアル銀河帝国』のエメラナ姫以来久しぶりに映画で見たけど好演で、ホントに好きそうに演じているので気持ちいいですよ。例のラストシーンなど、ホントに演じて嬉しかったでしょうね。一方で旧友と堂々と不倫してる発展家ですけど、若いからしょうがないよね!だってどうみても精気満々なんだもの。健康的ってことですよ!誤解のないように。

■もともとは松竹主導の企画で動き出したものの、低予算コメディではなく本格的に特撮映画にしたいので東映の参加を求めたという製作経緯は配役に顕著で、西田敏行濱田岳の釣りバカコンビは嬉しいところ。ただ濱田岳が完全にシリアスな役柄なので、二人のアドリブ合戦が基本的にないのは残念。せっかくの二人なのにね。いっぽうで三木組常連の岩松了ふせえりが例によってくだらない掛け合いで大活躍で、特にふせえりは目立ちすぎ。もちろん「布施絵理」時代を知っている世代や『時効警察』ファンにとってはごちそうだけど、一般の観客は戸惑うわなあ。。。なにしろ監督の嫁さんだからね、大役なんですよ!ザ・怪獣に刺さった女!

参考

三木聡はこんな映画を撮っていた人ですよ。でも結構いい映画があるんですよ。
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土屋太鳳といえば、これ。これしか知らない。しかもかなりの秀作なんですよ。
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映画と◯◯◯はなぜか相性が良いんですね。◯◯◯といえば、これですね。
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よく生きるとは、よく死ぬ事なり。神か?悪魔か?『鯨神』

基本情報

鯨神 ★★★
1962 スコープサイズ 100分 @アマプラ
企画:米田治、竹谷豊一郎 原作:宇能鴻一郎 脚本:新藤兼人 撮影:小林節雄 照明:渡辺長治 美術:間野重雄 音楽:伊福部昭 造形美術:大橋史典 特殊技術監督:小松原力 監督:田中徳三

感想

■祖父、父、兄を凶暴なセミクジラ鯨神に殺されたシャキ(本郷功次郎)は鯨神を殺すことだけを生きがいにしていた。鯨名主(志村喬)は鯨神を殺した者に家督と一人娘(江波杏子)を渡すと約束するなか、粗暴な流れ者紀州勝新太郎)が村娘エイ(藤村志保)に乱暴して子が生まれると、シャキは自分の子だと証言する。。。

■お馴染み?宇能鴻一郎芥川賞受賞作の映画化。特撮映画マニアにはおなじみの大作だけど、大橋史典の造形物はいつものように造形的な見栄えは立派で、卓越したセンスなのに、まったく柔軟性がなく、操演ができないため、撮影現場では常にお荷物になってしまうので、結局高山良策などに操演用の小型モデルが発注されることになる、なんてエピソードが有名ですね。実際のところ、大型の造形物はハリボテにしか見えず、ラストの浜に遺棄された頭部なんかも、まったく生物感がない。なので、ステージセットで撮影された鯨神の場面や船上の場面はどうしても苦しい。致命的に苦しい。

■なにしろ脚本を書いた新藤兼人自身が原作小説を「ゲテもの」と断じ、「『鯨神』は好きではありませんね。」と言い、「だからこっちも焼けくそで書いている。」と正直に告白しているので、やはり食い足りないのは事実。せっかくキリスト教の信仰がある村なのに、村の土俗の部分が描かれないし、鯨を捕って生活する庶民の生活史的な要素も皆無で、全体に観念的な描き方になっているのは、追加取材もなしで、書いたからだろう。これが笠原和夫だったりすると、当然に追加取材して仕込んだネタを盛り込むはずだ。

■特に解せないのはせっかく勝新太郎を配役しながら紀州という流れ者の刃刺しの人となりを全く描いていないことで、活劇映画なら欠かせないバックポーンの部分が全く描かれないから、単なる粗暴な男なのか、悪魔的なサディストなのか計りかねる。終盤のシャキと紀州の思いが相通じる場面は伊福部節の威力でしっかりと感動的なのに、もったいない限りだ。それに、いくら村の嫌われ者といっても、紀州の死骸が遺棄されたままというのも解せない。いちおう村民はキリスト教徒なんだから、いくら流れ者とはいえ、形だけでも弔いくらいはするだろうし、教会も示唆するよね、普通。

■実は最初にスクリーンで見たときに特撮云々よりも強烈だったのは、墨汁で描いたようなドキュメンタルな荒々しいモノクロ撮影のタッチで、モノクロ映画の表現力の深さに撃たれたこと。キャメラマン小林節雄の名を覚えたのも本作による。いや、増村保造の映画はテレビで観ていたけど、モノクロ撮影のこんなタッチは観たことがなかったのだ。

■鯨神を殺すことに憑かれた鯨名主を演じる志村喬はかなりの熱演で、さすがに説得力溢れる名演と言ってもいいと思うし、藤村志保は脚本が描きこんでいない村娘のニュアンスを自然と体現するから立派なもの。東映時代劇なんかではかなりステロタイプな演技になりがちな役どころだけど、歩く姿の足運びだけで役の情感を醸し出してしまうから感心する。ホントに藤村志保は若い頃から天性のいい役者だったのだ。改めて観て凄いと思いましたよ。対する名主の娘の江波杏子は演技の質ではなく、もっぱらビジュアル重視の撮り方で、照明効果と造形美で映画的な表情を切り撮るスタイル。それはそれで江波杏子の天性の素質で、怜悧で鋭角的なビジュアルは、まさに映画のための造形美。

キリスト教的には鯨神は悪魔と呼ばれ、悪魔に魅入られてはいけないと諭されるのだが、村民にとっては日本古来の荒ぶる神として描かれる鯨神。最終的に鯨神を仕留めたシャキは鯨神と自分の一体感のなかで息絶えてゆく。神と悪魔。他者と自己。死と再生。それは対立構造ではなく、循環構造であるという哲学的な宇宙観(われながら良いこというなあ!)が示唆されるお話だが、実際のところ脚本が煮詰まっておらず、多分新藤兼人もそのあたりは腑に落ちないまま書いてますね。正直、新藤兼人の守備範囲ではなかったと思いますよ。断ればよかったのにね!

お銀さんは男と女の情念の世界には深入りしないのだ!お馴染みシリーズ第十五作『女賭博師花の切り札』

基本情報

女賭博師花の切り札 ★★★
1969 スコープサイズ 85分 @アマプラ
企画:神吉虎吉 脚本:石松愛弘 撮影:中川芳夫 照明:間野重雄 美術:伊藤幸夫 音楽:鏑木創 監督:井上芳夫

感想

■なんとシリーズ第十五作で、実質的にシリーズのメイン監督である井上芳夫の作品。この頃、大映はすでに末期状態で、市川雷蔵も死んでしまったし、田宮二郎も破門してしまったし、若尾文子は結婚して作品のチョイスが難しくなるしで、スター不足状態なので、低予算で受けるシリーズ物への依存が高まり、そのなかで女賭博師シリーズも粗製乱造気味に連作された。そのため、ドラマ的には突き詰め方が足りず、東映任侠映画の濫造の中でいくつかの非常に完成度の高い傑作が生まれたのに比べると、どうしても見劣りするのは仕方ないか。

■素走りの浅造(天知茂)との勝負に負け、三田村組を解散させてしまった銀子はそれを悔やんで、三回忌法要の供養盆のために自ら資金集めのために全国を流れ歩くが、兼松組の妨害工作で、朝造は負傷し、いかさま賭博も辞さないと公言する夜泣きの半次(津川雅彦)が胴師に起用される。。。

■本作は天知茂船越英二津川雅彦と脇役が充実した作品で、船越英二が完全に老け役として登場するのが感慨深い。前年には『盲獣』の主役を張ったのだが、本作は完全にベテラン俳優による助演というポジション。まあ、それだけ演技力に定評があったということでもあるが、少し寂しい気はする。すでに活躍の舞台をテレビに移していたのだろう。しかも、自分も賭博師ながら腕の筋を切られて身代わりとして銀子を仕込んだという役どころなので、男女師弟のドラマ的な発展を期待することろだけど、実はこれは不完全燃焼に終わり、もったいない限り。銀子を育て、押し立てながら、ヤクザ稼業の柵で、銀子を裏切ることになる美味しい役なんだけど、やっぱり銀子との間の男と女の感情が絡まないと嘘に感じる。なぜだか男と女の情念の世界には深入りしない主義なのだ。

■このシリーズは非常に面白い人間関係の設定を配置しながらも、その人間関係のドラマには意外と中途半端に決着をつけてしまうというドラマツルギーがあり、ドラマとしては煮え切らない弱点がある。本作もその例外ではない。そこをちゃんと突き詰めれば東映任侠映画の傑作に迫ることができたのに、惜しい限りだ。そこのところで成功しているのは第一作の『女の賭場』くらいだろう。あれは完璧な塩梅だった。しかし、大映末期とは言え技術スタッフの働きは見事なもので、本作も中川芳夫のキャメラが冴える。構図も照明も実に重厚なのだ。

■銀子に対するライバルとして登場して、徐々に親身なメンターに変貌するのが天知茂で、このキャラクターも面白いのに、ちょっと描ききれていない。戦争にとられてサイコロを転がしながら明日の命を占ったという苦労人で、だから命だけは粗末にするなと諭す大人で、戦中派世代のリアリティがさらりと描かれる。この人物も扱いがもったいないままに終わる。これが東映なら。。。

■しかし、最終的に三田村組が組を再興するという結末は安易すぎてあまりに古臭く感じる。すでに現代ヤクザを描き出していた東映に比べると、旧弊な任侠映画に準拠していると感じるし、やくざの組が再興しておめでとうと言ってられる時代ではすでになかったはずだと思うのだ。端的に言って、時代錯誤に感じられる。今のコンプライアンス云々の基準を持ち出すまでもなく、当時の感触としてすでに古かったはずだ。

参考

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日活映画の方が実は早かったという歴史的事実。野川由美子の『賭場の牝猫』シリーズがありました。
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あては矢島商店の総領娘だっせ!船場の大店の遺産相続を巡るドロドロ愛憎劇『女系家族』

基本情報

女系家族 ★★★
1963 スコープサイズ 111分 @アマプラ
企画:土井逸雄、財前定生 脚本:依田義賢 撮影:宮川一夫 照明:中岡源権 美術:内藤昭 音楽:斎藤一郎 監督:三隅研次

感想

船場の老舗矢島商店の当主嘉蔵が死去すると、巨額の遺産相続を巡って美人三姉妹が対立する。なかでも出戻りの総領娘である長女(京マチ子)は気位が高く、激しく自己主張を繰り返す。大番頭の宇市(中村鴈治郎)が遺言執行を取り仕切るが、なにやら一物ありそうで、胡散臭い。さらに、隠し妾文乃(若尾文子)の存在が明らかになり。。。

山崎豊子の新聞連載小説をさっそく映画化した大映京都製作の文芸映画。スタッフは大映京都撮影所の一級技術者を揃えたが、なぜか配役はこじんまりしているところが、いかにも大映東映ならまずオールスターで固めるところだが、大映の場合は美術セットや技術コストが優先的に予算措置される。そもそも美人三姉妹が、京マチ子はいいとして、次女がなぜ鳳八千代なのか?三女が高田美和というのは、新人売出中なのでしかたないけど、あまりパッとしない。(個人的な趣味の問題です)

■なにしろ山崎豊子の定評ある船場ものなのでドラマ的にはみどころ満載で、メリハリの効いたドラマティックな、というかえげつないお話と人間関係が展開するので面白いのは間違いない。でも先に見た『女の勲章』に比べると見劣りする。以前にも一度観ているのだが、意外と印象に残っていないのは、その地味さによる。世界的名手である宮川一夫キャメラは、多分カラーの発色をラボ処理で抑えており、映像のルックからして地味。『女の勲章』のアグファの渋いけど独特のゴージャスなコクのある発色に比べると、どうも見劣りする。

■地味といえば三隅研次の演出も地味で、お話の見せ場としてはケレンに欠かないのだが、こうした文芸映画と相性が良いとは思えない。もっとメロメロしたメロドラマのほうが実は相性がいい気がする。実は田中徳三あたりのほうがフィットするのじゃないかと思うけどね。さらに脇で暗躍する中村鴈治郎北林谷栄のアクの強いコンビも面白いんだけど、地味だなあ。

京マチ子の踊りの師匠で不動産には詳しいから、遺産相続で損しないように協力しまっせと、こちらも腹に一物含んで助力するのが田宮二郎だけど、こちらはわりと小さい役どころで、『女の勲章』のような派手な大活躍はないのも、寂しい。とにかくスタッフみんなが大映京都らしく地味好みなんですよ!音楽が斎藤一郎というのも印象を地味にしていて、例によって華のない曲調で文芸映画というニュアンスではない。これも個人的な好みの問題ですけどね。でも、林光とか池野成とか山内正だと、イメージは相当違ったよね。

■ただ劇的な見せ場としては実に秀逸で、役者はみな上手い。特に本家を訪問した若尾文子に対してえげつない挑発の仕方で、妊娠の事実を暴く浪花千栄子の舌鋒の鋭さと怖さは、まるで恐怖映画。この場面は文句なしの傑作で、役者冥利に尽きる見せ場だろう。でもこんな怖いオバサン、昔はいましたよね。。。

■三姉妹が医者と一緒に若尾文子の家に押しかけてホントに妊娠しているのか診断させるろと迫るえげつない場面も凄くて、医師が母体の診断中なのに部屋に乱入する場面も一種の恐怖映画ですね。でも、遺産相続となると、誰しもこんなことをやりかねないところがあるのは知っているので笑えず、震えるわけです。嫌なもの見せますよね。山崎豊子だから。

■最終的な逆転劇もドラマとしてはもちろん万全なんだけど、それ以前の浪花千栄子の見せ場なんかが先鋭だったので、なんだか尻すぼみ感は否めず、そもそも矢島商店に番頭から入り婿として当主に就任して、家業のために自分を殺して地味に生き抜いた(と思われていた)目立たぬ父親嘉蔵の、女系家族に対する念入りな反逆のドラマという構図が、原作小説ほど明確に打ち出されず、古い船場の伝統に固執する総領娘が戦後という時代の変化に順応するところに集約するのは、ドラマの焦点を見えにくくしている気がする。ほんとは『犬神家の一族』みたいなお話なんだよね。

国立大仏文科卒のコテコテ浪速商人?そんなヤツおらんやろ!の面白群像劇『女の勲章』

基本情報

女の勲章 ★★★☆
1961 スコープサイズ 109分 @アマプラ
企画:土井逸雄 原作:山崎豊子 脚本:新藤兼人 撮影:小原譲治 照明:久保田行一 美術:間野重雄 音楽:池野成 監督:吉村公三郎

感想

船場育ちの”とうはん”式子(京マチ子)が3人のデザイナーの弟子たち(若尾文子、叶順子、中村玉緒)とファッション学校を立ち上げるが、経営の実権を握ったのは、国立大学仏文出身だが根っからの商売人気質の銀四郎(田宮二郎)だった。各地にスクールチェーンを拡大するたびに、彼女たちと体の関係を持ってゆくが、式子は銀四郎の恩師の大学教授(森雅之)に心惹かれてゆく。。。

大映がまだまだ経営的に余裕のあった頃に新聞小説の映画化として製作された本作、さすがに贅沢な作りで、アグファカラーの渋い色調もリッチ。脚本は新藤兼人だけど、オリジナルの小説が単純に面白いので、当然外さない。監督はコンビの吉村公三郎で、個人的にはモノクロで撮影するときより、カラー映画のほうが冴えるという印象がある。本作も色彩設計のアレンジとか、キメキメの構図と照明効果とか、オブジェの使い方とか、単なるビジュアルな意匠を超えてセンスが良い。これがモノクロ映画だとリアリズムに対する透徹もないし、映像派の資質も生きない。文芸作品の『越前竹人形』なんて任じゃないと感じたし、意欲作『その夜は忘れない』だって、攻めきれていない。

大映のスター女優を4人も揃えた豪華版で、それぞれに見せ場もきっちり用意されているのは当然としても、実質の主役は銀四郎を演じる田宮二郎でしょうね。当時この演技で大注目されている。当然ですね。なにしろ大量の台詞を早口で喋り抜ける爽快さ。しかも当然のことながら、コテコテの大阪弁田宮二郎大阪弁ネイティブなので見事にこなすが、これが実は仇でもあって、銀四郎という京大(多分)仏文科卒には全く見えず、感触としては高卒叩き上げの根っからの大阪商人の成り上がりにしか見えない。男前の見栄えは文句ないのだが、本来なら台詞にもう少し知性が感じられるべきところだろう。山崎豊子の原作どおりかもしれないけど、ここが本作の一番のネック。巧すぎて上滑り、それは人格の軽薄さを示しているのだが、知性は必要だった。さらりと仏語を披露する場面などがあればいいのに。

若尾文子はもちろん見せ場を浚うけど、中村玉緒も非常に役得で、短い出番ながら強烈なキャラクターを的確に演じる。おっとりしたお嬢さん風で常にボンヤリした言動の彼女だけど、実は銀四郎の思惑などぜんぶお見通しで、師匠や他のデザイナー仲間の動向も全部知っているけど、言ったところで得にもならないので、知らん顔をしているだけという現実的なチャッカリ娘。断言します、こんな娘は実在します。全部台詞でコンパクトに表現するわけだけど、見事な説得力なので、圧巻ですね。昨今では、こうした役柄は全部説明的でご都合主義に見えてしまうでしょうね。

■なにしろ大作なのでフランスロケでないけどフランス場面もあり、夜間飛行の旅客機のシーンはクレジットはないけどおそらく時期的にピープロの下請けによる卓抜なアニメ撮影でしょう。実際のところ、終幕はいまいち説得力不足で、本来なら銀四郎がもっとやり込められるか、女達がよほどの反撃をしないと締まらないのだけど、そこはちょっと弱い。新藤兼人の脚本の特徴でもあるけど、そこはあっさりしていてあまり押さない。でも、映像表現としての銀四郎の孤立感とデッドエンド感は見事に表現するから凄い。シネスコの画角を生かしたラストショットの技巧的かつグラフィカルな構図は見事。リアルに考えれば、銀四郎は脱税なんかでしょっぴかれるタイプの人間なので、そう纏めればいいのにとも思うけどね。脱税してるに決まってますよね、あの男!

金井克子がヒロインに大抜擢!でもストリッパー役だよ!『暴れ犬』

基本情報

暴れ犬 ★★
1965 スコープサイズ 92分 @アマプラ
企画:辻久一 脚本:藤本義一 撮影:今井ひろし 照明:伊藤貞一 美術:太田誠一 音楽:大塚善章 監督:森一生

感想

田宮二郎の犬シリーズ第4作。このシリーズの藤本義一の脚本って、いたずらに複雑なプロットになっていて、画面に登場すらしない人物の復讐のために手を貸せとか、それもかなり途中から言い出すので困惑する。なんでそんなにお話が迷走するのか?その意味では、特に本作はできが悪い。

■さらに困ったのが、ヒロインを金井克子に演じさせたところで、この時期にこんな大役を任せられていることに驚いたが、演技的にはもちろん未熟だし、そもそも誰だかわかりませんよ。俺たちの知っている金井克子では、まだない。このおへちゃな娘はどこの新人女優?と思って観ていると、歌唱とダンスのシーンで一気に実力が爆発して、なんでこんなに上手いの?これ誰だ?となる。金井克子だから当然なんだけど、普段の演技とパフォーマンスのギャップが大きすぎて、吹き替え?なんて勘ぐってしまうほどだ。どうやら映画初出演らしいけど。

■前作の東京撮影所製作と比べると、明らかに大映らしい泥臭さと田舎臭さがマシマシで、そもそも第一作は京都撮影所製作なのに、妙に乾いてハイセンスだったのは、やっぱり田中徳三の資質なんだな。本作は森一生がレギュラースタッフと取り組んだが、明らかにこれまでとタッチが異なり、浪速芸人をわりと自由に遊ばせつつゆるゆると撮る浪速映画になっている。田宮二郎は相変わらず曲撃ちに熱心だけど、早撃ちのライバルが高木二朗(誰?)という配役の地味さもいかんせん冴えない。大映東映に比べると配役にお金をかけない主義なので、このあたりからジリ貧になってゆくのも仕方ないよね。ホントに配役が弱いもんね。

■ヒロインには草笛光子東宝から呼んでいるけど大した役ではなくて、前作の水谷良重のほうがずっと色っぽかったよね。例によってヤクザの親分が須賀不二男で、これもアドリブ気味な楽しげな大阪弁演技で味がある。そうそう、多分スケジュールの関係でショボクレ刑事の天知茂が出演できず、代わりに大坂志郎が登場するけど、このあたりも弱いよね。坂本スミ子の扱いも完全に浪速の色物テイストで、ちょっとルーズすぎるよね。

推理映画じゃないよ!新藤兼人オリジナルの歪な家庭劇『殺したのは誰だ』

基本情報

殺したのは誰だ ★★★
1957 スタンダードサイズ 91分 @アマプラ
企画:浅田健三 脚本:新藤兼人 撮影:姫田真佐久 照明:三尾三郎 美術:松山崇 特殊撮影:日活特殊技術部 音楽:伊福部昭 監督:中平康

あらすじ

■食い詰めた自動車のセールスマン(菅井一郎)が、あくどい商売で立ち回るライバル(西村晃)から保険金詐欺に誘われるが、思わぬ番狂わせで事故死は免れる。だが、その息子(小林旭)がビリヤード賭博で借金を抱えたとき、再びあの男の悪魔の囁きが。。。

感想

新藤兼人のオリジナル脚本を中平康が演出した犯罪サスペンス。初期中平康の傑作とか秀作とか、なんとなくタイトルだけは知っていたけど、ミステリーでも活劇ではなく、一種の心理劇で、ホームドラマであるというのは意外だった。新藤兼人の創作なので、さすがに一筋縄ではいかないドラマだけど、明確なテーマ性と構成の安定感には揺るぎがなく、ちゃんとサスペンスも効いている。

■菅井一郎は女房を亡くして飲み屋の女将のところへ上がり込んで腐れ縁の内縁関係にあるが、娘はそんな父を嫌うし、息子はちゃっかり借金の普請に訪れたりする。ハエやネズミが蝟集して、髭茫々の廃人同様の浜村純が根をはやした、とにかく薄汚い不衛生な飲み屋が、実はメイン舞台で、この舞台構成はのちの『当たりや大将』を思わせる。似てるよね。

■菅井一郎のうらぶれ方はリアルだし、渡辺美佐子小林旭の子供たちの配役には文句はないのだが、飲み屋の女将を山根寿子が演じているのはさすがにピンとこない。戦中から戦後時期のスター女優だったらしいが、さすがにそこまでの映画的教養はないから、誰ですか?って感じ。西村晃からも言い寄られるんだけど、何故にモテモテ?としか感じないもんね。くたびれたおばさんをリアルに演じるからそうなるわけですが。今はこんなにくたびれたけど、昔は美人だったし、今でも磨けば光る美魔女(?)という含みでしょうか。同時代に中根寿子を観ていた観客にはそれで通じたわけでしょうね。当時はね。

■保険金詐欺の事故現場のモンタージュにミニチュア撮影が使われていて、衝突事故のインサートカットを撮っているのだが、これはかなり上出来。モノクロ撮影の短いカットということもあり、バレない。姫田チームによる縦横無尽なクレーンショットもメリハリがきいており、スペクタクルな見せ場になっている。この時期、中平康はクレーンショットを多用していたのか。

■ただ映画のテーマとしては弱くて、誰が死ぬのか?誰が殺したのか?悪魔のような西村晃はなんの象徴か?といったあたりのテーマ解釈が意外と浅くて、お話自体が無理やり構築した感じの不自然さが否めず、むしろ後年の『その壁を砕け』の方がテーマと素材とサスペンスが無理なく噛み合っていると思う。

参考

中平康新藤兼人の脚本に信頼を置いており、事務所を訪ねては何か良い本はありませんか?と企画を探っていたそうです。
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俺はやくざの姐を愛したトンチキ野郎さ『泥だらけのいのち』

基本情報

泥だらけのいのち ★★★
1963 スコープサイズ(モノクロ) 83分 @アマプラ
企画:大塚和 脚本:馬場当、丹野雄二 撮影:高村倉太郎 照明:高橋勇 美術:中村公彦 音楽:奥村一 監督:堀池清

感想

■白タクをしのぎとする青年(山内賢)は、男気のあるヤクザの兄貴分(葉山良二)に見込まれて組に出入りするうち、その姐(久保菜穂子)に心を寄せてゆく。代貸が喧嘩騒ぎで入獄すると仕事で赤子の面倒を見られない姐に代わって、赤ん坊の面倒をみるはめに。。。

■というお話で、大塚和の企画なので社会派勤労映画かとおもいきや、あらぬ方向にネジ曲がる、かなり変な映画。山内賢には和泉雅子という恋人がいるのに、やくざの姐と知り合うと、彼女に惹かれてゆくし、三角関係のメロドラマかとおもいきや、仮の父親としてこどもを育てるお話に転調して、青春映画なのかメロドラマなのか、股旅映画なのか、いろんなジャンルが混交して、いわくいいがたい珍しい映画になっている。

山内賢には年上の女性を思慕する路線があり、『その人は遠く』などもその代表作だが、本作もその路線を踏襲するものだろうか。和泉雅子は準主役で登場するものの、扱いが小さい。でも、『非行少女』も撮ったキャメラの高村倉太郎の撮影が妙に念入りで、素晴らしく流麗な柔らかいタッチで和泉雅子のアップを描くので、陶然とする。さすがに名キャメラマンだなあと感心。

■しかし、何が言いたいのかはよくわからない映画なので、訴求力は弱いよね。青春映画にしても、リアルな話ではないし、むしろ時代劇にでも仕立てたほうがしっくりくる気がする。主人公はしまいにはホントのヤクザになってしまう転落物語でもあるのに、テーマが定まらない。大塚和の企画意図はどこにあったのだろうか。

参考

『その人は遠く』も大塚和の企画で、脚本まで書いているので、完全に路線を踏襲したものでしょうね。監督も同じ堀池清だし。
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泥臭さとシャレオツ!犬シリーズ第2弾『喧嘩犬』

基本情報

喧嘩犬 ★★★
1964 スコープサイズ(モノクロ) 89分 @アマプラ
企画:辻久一 脚本:藤本義一 撮影:渡辺公夫 照明:泉正蔵 美術:高橋康一 音楽:土橋啓二 監督:村山三男

感想

田宮二郎の犬シリーズ第2弾で、なぜか東京撮影所の制作となったが、浪速風味満載で小気味いい。前作で刑務所に入った鴨井大介がシャバに出て、土建屋に見込まれて工事現場の飯場の管理を任されるが、ムショで弟分になった小吉が土建屋の悪巧みで殺されると復讐を誓う。。。

■今回は天知茂演じるショボクレ刑事は登場しないが、坂本スミ子はちゃんと登場する。小吉の女房役で良い見せ場をもらっている。殺された小吉を待ちながらひとりぽつんと替え歌を歌っている場面はさすがによくできていて、村山三男の名演出だった。

■ヒロインとなる日陰の女は浜田ゆう子が演じて、これも村山三男と渡辺公夫のコンビが意外におしゃれかつシャープに描く。煽って天井を画角に入れ込んだアングルを多用して、頭を抑え込まれて逃げ場がない男女の情念をスクリーンに閉じ込める。大映らしく陰影の強いモノクロ撮影だが、リマスターが念入りなので、非常に綺麗。お話の舞台は刑務所に飯場という泥臭い映画なのに、キャメラがシャープなので、実にシャレオツに見えるから不思議。

■ただ残念なのは大きな脇役である小吉を演じる海野かつをという役者をよく知らないことで、ここはもう少し上手い人を置くべきだった。悪役の常連である成田三樹夫はすっかり後年の『探偵物語』の刑事を彷彿させる軽妙な演技で快調。さすがにアドリブの台詞はないと思うが、演技のニュアンスはアドリブ演技に近い崩し方。

田宮二郎はますますノリノリで大量にあるコテコテの大阪弁を早口でまくし立てて、圧巻の好演。名演と呼んでもいいくらいだ。もちろん大阪出身なので大阪弁はお手の物だけど、当時の全国区での大阪弁の受け止め方を少し変えるものではなかったろうか。明石家さんまが東京に進出して大阪弁が完全に全国区になる、十数年前の出来事だが。

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