指図は全部、アテがします!モーレツ京女の逆襲『才女気質』

■京の表具屋を仕切る女将さんは今日も今日とて息子の縁談のために走り回り、夫や弟や次男たち男の尻を叩いて出世させようと奔走するが、肝心の息子や娘たちはそんな母親を批判して、てんでに新しい世代の幸福を目指して、家を出てゆく。。。

■という新旧世代の対立劇で、新藤兼人の得意分野。なので、構成もバッチリだし、人間味の面白さも盛りだくさんで、安心して観ていられる。中平康新藤兼人を信頼していて、何かいい脚本はありませんか?とよく事務所を訪ねたらしい。もちろん、プロデューサーの大塚和も一緒にね。

■息子や娘たちが母親と大喧嘩して、それぞれの相方と一緒に家を出るところで第二幕が終わり、第三幕は長男の七回忌でみんなが集まってくる場面。これですんなり和解するのかとおもいきや、やっぱりてんでんばらばらに散会し、家族が再び昔の姿に戻ることはない。古い家族の崩壊劇とも言えるが、まったく深刻ではなく、新しい時代に開かれたお話。

■クレジットは長門裕之と葉山良二が二枚看板だが、轟夕起子の主演で、相方の大坂志郎が持ち前の上手さを十二分に発揮していて、実に見事な演技合戦。大坂志郎の母親の老婆が何故か細川ちか子で、入念な老けメイクで老婆になりきり、轟夕起子を強烈に皮肉るのが終盤の見せ場で、お前はいつまであんな女の尻の下に敷かれてるつもりやと、大いに笑わせる。キネ旬データベースではこの役は他の女優(吉川満子)が演じる予定だったらしいが、なぜか細川に変更されている。しかも、言われないとわかりませんよ。凄い化けっぷり。映画にはクレジットされているが、妙に小さい扱いだし、ポスターにも名前が出ていないようなので、中平康が例によってクランクイン前後に気に入らず配役を変更させたのではないかな。

大坂志郎だって大概な老けメイクだし、演技の幅が広いし、凄い名優だよね。『ゆがんだ月』も良かったけど、『硫黄島』はいまいち冴えなかったなあ。やっぱり本作のような軽妙な役がドンピシャ。現場ではなかなか気難しい難物だったらしいと聞くけど。

■ちなみに四条大橋付近の大ロケーションも、豪快なクレーン撮影で、ホントに貴重。アマゾンプライムビデオの放送原盤は何箇所かノイズが入るし、リマスター処理も甘いので、これはもっと力を入れてリマスターして解像度も高めて欲しいなあ。

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