沈まぬ太陽 ★★★☆

沈まぬ太陽
2009 ヴィスタサイズ 202分
ユナイテッドシネマ大津(SC6)
原作■山崎豊子 脚本■西岡琢也
撮影■長沼六男 照明■中須岳士
美術■小川富美夫 音楽■住友紀人
特撮・視覚効果監修■泉谷修 VFXプロデューサー■小野寺浩
監督■若松節朗

山崎豊子の大作小説の堂々たる映画化で、途中に10分間のインターミッションが入る親切設計。インターミッションを入れるのなら、オーバーチュアも設ければ、より大作映画感がアップしたのに。それに、前半の終わりはあざといくらいの盛り上げをしておいても良かったのでは。例えば「ドクトル・ジバゴ」のように。それでも、大作映画を観た満足感はたっぷりと味わえる、なかなかの力作かつ意欲作。実際、これほどヴィヴィッドな内容の物語をよく映画化できたものだと感心する。しかも、東映なら社風的に納得しやすいのだが、角川映画(実質は再生大映映画)と東宝のコンビというのも異色だ。渡辺謙だからこそ成立した企画だろう。

■昭和三十年代中盤、国民航空で労組の委員長をしていた恩地(渡辺謙)は報復人事で海外に飛ばされ、2年の約束がそのまま海外僻地勤務を延長され、その間、労組の副委員長だった行天(三浦友和)は本社で汚れ役を買って出て出世していた。恩地が帰国すると御巣鷹山に旅客機が墜落した大惨事の遺族係として地を這うような激務に投げ込まれる。政府は経営トップに関西財界の大物を送り込んで、会社の体質改善を図ろうとするが・・・

■映画はアフリカと御巣鷹山という本作の2大テーマとなる設定から開始され、ベテラン西岡琢也が淀みなく物語ってくれるので、往年の山本薩夫の「不毛地帯」などの昭和40年代の大作よりも単純に面白い。役者のメンツは昭和新劇俳優陣に比べればあまりに小粒ではあるが、それでもオールスターキャストの賑々しさも楽しめる。なにしろ、渡辺謙の貫禄と、卑劣漢として会社の実験を握ろうと暗躍する三浦友和の対比だけで3時間以上退屈する暇がない。石坂浩二の配役には疑問があったが、政治家の思惑に翻弄される様がかなりうまく描かれているので、結果的には役得になっているし、うまい配役だった。テレビドラマ「不毛地帯」で脚光を浴びている瀬島龍三をモデルにした怪人物を品川徹が演じて、往年の加藤嘉とか宇野重吉を思わせる怖さを発散する名演を見せる。特に靖国神社でのロケ場面は凄い。一方、中曽根首相を演じるのが加藤剛で、これも配役が成功している。「王道」の揮毫を巡る脇エピソードも単純ながら分かり易い工夫でよく効いている。

■当時の事件をリアルに知っている世代にとっては、あらゆる意味で刺激的で、見ごたえは折り紙つきだが、クライマックスが淡白すぎ、ラストのアフリカのまとめ方もいまひとつ説得力が無い。随分おおまかに総括したもんだという印象。このラストの作劇的な弱さは非常に残念だ。

■撮影は松竹出身の長沼六男で、古くは「光る女」とか近くは「武士の一分」といった作品を手掛けた名手だが、本作の画作りには疑問が多い。特に現在と過去の対比を同じ画調で描いた点。通常色調を変えたりして一目で区別できるようにするものだが、本作は特にそうした配慮も無く、過去も現在もさらに日本もアフリカもすべて同じ調子で、フジフィルムの発色の浅い、淡い色調で通すのは、あまり褒められたものではない。海外シーンはコダックで、或いはDIで色調を変えてコントラストをつけるという手法もあるはずだ。しかも、何故か全体に照明が暗く、室内シーンは逆光が多く、しかも光線が十分に制御されていないので、劇的な狙いが十分に表現されていない気がする。端的にわかりやすいのはケニアの副総理(?)と渡辺謙が会談する場面で、副総理の顔が逆光で完全にシルエットになっている。特にシルエットになる演出的な必然性も無いのに!東宝系のシネコンではデジタル上映が行われているようだし、一部ビデオ撮影が行われたとの情報もあるので、その影響で画調が荒れているのだろうか。

VFXは日本エフェクトセンターが中心に担当し、冒頭の崩れ落ちる巨象からしてCG、あるいは実写素材のデジタル合成だろう。空港、ジェット機がらみのカットはほとんどがVFXによるものだが、機体の質感としては少々厳しい。合成カットのレイアウト的にもリアリティとしては違和感があり、飛行角度とか前景との距離感、空気感の点についていまひとつ馴染んでいない。航空機はフルCGではなく、ミニチュア撮影が行われたようで、村川聡、稲付正人といったお馴染みの面々が参加している。VFXによる航空機の表現としては山崎貴や「ハッピー・フライト」の佛田組のほうが精度が高かったようだ。

■製作は角川映画東宝ケイダッシュほか、制作は角川映画

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