お銀さんは男と女の情念の世界には深入りしないのだ!お馴染みシリーズ第十五作『女賭博師花の切り札』

基本情報

女賭博師花の切り札 ★★★
1969 スコープサイズ 85分 @アマプラ
企画:神吉虎吉 脚本:石松愛弘 撮影:中川芳夫 照明:間野重雄 美術:伊藤幸夫 音楽:鏑木創 監督:井上芳夫

感想

■なんとシリーズ第十五作で、実質的にシリーズのメイン監督である井上芳夫の作品。この頃、大映はすでに末期状態で、市川雷蔵も死んでしまったし、田宮二郎も破門してしまったし、若尾文子は結婚して作品のチョイスが難しくなるしで、スター不足状態なので、低予算で受けるシリーズ物への依存が高まり、そのなかで女賭博師シリーズも粗製乱造気味に連作された。そのため、ドラマ的には突き詰め方が足りず、東映任侠映画の濫造の中でいくつかの非常に完成度の高い傑作が生まれたのに比べると、どうしても見劣りするのは仕方ないか。

■素走りの浅造(天知茂)との勝負に負け、三田村組を解散させてしまった銀子はそれを悔やんで、三回忌法要の供養盆のために自ら資金集めのために全国を流れ歩くが、兼松組の妨害工作で、朝造は負傷し、いかさま賭博も辞さないと公言する夜泣きの半次(津川雅彦)が胴師に起用される。。。

■本作は天知茂船越英二津川雅彦と脇役が充実した作品で、船越英二が完全に老け役として登場するのが感慨深い。前年には『盲獣』の主役を張ったのだが、本作は完全にベテラン俳優による助演というポジション。まあ、それだけ演技力に定評があったということでもあるが、少し寂しい気はする。すでに活躍の舞台をテレビに移していたのだろう。しかも、自分も賭博師ながら腕の筋を切られて身代わりとして銀子を仕込んだという役どころなので、男女師弟のドラマ的な発展を期待することろだけど、実はこれは不完全燃焼に終わり、もったいない限り。銀子を育て、押し立てながら、ヤクザ稼業の柵で、銀子を裏切ることになる美味しい役なんだけど、やっぱり銀子との間の男と女の感情が絡まないと嘘に感じる。なぜだか男と女の情念の世界には深入りしない主義なのだ。

■このシリーズは非常に面白い人間関係の設定を配置しながらも、その人間関係のドラマには意外と中途半端に決着をつけてしまうというドラマツルギーがあり、ドラマとしては煮え切らない弱点がある。本作もその例外ではない。そこをちゃんと突き詰めれば東映任侠映画の傑作に迫ることができたのに、惜しい限りだ。そこのところで成功しているのは第一作の『女の賭場』くらいだろう。あれは完璧な塩梅だった。しかし、大映末期とは言え技術スタッフの働きは見事なもので、本作も中川芳夫のキャメラが冴える。構図も照明も実に重厚なのだ。

■銀子に対するライバルとして登場して、徐々に親身なメンターに変貌するのが天知茂で、このキャラクターも面白いのに、ちょっと描ききれていない。戦争にとられてサイコロを転がしながら明日の命を占ったという苦労人で、だから命だけは粗末にするなと諭す大人で、戦中派世代のリアリティがさらりと描かれる。この人物も扱いがもったいないままに終わる。これが東映なら。。。

■しかし、最終的に三田村組が組を再興するという結末は安易すぎてあまりに古臭く感じる。すでに現代ヤクザを描き出していた東映に比べると、旧弊な任侠映画に準拠していると感じるし、やくざの組が再興しておめでとうと言ってられる時代ではすでになかったはずだと思うのだ。端的に言って、時代錯誤に感じられる。今のコンプライアンス云々の基準を持ち出すまでもなく、当時の感触としてすでに古かったはずだ。

参考

maricozy.hatenablog.jp
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日活映画の方が実は早かったという歴史的事実。野川由美子の『賭場の牝猫』シリーズがありました。
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