向こうが権力で来るなら、こっちは金や!面白すぎる150分映画の記念碑的傑作『白い巨塔』

基本情報

白い巨塔 ★★★★
1966 スコープサイズ 149分 @アマプラ
企画:財前定生、伊藤武郎 原作:山崎豊子 脚本:橋本忍 撮影:宗川信夫 照明:柴田恒吉 美術:間野重雄 音楽:池野成 監督:山本薩夫

感想

■なんというか年末になると観たくなってくる不思議な映画で、でも何年ぶりだろうか。なにしろこのブログの過去記事に見当たらない!

■お話は説明するまでもなくみんなご存知のとおり。とにかく名門浪速大学医学部附属病院の教授陣のおじさんたちの権力闘争と権謀術策が圧倒的に面白くて、日本中の勤め人も身につまされるので、当然のように大ヒットした。

田宮二郎が何かが憑いたような異様な熱演を見せるし、橋本忍の話術も絶頂期で有無を言わせないし、山本薩夫の演出もかなり熱が入っていて、『傷だらけの山河』より意欲的。実際の開腹手術をタイトル頭で巨大スクリーンに映し出すケレン味もさすがの映画職人。やるときはとことんやるべきなのだ。封切り当時、映画館でかなりの観客が卒倒したんじゃないかな。映倫がよく許したと感心する。

■当時原作は第1部までしか完成していないので、誤診裁判の場面は実は35分くらいしかなくて驚いた。教授選の話がクライマックスであるけど、そのあとにさらに誤診裁判でダメ押しして、もうひとつのクライマックスが設置されるという、これ『エイリアン2』方式の先取りじゃないか。

■しかも映画的には単調になりがちな裁判シーンはナレーションを多用して、重要な証人の証言だけを取り出して、その台詞と回想だけでちゃんと劇的なクライマックスを構成するという力技。橋本忍の剛腕恐るべし。芸達者が演じるその証人の話術、話芸で面白がらせる手法は後に野村芳太郎の『事件』でも踏襲してますね。本作は加藤嘉滝沢修の圧倒的な名演で釘付けになりますよ。こんな演技なかなか真似すらできない。言を左右して真意を悟らせず、「いや、私はそんなことは申し上げていない。私の言っていることは意味が違う!」と名台詞を繰り出す滝沢修に惚れます。。。

■久しぶりに見ると石山健二郎の出演が多くて、浪速の反権力魂をグロテスクに体現して圧巻。「なんぼや、なんぼ金がいるんや!」「向こうが権力で来るのなら、こっちは金や!」は男なら(?)一度は啖呵を切ってみたい名台詞。ちなみに「おなごの溝浚いして金貯めたかいがあった」の酷い台詞はシナリオにはないので、山本薩夫が原作から(?)付加したものかもしれない。でも座敷の芸者たちが大受けしてるんだよね。これが昭和時代の現実だったのだ。

■さらに今回感心したのは小川由美子の綺麗さで、クラブのママなので当時のスマートな流行ファッションでバッチリ決まっている。全体に演技のトーンが高すぎるのでやや演劇的なんだけど、随所で弱気になる田宮二郎のネジを巻く様が演技的にも演出的にも秀逸で、特にS#137のアパートで田宮二郎を追い詰める場面は圧巻。「投資株の大暴落・・・財前家とも縁切れで、もうどこへも行くところが・・・いや、そうでもないわ。あんたの行くところが一つだけあるわ。岡山県や。」と田舎の岡山に帰って、お母ちゃんの懐に逃げ帰れ、つまり人生のふりだしに戻れと詰ることで、田宮二郎は腹が決まって発奮する。おれは誤診などない。するはずがない。何一つ間違いなどなかったのだと裁判で押し切る覚悟を決める。この場面、脚本だけではここまでテンションの高い見せ場に感じられないのだが、山本薩夫のケレン演出は冴えている。

橋本忍の構成で大改編は、田宮二郎の外遊の部分と、滝沢修(船尾教授)の再登場下り。どちらの措置も尺に納めるために必要な処置だが、特に船尾教授の裁判所鑑定人としての再登場は効果絶大で、テーマも際立つし大成功だった。

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