恐竜・怪鳥の伝説 ★★☆

恐竜・怪鳥の伝説
1977 スコープサイズ 92分
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脚本■伊上 勝、松本 功、大津一郎
撮影■塩見作治 照明■井上孝二
美術■雨森義充 音楽■八木正生 造形・操演■大橋史典 操演協力■大林義満
監督■倉田準二


 富士の樹海に蘇った恐竜たちは西湖付近で人間をバクバク食べて意気軒昂、終いには富士山まで活動を活発化して溶岩を噴出する・・・

 日本では珍しい本格的な恐竜映画で、しかも、蘇った恐竜たち(といってもプレシオザウルスとランフォリンクスの2匹だが)は人間の尊厳を踏みにじる野生の食いっぷりで、若い女も中年のオヤジも見境無く食べ散らかすもんだから、西湖近隣は死屍累々の流血地獄と化す。巨大生物は食べることにしか興味が無いという無情な真理を正面から描き出した点は、「ジョーズ」からはじまる動物パニック映画に便乗したとはいえ、日本映画では画期的。東宝映画でもフランケンシュタイン2部作で描かれたが、あの路線をなぜか東映が継承しているところがユニーク。ヒロインの女友達は西湖で下半身を食いちぎられ、主人公の知り合いの猟師は地下洞窟で怪鳥に食いちぎられてバラバラ死体として発見される。その描写のえげつなさは当時の東映ならではだろう。

 恐竜を造形したのは伝説の特殊造形師・大橋史典で、ミニチュアから実物大までフル回転で活躍しているが、終生の欠点である造形物の硬さは解消できなかったようで、操演によっても生物感を表現することは困難だったようだ。プレシオザウルスは異様に長いろくろ首をふらふらと振るばかりで、意志的な動作を感じさせないし、ランフォリンクスは口と喉が動くのはいいが、足が全く動かないので、生物感に乏しいのが欠点。ラストの樹海のミニチュアセットは美術的に案外よくできており、地割れの仕掛けも悪くなく、それなりにしっかりとした取り組み方だったようだが、恐竜を生物として動かす演出と技術に不慣れだったということのようだ。矢島信男を呼んでくれば間違いなく水準以上の恐竜映画になっていたはずなのに、残念だ。

 ただ、大橋史典という映画人の経歴は興味深く、右太衛門のプロダクションを皮切りに奈良の全勝キネマで和製ターザンを演じて人気を得、その傍ら和製キングコングのぬいぐるみを造形して自ら演じるという破天荒な活躍。出征を経て戦後は何故か東宝山本嘉次郎の助監督になり、そのうち初代ゴジラの造形にもタッチ(しようとしたが断られたらしい)、獣人雪男では造形と演技を担当して、黒澤映画の脇役で時代劇に出演しながら京都の映画界で特殊造形を一手に引き受け、第1次怪獣ブームでは日本特撮㈱の社長に就任して、怪獣番組で海外進出を狙う東急エージェンシーには太秦に特撮ステージと特撮用プールまで拵えてもらうが、独立独歩な性格ゆえ、「怪獣王子」1作を作っただけで会社経営はすぐに破綻、その後久々に表舞台に名前が出たのが、この「恐竜・怪鳥の伝説」で、昔の映画人らしく、特殊造形師にとどまらないスケールの大きさと他に例をみないユニークな活動分野ゆえに、その人生の全容が解明されることが望まれるのだが、本人を含め親交の深い映画人は故人が多い。近年執筆業にも進出している造形家の品田冬樹あたりに今のうちに評伝をお願いしたいところだ。

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