国立大仏文科卒のコテコテ浪速商人?そんなヤツおらんやろ!の面白群像劇『女の勲章』

基本情報

女の勲章 ★★★☆
1961 スコープサイズ 109分 @アマプラ
企画:土井逸雄 原作:山崎豊子 脚本:新藤兼人 撮影:小原譲治 照明:久保田行一 美術:間野重雄 音楽:池野成 監督:吉村公三郎

感想

船場育ちの”とうはん”式子(京マチ子)が3人のデザイナーの弟子たち(若尾文子、叶順子、中村玉緒)とファッション学校を立ち上げるが、経営の実権を握ったのは、国立大学仏文出身だが根っからの商売人気質の銀四郎(田宮二郎)だった。各地にスクールチェーンを拡大するたびに、彼女たちと体の関係を持ってゆくが、式子は銀四郎の恩師の大学教授(森雅之)に心惹かれてゆく。。。

大映がまだまだ経営的に余裕のあった頃に新聞小説の映画化として製作された本作、さすがに贅沢な作りで、アグファカラーの渋い色調もリッチ。脚本は新藤兼人だけど、オリジナルの小説が単純に面白いので、当然外さない。監督はコンビの吉村公三郎で、個人的にはモノクロで撮影するときより、カラー映画のほうが冴えるという印象がある。本作も色彩設計のアレンジとか、キメキメの構図と照明効果とか、オブジェの使い方とか、単なるビジュアルな意匠を超えてセンスが良い。これがモノクロ映画だとリアリズムに対する透徹もないし、映像派の資質も生きない。文芸作品の『越前竹人形』なんて任じゃないと感じたし、意欲作『その夜は忘れない』だって、攻めきれていない。

大映のスター女優を4人も揃えた豪華版で、それぞれに見せ場もきっちり用意されているのは当然としても、実質の主役は銀四郎を演じる田宮二郎でしょうね。当時この演技で大注目されている。当然ですね。なにしろ大量の台詞を早口で喋り抜ける爽快さ。しかも当然のことながら、コテコテの大阪弁田宮二郎大阪弁ネイティブなので見事にこなすが、これが実は仇でもあって、銀四郎という京大(多分)仏文科卒には全く見えず、感触としては高卒叩き上げの根っからの大阪商人の成り上がりにしか見えない。男前の見栄えは文句ないのだが、本来なら台詞にもう少し知性が感じられるべきところだろう。山崎豊子の原作どおりかもしれないけど、ここが本作の一番のネック。巧すぎて上滑り、それは人格の軽薄さを示しているのだが、知性は必要だった。さらりと仏語を披露する場面などがあればいいのに。

若尾文子はもちろん見せ場を浚うけど、中村玉緒も非常に役得で、短い出番ながら強烈なキャラクターを的確に演じる。おっとりしたお嬢さん風で常にボンヤリした言動の彼女だけど、実は銀四郎の思惑などぜんぶお見通しで、師匠や他のデザイナー仲間の動向も全部知っているけど、言ったところで得にもならないので、知らん顔をしているだけという現実的なチャッカリ娘。断言します、こんな娘は実在します。全部台詞でコンパクトに表現するわけだけど、見事な説得力なので、圧巻ですね。昨今では、こうした役柄は全部説明的でご都合主義に見えてしまうでしょうね。

■なにしろ大作なのでフランスロケでないけどフランス場面もあり、夜間飛行の旅客機のシーンはクレジットはないけどおそらく時期的にピープロの下請けによる卓抜なアニメ撮影でしょう。実際のところ、終幕はいまいち説得力不足で、本来なら銀四郎がもっとやり込められるか、女達がよほどの反撃をしないと締まらないのだけど、そこはちょっと弱い。新藤兼人の脚本の特徴でもあるけど、そこはあっさりしていてあまり押さない。でも、映像表現としての銀四郎の孤立感とデッドエンド感は見事に表現するから凄い。シネスコの画角を生かしたラストショットの技巧的かつグラフィカルな構図は見事。リアルに考えれば、銀四郎は脱税なんかでしょっぴかれるタイプの人間なので、そう纏めればいいのにとも思うけどね。脱税してるに決まってますよね、あの男!

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