ついにカラー化!田宮二郎の犬シリーズ第三弾『ごろつき犬』

基本情報

ごろつき犬 ★★★
1965 スコープサイズ 87分 @アマプラ
企画:辻久一 脚本:藤本義一 撮影:小林節雄 照明:渡辺長治 美術:渡辺竹三郎 音楽:山内正 監督:村野鐵太郎

感想

■犬シリーズ第3弾は、ついにカラー映画化。監督は新鋭の村野鐵太郎だけど、まったく危なげがないよね。今回はアクロバット的な大阪弁の台詞よりも、活劇要素が勝り、当時のスパイアクションなどの要素も匂わせながら、悪女と日陰の女の間を鴨井大介が往還する。ラストの一騎打ちも含めて、曲撃ち要素を盛りだくさんとして、まだそれなりに人気のあった西部劇の要素や座頭市シリーズへの対抗心も燃やすサービス満点の一作。

■なかなか複雑なお話で、簡単に要約できないのだが、謎の女(水谷良重)から夫の仇の一六組を撃つように依頼されて新世界界隈に戻った鴨井が一六組の幹部の女(江波杏子)に惹かれると、そこに何故かダイマル・ラケットの二人が絡んで芸を見せる。そんなさなか、組幹部射殺の濡れ衣を着せられた鴨井は、正体不明の組長の正体を探るうち、白浜温泉で接近遭遇した謎の拳銃の使い手と対立する。。。

■もともと大阪ディープサウスを舞台とした泥臭さが身上の犬シリーズだが、徐々におしゃれ活劇方向にシフトチェンジを図る。台詞はコテコテの大阪弁なのに、活劇やお色気要素は欧米映画を参照しているのがユニーク。田宮二郎のファッションもどんどん洗練されて、再登場のショボクレ刑事のよれよれのコート姿と好対照。一匹狼の流れ者のほうが、地方公務員より衣装に金がかかっているわけ。

■一方、大映東京撮影所のエース級を投入した映像面の充実も凄くて、コントラストが強く、隠すところは黒く潰すのは大映タッチだけど、美術装置の質感の深みがリマスターで際立ち、東映や日活のペラペラな材質とは次元が異なる。ドヤ街の木賃宿の壁や戸の使い込まれたテカテカした深みのある照りなんて、大映ならではの表現。影の部分は思い切ってシャープに黒く塗り込んで、光の照らす部分は思いっきり材質感を精細に表現するという贅沢極まりない映像美。東宝でも黒澤映画くらいじゃないとここまでやらない。多分、使用しているカラーネガフィルムが上質なんだね。もちろんフジフィルムじゃない。リマスターも丁寧で、ちゃんとクライマックスの疑似夜景も再現されている。

■女優陣は水谷良重の色っぽさも実にいいし、文字通り日陰の女を演じる江波杏子ファム・ファタール感も抜群。演技的にはまだまだ硬いけどね。でも贅沢なカラー撮影のなかで、ひときわ際立つ顔立ちで、まさに造形美。もちろん、坂本スミ子も出てますよ!期待通りのコメディ要員で、毎回違う役で登場するらしい。レギュラーといえばショボクレ刑事の天知茂も大活躍で、田宮二郎にうどんの汁だけ奢る場面は、なかなかの味だ。田宮二郎との掛け合いもアドリブ感が育ってきたぞ。今後が楽しみ。

■また音楽が山内正というのも驚きで、『大怪獣ガメラ』でも『夫が見た』でもない、軽快なジャズアレンジで傑作スコア。こんな楽曲も書ける器用な人だったのだ。

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