これぞ元祖女賭博師?知られざる野川由美子の傑作『賭場の牝猫』シリーズ

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知られざる傑作シリーズ

■なぜかフランスでHDリマスター版ブルーレイが発売されているという知られざる女ヤクザ映画。日本でも既に誰の記憶からも消えてしまったはずなのに、なぜフランスで?しかも、大映の女賭博師シリーズの二番煎じでしょ?と思ったのは大間違い。実はこちらのほうが先に製作されている。たった1年の差ですが、ひょっとすると大映は日活のこのシリーズに触発されたのではないか。

■実は観ればわかるとおり、主演の野川由美子が見違えるような好演を見せる女性映画であり、ヤクザ映画なのだ。野川由美子ってなんだかプログラムピクチャーのお色気要員として雑に扱われている感じで、鈴木清順の映画で主役もやっているけど、必ずしも綺麗に撮ってくれないから、なんだか野性味と力感はあるけど大味な女優という印象だった。後年は芝居の上手さに感心することも多くなったけど、このシリーズを観ると、野川由美子の女優としてのポテンシャルの高さがよくわかる。だれしも野川由美子が好きになる。ほんとに綺麗なんだもの。こんなに綺麗でフォトジェニックで映画向きの女優だったとは。

『賭場の牝猫』

1965年 スコープサイズ 88分
脚本:上田潤、淺田健三 撮影:中尾利太郎 照明:吉田一夫 美術:中村公彦 音楽:河辺公一 監督:野口晴康

イカサマ賽を作った象牙細工師の父親が何者かに殺された。娘の雪は壺振りに身をやつして真犯人を探ろうとするが、インテリヤクザの伊東と知り合い、女の武器を最大限に活用するんだと、身体に入れ墨を彫られる。。。

■舞台は現代の東京の下町で、素人娘が女壺振り師に変化してゆくプロセスを意外とじっくり見せる良心作。野川由美子がキップのいい啖呵を切るのは終盤で、もっぱら菅井一郎の人情刑事とインテリヤクザ伊東との交流の中で女心を演じて見せる。とにかくHDリマスターの威力が猛烈に綺麗で、陶然とするモノクロ撮影。しかも野口晴康の演出が実に的確で、低予算映画のはずなのに、妙に贅沢な映画に見える。

■中尾利太郎の撮影も秀逸で、とにかく野川由美子を魅力的に見せることに精力を傾け、鈴木清順のような雑な扱いはしない。深川あたり(?)の住まいの情景や、犯行現場のスラムの情景などもシャープなロケ撮影が見事。

二谷英明とのメロドラマも的確で、河原での二人のやり取りとラストシーンの構図が綺麗に呼応しているし、正攻法の演出で気持ちが良い。

『賭場の牝猫 素肌の壺振り』

1965年 スコープサイズ 86分
脚本:淺田健三、西田一夫 撮影:永塚一栄 照明:高橋勇 美術:横尾嘉良 音楽:河辺公一 監督:野口晴康

■雪はトルコ風呂で働きながら、姉の旦那を撃った犯人を探っていたが、ある日死んだ伊東にうり二つのヤクザが逃げ込んできて。。。

■シリーズ映画のお約束、他人の空似もの(?)ですが、なかなか込み入ったお話を仕組んでますよ。父親が殺されたあと、姉があったことがわかり、しかもその旦那はヤクザの組長で射殺事件があったという過去が語られる。その姉が清次を慕っているという設定もろもろが判明する。

■野口晴康という人は活劇も非常に器用に見せてしまうので、ほんとに野川由美子のプロモーションフィルムのよう。シャープなモノクロ撮影で、髪の毛の黒のディテールと顔の白さと眼もとのシャープなアイラインのコントラストがホントに綺麗なので、見惚れてしまうなあ。

『賭場の牝猫 捨身の勝負』

1966年 スコープサイズ 80分
脚本:淺田健三、西田一夫 撮影:中尾利太郎 照明:土田守保 美術:川原資三 音楽:河辺公一 監督:野口晴康

■死んだ父親の故郷に帰った雪は、芝居小屋の権利をめぐる二つのヤクザの組の対立に巻き込まれる。さらにインテリヤクザ山口が間で何事かを画策しており。。。

野川由美子の女博徒のキップの良さも板について、すっかりヤクザの世界に染まっているが、田舎の組の組長の長男だが堅気の男と恋に落ちる。しかし、恋の成就はかなわず、次の旅に出るという、いかにもシリーズものの定番を綺麗に踏襲した端正な一作。キャメラが中尾利太郎に戻って、ますます端正なモノクロ撮影を堪能させてくれる。

野川由美子の芸達者ぶりも生かされているし、野口監督の演出は絶好調。ラストにはちゃんと井沢八郎が登場して歌謡ショーもたっぷり見せる。自らインテリヤクザと自称するとぼけたトリックスター的な男を宍戸錠が半分冗談めかして演じる。しかも、いかにも続きがありそうな終わり方だが、シリーズはここで打ち切り。大映のカラー作品『女の賭場』がヒットしてシリーズ化してしまったために、断念したのだろう。


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