みんな不潔よ!下半身は別人格なの?『四季の愛欲』

基本情報

四季の愛欲 ★★★☆
1958 スタンダードサイズ 96分 @アマプラ
企画:大塚和 原作:丹羽文雄 脚本:長谷部慶次 撮影:山崎善弘 照明:吉田協左 美術:千葉一彦 音楽:黛敏郎 監督:中平康

感想

■主人公の小説家(安井昌二)の家の女達はみなお盛んで、母(山田五十鈴)は年甲斐もなく愛人生活を謳歌しているし、妹(桂木洋子)は年寄りの夫(宇野重吉!)を嫌ってイケメン(小高雄二)との逢瀬を楽しんでいる。といいながら、当の本人もトップモデルの女房(楠郁子)を持ちながら妹(中原早苗!)に紹介された娘(峰品子)ともつきあい、那須の年増女(渡辺美佐子)とも懇ろになるという乱脈ぶり。これじゃみんな、愛欲の虜じゃないか?

■というお話を軽妙にテンポよく物語った中平康の全盛期の秀作。企画としては立派な文芸映画なんだけど、絶頂期の中平康の演出力の確かさで、清新な喜劇映画になっている。人間の言っていることとやっていること(主に下半身)の乖離ぶりが、人間の不可思議さ可愛らしさとして立体的に浮かび上がるという、なかなかの芸当。

■各登場人物のスケッチ的な描き方は脚本の成功だろうけど、各役者の演技が充実しているのが監督の腕の証拠だろう。山田五十鈴がちゃんとキレイに愚かな女を演じきって魅せるのはさすがだし、情愛に身を焦がす桂木洋子の演技はさらに凄い。相方が新人表記の小高雄二で、ずっと演技的に問題があった人だけど、時々目覚ましい嫌らしい個性派俳優ぶりを見せる。本作もその白眉で、見た目が良いのを鼻にかけて誠意の欠片もない軽薄で癖のある男を巧みに演じる。明らかに演出家の腕がなる脇役で、中平康って、演技指導がちゃんとできる人だったのだと分かる。小高雄二って、役どころが合わないと、下手なときは露骨に下手なままだからね。

■対する桂木洋子が華奢な体に異様な情念を秘めた女の疼きを肉感的に演じるのも実に凄い成果で、演技による心理描写もすごいけど、連れ込み宿での小高雄二の残酷な仕打ちに耐える場面の照明効果の演出も見事なもの。中平康、この頃はホントに冴えていた。本作の演技的な充実をみて、中平康は『密会』の主演の桂木洋子を据えたのだろう。すでに黛敏郎と結婚していたので、ピカピカの第一線のスターではなく、過去のスター扱いだったはずだが、それゆえの女性としての成熟を見事に演技的に描ききった。中平康は、映像的なギミックの人ではなく、意外にも演技指導ができる正統派の映画監督だったのだ。

桂木洋子が浮気の末に宇野重吉の待つ家に帰る場面は、傑作『逢びき』を踏襲したものだけど、随所に演出の冴えがあり、単なるものまねに終わらない。

■ここでも中原早苗が若者代表として登場して、姉貴や母親たちの下半身の乱脈ぶりを現代的な正義感から糾弾するので美味しい役だけど、逆に窮屈な感じもするなあ。『学生野郎と娘たち』のほうが弾けてたよね。まだヒステリーおばさんに変貌する前の、ぎりぎり娘時代の好演だ。その同級生として登場するのが峰品子で、ちょっとキュートな新人女優。なんでも中平康の贔屓だったらしく、『紅の翼』『密会』『学生野郎と娘たち』と印象的な脇役をもらっている。実際、ユニークな個性でおもしろい女優なんだ。中平康が入れ込むのも理解できなくもない。

■ラストで那須の駅に関係者みんなが集結するのは作劇としてはご都合主義ではあるけど、それ以上に面白いから許すよね。というか登場人物と一緒になって、純粋に呆れるので、凄い結末。中原早苗ならずともぽか~んという見事な幕切れだった。中平康はこうしたところの演出も上手くて、『密会』のラストの切れ味なんか、なかなか真似できるものではないからね。確かに凄かったよ、中平康

参考

これは小品だけど、中平康の演出家としての腕の良さがわかる逸品。
maricozy.hatenablog.jp
驚くべきことに、中原早苗はこの時期、若い観客たちの代弁者だったのだ!あなた、信じられる?
maricozy.hatenablog.jp
みんな大好き、デビッド・リーンの歴史的傑作。今見ても、凄い。
maricozy.hatenablog.jp

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