ヴィスコンティじゃないよ!わたしは自意識過剰な女『夏の嵐』

基本情報

夏の嵐 ★★☆
1956 スタンダードサイズ 86分 @アマプラ
企画:高木雅行 原作:深井迪子 脚本:長谷部慶次 撮影:横山実 照明:森年男 美術:松山崇 特殊撮影:日活特殊技術部 音楽:真鍋理一郎 監督:中平康

感想

■ある日、森の奥の沼で運命的に出逢って一目惚れした陰鬱な男(三橋達也)が、姉の婚約者としてわたし(北原三枝)の前に現れたとき、わたしの中で何かが崩れてゆく音を聞いた。。。

■深井迪子の芥川賞候補作を原作として、おそらく原作にかなり忠実に脚本化したものだから、若い女性の自意識過剰の生硬な独白とセリフがそのまま生かされ、文芸映画というよりも、前衛映画に接近している異色作。10年後のATG映画に、そのままなりそうな脚本。公開当時は女太陽族映画と呼ばれたらしいが、そんな風俗映画ではない。まあ、太陽族映画も単に風俗映画ではなくて、かなり踏み込んだ傑作があるのだけど。

■実際、ラストシーンで腰砕けするのが残念な映画で、原作通りなのかもしれないけど、もう少しなんとかすればいいのに。浜辺で眠っている間に台風が急接近していて、という件は、間抜けなコメディに見えてしまう。あくまでシリアスな悲劇なのに、ラストだけ失敗している。

■とにかく北原三枝の演じる戦後派女性像が鮮烈で、ひと目で見初めた男をずっと思い続け、思わぬ再会で女ごころは大きく揺れる。その揺れ方が古い女性像ではなく、戦後派女性ならではの奔放なもの。教え子の障害児(大鶴義弘、後の唐十郎!)を平手打ちして溜飲を下げるし、好きでもない金子信雄に処女を差し出すし、弟(実はいとこ)と口づけもする。そんな先鋭的な(というかかなりイカれた?)反抗的な女性像を北原三枝がシャープに演じるし、実際凄く上手いし、ルックスは抜群にクールだ。おまけにセクシーシーンもたっぷりで、当時の男性ファンは悶々としただろうね。北原三枝は、ホントに上手いので、裕次郎と結婚して引退したのは惜しいことですよ。

■お話の大筋は実は非常に通俗的で、一目惚れした男と相思相愛ながら、互いに結びつくことのできない男女が、ついに心中するまでを描いた、心中もの。その心理的解明を若者の肥大した自意識の独白として描いたところに新味があるだろうし、ホントに10年後ならATG映画になるよね。ラストだけもう少しスマートに構成すれば傑作になったかもしれないのに、そこは中平康らしくないなあ。


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