推理映画じゃないよ!新藤兼人オリジナルの歪な家庭劇『殺したのは誰だ』

基本情報

殺したのは誰だ ★★★
1957 スタンダードサイズ 91分 @アマプラ
企画:浅田健三 脚本:新藤兼人 撮影:姫田真佐久 照明:三尾三郎 美術:松山崇 特殊撮影:日活特殊技術部 音楽:伊福部昭 監督:中平康

あらすじ

■食い詰めた自動車のセールスマン(菅井一郎)が、あくどい商売で立ち回るライバル(西村晃)から保険金詐欺に誘われるが、思わぬ番狂わせで事故死は免れる。だが、その息子(小林旭)がビリヤード賭博で借金を抱えたとき、再びあの男の悪魔の囁きが。。。

感想

新藤兼人のオリジナル脚本を中平康が演出した犯罪サスペンス。初期中平康の傑作とか秀作とか、なんとなくタイトルだけは知っていたけど、ミステリーでも活劇ではなく、一種の心理劇で、ホームドラマであるというのは意外だった。新藤兼人の創作なので、さすがに一筋縄ではいかないドラマだけど、明確なテーマ性と構成の安定感には揺るぎがなく、ちゃんとサスペンスも効いている。

■菅井一郎は女房を亡くして飲み屋の女将のところへ上がり込んで腐れ縁の内縁関係にあるが、娘はそんな父を嫌うし、息子はちゃっかり借金の普請に訪れたりする。ハエやネズミが蝟集して、髭茫々の廃人同様の浜村純が根をはやした、とにかく薄汚い不衛生な飲み屋が、実はメイン舞台で、この舞台構成はのちの『当たりや大将』を思わせる。似てるよね。

■菅井一郎のうらぶれ方はリアルだし、渡辺美佐子小林旭の子供たちの配役には文句はないのだが、飲み屋の女将を山根寿子が演じているのはさすがにピンとこない。戦中から戦後時期のスター女優だったらしいが、さすがにそこまでの映画的教養はないから、誰ですか?って感じ。西村晃からも言い寄られるんだけど、何故にモテモテ?としか感じないもんね。くたびれたおばさんをリアルに演じるからそうなるわけですが。今はこんなにくたびれたけど、昔は美人だったし、今でも磨けば光る美魔女(?)という含みでしょうか。同時代に中根寿子を観ていた観客にはそれで通じたわけでしょうね。当時はね。

■保険金詐欺の事故現場のモンタージュにミニチュア撮影が使われていて、衝突事故のインサートカットを撮っているのだが、これはかなり上出来。モノクロ撮影の短いカットということもあり、バレない。姫田チームによる縦横無尽なクレーンショットもメリハリがきいており、スペクタクルな見せ場になっている。この時期、中平康はクレーンショットを多用していたのか。

■ただ映画のテーマとしては弱くて、誰が死ぬのか?誰が殺したのか?悪魔のような西村晃はなんの象徴か?といったあたりのテーマ解釈が意外と浅くて、お話自体が無理やり構築した感じの不自然さが否めず、むしろ後年の『その壁を砕け』の方がテーマと素材とサスペンスが無理なく噛み合っていると思う。

参考

中平康新藤兼人の脚本に信頼を置いており、事務所を訪ねては何か良い本はありませんか?と企画を探っていたそうです。
maricozy.hatenablog.jp
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