大阪物語 ★★★

大阪物語
1957 スタンダードサイズ
BS2録画

原作■溝口健二 脚本■依田義賢
撮影■杉山公平 照明■岡本健一
美術■水谷 浩 音楽■伊福部昭
監督■吉村公三郎


 年貢が払えずに離農して米俵からこぼれた米を拾って財を成して大店とした主人公(中村鴈治郎)は相変わらずのドケチぶりを発揮して、家族からも疎まれる始末。妻(浪花千栄子)が亡くなると、同様に倹約家の商家の後家(三益愛子)の長男(勝新太郎)に娘(香川京子)を嫁がせる約束をするが、彼女には奉公人(市川雷蔵)との約束があった・・・

 中村鴈治郎が極端な始末屋で終いには気が狂ってしまう大阪商人を演じる、溝口健二の遺作企画。さすがに脚本はよく練られているが、ラストは少々呆気ない気がする。基本的にコメディなので、溝口健二の演出で見てみたかっった。

 大阪商人の生態というよりも、貧農出身の男の狂気のなかに、大阪人気質を極端な形で描き出すのが狙いだろう。ナチュラルな関西弁の応酬による風俗劇には現在の日本映画では不可能な贅沢さを味わうことができる。

 ただし、プリントの状態は良好とはいえず、全体に焼きが暗すぎてコントラストの無い眠い画調になっているのは、杉山公平の狙いではないだろう。贅沢な商家の美術セットの使い方などこの頃の映画ならではの見所だが、もっと綺麗なプリントで観たいものだ。

補遺

 依田義賢のオリジナル脚本では、ラスト近辺が異なり、撮影前か撮影後に3〜4シーンカットされたと思われる。完成版の唐突な幕切れはこの改変のためである。

 オリジナルでは、娘と奉公人の駆け落ちした後の顛末や、しっかり父親の気質の一部を受け継いだ長男(林成年)のエピソード等が用意されており、各登場人物についてちゃんと”結”が描き出されている。これらのシーンが脚本どおり完成版に残っていれば、確実に映画の評価を高めたはずである。かえすがえすも残念な改変である。

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