感想
■田宮二郎の主演シリーズ「犬」シリーズの第一作。『白い巨塔』で財前五郎を演じる前の、身が軽くてペラペラと早口でよく喋る大阪のあんちゃん風のチンピラを楽しげに好演するアクション喜劇で、浪速風味の人情がちょっと絡むし、さらに結構垢抜けたメロドラマの見せ場もある良作で、まだ大映も余裕があったらしく、リッリなモノクロ映画。撮影の武田千吉郎はあまり有名ではないが、実は結構な名手で、いい映画を何本も撮っている。本作も重厚さとロケ撮影のシャープさを見せつける。日活映画ほどではないが、現地ロケの魅力も多めで、貯水池付近の街角の情景なんて素晴らしい。
■お話云々よりも配役のアンサンブルの妙で見せる映画で、なにより田宮二郎の軽快なチンピラぶりが痛快。レギュラーとなる坂本スミ子のリアルな関西女の風情も、まあ満点やね。勤め先のラブホが焼失して失業し、パンパン(死語)になって生き残っているしぶとさ。木賃宿の労務者から200円(!)取り立てて、まあえわと引き上げる風情、最高。田宮二郎を付け回すヨレヨレ無精髭の刑事役が天知茂で、これが絶品の味わい。まだ若くいけど、新東宝時代よりも余裕が出てきて、軽妙な演技が満点の見ものだし、素直にかっこいいい。そして、今見ると田宮と天知のBL風味のホモソーシャル感が際立つ。
■一方、ヒロインの江波杏子はまだ開発途上で硬い。演技的な心理描写はまだ不十分だし、脚本に書かれた女の陰影の表現には達していないが、港のホテルでの田宮とのメロドラマの見せ場は田中徳三の意外な資質が見られて、フランス映画というか、まるで日活映画のよう。多分、舛田利雄を意識したと思うな。同世代やし、わしかて負けてへんで!その意気が伝わってくる。
■佐々木孝丸がヤクザの親分で前半で活躍するのも珍しいし、塚原哲夫のジャズ音楽も爽快で楽しく、田中徳三の器用さがよくわかる快作。一部では田中徳三を過小評価する向きもないではないが、いやいやかなりユニークな資質の持ち主で、やっぱりいい映画が多いのだ。人間はそれぞれに個性があり、映画には作った人の個性がなからず表出するものなのだ。
参考
maricozy.hatenablog.jp
これなんかも田中徳三の異色作で、いい映画。どう考えても特別な才能あるよね。
maricozy.hatenablog.jp
だって『怪談雪女郎』撮っちゃう人なのだ。耽美世界は独壇場という個性派でもある。
maricozy.hatenablog.jp
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