実は立派な喜劇映画!小百合版『青い山脈』

基本情報

青い山脈 ★★★
1963年 スコープサイズ 96分 @amazonプライム・ビデオ
原作:石坂洋次郎 脚本:井手俊郎、西川克己 撮影:萩原憲治 照明:安藤真之助 美術:佐谷晃能 音楽:池田正義 監督:西河克己

感想

■おなじみ『青い山脈』の日活版ですよ。でもよく考えてみると、東宝の『青い山脈』って前編しか観て無くて、後編はなぜか観る機会がなかったのだ。ということに改めて気づいた。だから、例の「ヘンしいヘンしい新子様」の件を映画で観るのは初めてだったのだ。特に本作は、青春映画というよりも、明確に喜劇映画じゃないか。

■正直、ドラマとしてはあまり上出来ではなくて、島崎先生なんてちょっと性格がキツすぎて言っていることは民主的なんだけど、言い方に険があるというタイプで、学内が揉めるのも無理はないという感じ。芦川いづみが演じるのに、なぜもう少し愛嬌を入れないのかと訝しくなる。オリジナルでは原節子がもっとニュアンスを含んだ演技でリアルだったけどなあ。

吉永小百合の新子も一方で中途半端で、主役のような主役じゃないような扱い。アイドル映画としてはそれでもよくできているんだけど。実際、溌剌と撮れているからね。相方の浜田光夫も軽くていいし、ガンちゃんを演じる高橋英樹に至っては、随分設け役。

■お話のクライマックスのPTA役員総会も、実は何も決まっておらず、なんのための会合だったのかというものだが、コメディとしては実はかなりよくできている。脚本改稿の趣旨は、短縮して、喜劇要素に集約するということだったようだ。実際、三谷幸喜の喜劇みたいな仕上がりなのだ。

■役員総会には赤牛こと地方ボスをオリジナルと同じ三島雅夫が演じるのが嬉しいし、例の偽ラブレターを読み上げるのが井上昭文というのもなかなかの配役で、コテコテの喜劇演技で笑わせる。他にも藤村有弘、高橋とよとか、左卜全とか、北林谷栄とかお腹いっぱい。特に満を持して登場する北林谷栄が立ち上がって、2つのラブレターが対峙するというよくできた喜劇映画の趣向で、まあ原作通りかもしれないが、楽しいですよね。

■リマスターも実に贅沢でピカピカだし、快作だと思いますよ。


あの人の死は、犬死ではありません…『あゝ零戦』

基本情報

あゝ零戦 ★★★
1965 スコープサイズ 87分 
脚本:須崎勝弥 撮影:石田博 照明:渡辺長治 美術:高橋康一 音楽:木下忠司 特殊撮影:築地米三郎 監督:村山三男

感想

■おなじみ大映の戦記映画シリーズですが、昭和40年の公開で、『大怪獣ガメラ』と同じ年。特撮の築地米三郎はこの前年に『大群獣ネズラ』(製作中止)の特撮にも取り組んでおり、なかなか充実した時期だったらしい。本作はずっと昔に観ていたつもりだったが、どうも初見ですな。まったく新鮮な気持ちで観ましたよ。ニューギニアのラエ、セブなどの前線基地を転戦しながら戦況はますます緊迫し、歴戦のベテラン搭乗員たちは次々に命を落としてゆく。零戦はついに反対していた特攻作戦に組み込まれることになり、沖縄の沖へ飛び立ってゆく。。。

■ただこれはいささか看板に偽りありで、本郷功次郎の出番は三分の一くらいまで。実質の主役はなんと長谷川明男なのである。いや正確には零戦そのものが主役で、戦争という極限状態のなかで出会った零戦に魅せられた飛行機乗りたちの、零戦への愛情を綴った群像劇である。と考えればどうしても東宝の『零戦燃ゆ』ともイメージがだぶるが、本作のほうがむしろコンパクトによく纏まっているかもしれない。ただ、配役やスタッフの座組を見ても明らかなように比較的低予算作品で、会社としても大作にする自信がなかったのだろう。

■人命よりも機動性を重視して極限まで重量を抑えたおかげで小回りのきく機動的な操縦が可能となり、永年空のエースとして君臨することができたその機体を貧乏な日本ならではの発想による味噌汁臭い戦闘機と呼ぶ彼らの零戦への思い、ラストには沖縄沿岸の特攻作戦に参加して負傷し墜落死を覚悟しながらも、機体の声なき声を聞いて、お前はまだ生きられると最後の力を振り絞って不時着して零戦の機体を生還させるエピソードなど、脚本としては徹底している。ただ、演出的にその意図に十分応えているかどいうかは疑問があるが。

■戦闘シーンに当時の質の悪い実写フィルムを多用したのも残念なところで、例によって米艦に特攻する場面は何十回も見せられた記録フィルム。空戦場面等でミニチュア特撮はふんだんに使用され、飛行場面の操演も含めて質はかなり高い。流れる雲をスモークやグラスワークで描きだし、モノクロ撮影のおかげもあってかなり上出来。ただ、コックピットの背景などは『零戦黒雲一家』のスクリーンプロセスが勝る。大映のスクリーンプロセスはイマイチなのだ。せっかくの見せ場になると記録フィルムに切り替わるのはホントの興ざめ。

■いちばんの設け役はツバサもぎりの徳永上飛曹を演じた早川雄三で、中盤の大役。死ぬときは空の上でと言い続けてきた男が空爆に飛び出していった若い兵を庇って地上であっけなく犬死する場面、救われた少年兵が未亡人に嘘の報告をしようとする場面など、作劇としてはよく書けていて、思い出すとちょっとジンと来るのだが、演出が十分でないと感じる。上手くない。そうそう、特攻作戦に指名されて恐怖から跳ね上がる若い操縦士を演じる青山良彦が非常に生々しくて良かったのが印象的。時代劇の脇役なんかではあまり冴えないのだが、こんな熱い芝居ができる人だったのか。線が細い二枚目だけど、むしろ癖のある悪役なんかのほうが演技的には向いていたのかもしれないぞ。


みんな死んでしまえ!小百合の怒りが炸裂する『若草物語』

※この画像はamazon様からお借りしました。DVDへのリンクは以下からどうぞ!

基本情報

若草物語 ★★★☆
1964 スコープサイズ 85分 @NHKBS
脚本:三木克巳 撮影:松橋梅夫 照明:森年男 美術:横尾嘉良 音楽:崎出伍一 監督:森永健次郎

感想

■大阪から長女を頼って残りの三姉妹が上京して東京で四姉妹が揃うが、幼馴染のキャメラマンと再開したことから、次女と三女の間に微妙な隙間風が漂い始める。。。

■何故か異様に気合の入ったリマスター版で、こってりとした色彩と解像度の高いピカピカの放送原版。正直なところ何も期待せずに観ていたのだが、なかなか面白い。脚本の三木克巳井手俊郎の変名で、日活で書くときのペンネーム。さすがに井手俊郎の脚本は面白いなあと感心した。

■四姉妹だが長女の芦川いづみは顔見世程度出番で見せ場もなし。四女の和泉雅子は当時の人気アイドル女優で、最近は冒険家の姿しか思い浮かばないが、コミカルな演技がナチュラルでうまいし、天性の役者ぶり。でも、結局は引き立て役なんだよね。しかしその引き立て方がまた上手なんだけど。

■実質の主役は三女小百合と次女ルリ子。しかも、最終的には小百合に感情移入させるように作劇されているからルリ子は極言すれば憎まれ役なのだ。キャメラマンの恋人がありながら、ボンボン大学生との遊びもやめられず、どっちつかずのダラダラした二股関係を続けるルリ子の最終決断に、観客みんなの反感を煽り、その怒りを小百合に代弁させる。みんな死ねばいいんだ!と叫ぶ小百合に観客全員が快哉を叫ぶ。

■ラストの空港の場面でも、屈託なく幸せそうな花嫁姿のルリ子を遠目に眺めながら、怨念と万感のこもったたった一言「お姉ちゃん!」と叫ぶあたりの作劇もうまいし、演出的にも見事に成功している名場面。

■監督の森永健次郎は結構謎な演出が多くて、フルショットで無意味なクレーンショットを多用して、意味なくキャメラが動き回るし、カット尻は次のカットに食い込むくらいの速度で余韻もクソもなく場面転換するし、いわゆる文芸映画の撮り方ではない。主題歌もあまりに古臭くてさすがに今聞くには厳しい。昭和39年当時の東京の世相をドキュメンタルに切り取るという趣向も中途半端。でも、要所要所の引き締め方はソツがなくて、メロドラマとしてはよくできている。

■正直、本作は小百合が一番の儲け役で、実際演技的にも予想外に良い。次女のルリ子は前半、なんだか軽い役だなあと思っていると、徐々に背負った恋愛ドラマの構造が見えてきて、二人の男の間で揺れ動く悪の二股女を演じることになる。完全に憎まれ役ですからね!お約束通り、最後に自らの意思で愛する男のもとに走り出す小百合に、和泉雅子が冒頭で語る夢のために蓄えた貯金をさらっと差し出す場面も実にうまい脚本。昭和40年の正月映画にしては小品ですが、いやあ良い映画でしたよ。堪能しました。


参考

そうそう、これも森永健次郎の映画だった。変な人!
maricozy.hatenablog.jp
あれもこれも、ぜんぶ小百合映画なのだ!オススメは『手塚治虫ブッダ』なのだ。本気です!
maricozy.hatenablog.jp
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死の商人・裕次郎が軍需工場に殴り込み!『太陽への脱出』

基本情報

太陽への脱出 ★★★
1963 スコープサイズ 110分 @DVD
脚本・山田信夫舛田利雄 撮影:山崎善弘 照明:藤林甲 美術:松山崇 音楽:伊部晴美 特殊技術:金田啓治 監督:舛田利雄

感想

■戦乱のベトナムに日本の死の商人が武器を密輸していることを知った記者は現地へ飛ぶ。バンコクには中国人を装って武器を売りさばく二人の元社員の姿があった。だが、彼らは事の発覚を恐れた本社から地下に潜るよう指示され、常に監視の目が光っており、記者に協力することを決心した杉浦は空港で刺殺された。頑なに記者への協力を拒んでいた速水は日本へ帰ることを決心するが、暗殺者の魔手が迫っていた。。。

裕次郎、死す!というのが一大イベントであったという本作。日活が裕次郎をアイドルとして扱ったことをよく示している。本作で裕次郎バンコクの現地妻とベッドシーンを演じ、ラストには軍需工場に殴り込んで社長の送り込んだヤクザたちに蜂の巣にされて絶命するのだ。

■そのため、単なるアクション映画ではなく、社会派映画として構想し、しかもバンコクで大ロケーションを敢行している。実際、撮影スタッフの粘りもあり、ロケーションの成果はなかなか見事なものだ。特に、傷ついた裕次郎の道行きとか、マーケットの場面など、現地ロケの効果バツグンだ。裕次郎が演じるのは初の海外赴任で無邪気に喜んでいたら会社から武器を売るように命じられ、さらには世論をかわすため事故で死んだことにされてしまうという男。故郷を失い、良心も失ったニヒルな男として登場する。

■その相方を演じるのが当時日活映画にはよく出ていた梅野泰靖で、ずいぶん大きな役なのだ。そして、裕次郎の現地妻を演じるのが岩崎加根子という異色の配役は、いかにも曰く因縁がありそう。日活専属女優にはそんな役は演じさせられないという話だろうと想像する。もちろん、ルリ子には振れないだろうし、小百合もいずみも、そりゃ無理筋。ということで、加根子が、私が裕次郎さんの恋人役なんて!と喜んで引き受けたという流れかと邪推する。でも実際、とっても良い役で、キレイに撮ってもらえるし、中盤の見せ場を支える。空港で裕次郎を逃がす場面などは流石に舛田演出も綿々とやりすぎだが、気持ちは分かる。本作の見所は加根子と殿山泰司だからね。

■なにしろ大作なので美術は松山崇だし、メリハリのきいた舛田演出なので、裕次郎と梅野の葛藤とか、中原中也の詩にメロディを付けちゃった『骨』を歌う場面など、ムードアクションらしい良い場面も少なくないが、裕次郎が日本に帰ってからの終盤に蛇足感が漂う。

■ちなみに、当時のキネ旬からコンテンツを引き継いでいる映画.COMによれば、物語の終幕は映画と異なり、軍需工場は裕次郎のダイナマイトによって大爆発することになっていたらしい。当時のキネ旬のあらすじ紹介は決定稿ではなく、かなり早い段階の準備稿レベルの内容が書かれている事が多く、不正確というよりも逆に参考になる事が多いのだが、どうも初期の構想ではそうしたスペクタクルが用意されていたようだ。

■実際、特殊技術には金田啓治がクレジットされているのに、特撮らしい特撮は航空機の夜間飛行シーンの1カットだけという不可思議な状態で、当然期待する大爆破シーンがないのはいかにも肩透かしで、君の死は無駄にしない、このことはちゃんと報道するからね、で終わってしまうのはさすがにカタルシスに欠けるし、竜頭蛇尾の印象だ。何らかの横やりがあって変更になったか、予算ぐりの問題で中止になったか、ミニチュア撮影はしたものの完成度に難がありカットされたか、いかにも裏がありそうだなあ。

豪快!裕次郎が安保闘争の国会前にベンツで乗り付ける!『あいつと私』

基本情報

あいつと私 ★★★
1961 スコープサイズ 104分 @DVD
原作:石坂洋次郎 脚本:池田一朗中平康 撮影:山崎善弘 照明:藤林甲 美術:松山崇 音楽:黛敏郎 特殊技術:金田啓治 監督:中平康

感想

■スキー事故から回復した裕次郎の復帰第一作として企画されたのは定番の石坂洋次郎もので、一応文芸映画として製作されている。あきらかに文芸映画として成功した大作『陽の当たる坂道』の成功体験を引きずっている。

ブルジョアの慶応大生たちが1960年の安保闘争のあった一年間をいかに過ごしたかという青春映画であり、裕次郎の出生の秘密をめぐる家庭劇でもある。裕次郎を「あいつ」と呼ぶ、本作の話者「わたし」が芦川いづみで、彼女の家庭と裕次郎の過程が対比して描かれる。その中で、母親の問題が戦後民主主義の最大の問題であるというテーマが浮かび上がるのは、『陽の当たる坂道』同様に石坂洋次郎ならではの解釈といえようか。

戦後民主主義の中で女性が本来得るべき社会的地位を獲得してきた時代、家庭の中で父親の存在感はほぼゼロに等しい。その猛烈な母親を演じるのは『陽の当たる坂道』と同じ轟夕起子。戦後、女性の本来持つ「支配力」が民主化のなかで一気に開放され、戦前の家父長は無力化した。その結果、戦後世代の子供達は母親の支配から独立というテーマを背負うことになった。芦川いづみはそのことを、樺美智子が圧殺された1960.6.15の安保反対デモが燃え上がる国会前で自覚する。

■一方、裕次郎の物語にも同じことがいえ、さらに戦後民主主義を象徴する母親に対して、突然アメリカから現れた実の父親との選択を迫られる。戦後世代のこどもたちは日本を取るのかアメリカを選ぶのかというテーマが突如立ち上がり、不完全燃焼のまま唐突にお話は終幕を迎える。

■という意味で実に変な映画で、前半がコミカルなタッチながらセンシティブなテーマを扱って、安保デモの場面はもちろんロケではなく再現だが、昔の映画だからそれなりにモブシーンの動員も厚いし、ちゃんと画面の奥には国会議事堂が合成してあるから感心!60年代から70年代にかけてお色気要員で活躍した新劇女優の標滋賀子(しめぎしがこ)が安保闘争のあとで同士と思っていたデモ学生に輪かんされたことをヒステリックに告白する場面まであり、このあたりだけ妙にシリアスなのだが、彼女のその後の転身が終盤で明かされ、噴飯ものなのだが。。。

■そもそも、裕次郎の同級生が小沢昭一という配役の時点で、もう真面目にやるつもりはないので、女子大生軍団に中原早苗がいて、おなじみのヒステリー演技で、なんとなく定番の持ちネタが披露されるという塩梅。

■しかし、中平康のハイテンポな演出は快調だし、配役も豪華だし、楽曲もあくまで軽快だし、かなり楽しい映画。日本一ショートカットの似合う女優?芦川いづみの小動物のような表情や仕草だけで可愛くて仕方ない。でも、さすがに当時の若い観客には嘲笑われただろうなあ、この映画。

■でも、戦後世代にとって真に必要なのは革命とか政治闘争ではなく、母親からの自立であるというテーマは、実はかなり先鋭的な主張だったかもしれないという気がしないでもないが、誰かこのあたり解き明かしてくれないかな。木下恵介の映画なんかも浮かんでくるなあ。

冗長だが意外にも骨のある意欲作『ある兵士の賭け』

ある兵士の賭け [Blu-ray]

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  • 発売日: 2013/03/20
  • メディア: Blu-ray

基本情報

ある兵士の賭け ★★★
1970 スコープサイズ 136分 @AMAZONプライムビデオ
原作:ジェームス・三木 脚本:ヴィンセント・フォートレー、猪又憲吾 撮影:金宇満司、奥村佑治、西山東男 音楽:山本直純 監督:キース・エリック・バード 共同監督:千野皓司、白井伸明

感想

■1960年、別府の孤児施設白菊寮に募金を届けるため、座間基地からアレン大尉と若い兵士の二人が徒歩で2週間で別府まで歩ききる賭けに出る。アレンが朝鮮戦争で民間人を誤って射殺していたことを知る報道カメラマンの裕次郎はその動機を疑問に思う。。。
■という実話ベースのお話で、石原プロモーションの大作。とはいえ、ほぼロケ撮影なので、美術費が膨大な超大作というわけではない。キャストも小粒で三船敏郎もゲスト出演で顔見世程度だし、左卜全に至ってはほぼ顔も映らない。無駄にグラマーでケバい村娘が渚まゆみというのも何なんだか。
■しかしこれ映画としては結構面白くて、前半どうなることかと心配していると終盤にちゃんとテーマがキレイに収束してくるから、決して失敗作ではない。途中ほとんど登場しない割に裕次郎で締め括る構成も悪くないし、アレン大尉がそこまでして徒歩踏破にこだわる心情がついに明かされないのがこの映画の肝で、成功のポイント。朝鮮戦争からベトナム戦争までちゃんと描かれるし、意外にもちゃんとできた意欲作だよ。
■確かにかなり冗長な映画ではあるのだが、そこは山本直純の楽曲の聞き所でもあり、徒歩行の単調さを観客にも共有させる効果を狙ってあえて編集で縮めなかったのだろう。ある意味で、『砂の器』の先取りだったかもしれない。

■(補遺)ちなみに本作は撮影中にトラブル続出で、もともとの監督だった千野皓司が石原プロのプロデューサーの中井景に降ろされるという事件が起こり、当時の映画関係者の耳目を集めた。その経緯については非常に興味深いので、いずれ当時のキネ旬から簡単に紹介したいと思います。今となっては真相は藪の中だが、『黒部の太陽』で大きく当てた日活出身のプロデューサーである中井景がメンタルに壊れてゆくさまが、かなり痛ましく、映画業界の闇を垣間見る気がします。最終的には焼身自殺に至るので、ホントに洒落にならない、独立映画残酷物語。

ある兵士の賭け

ある兵士の賭け

  • 発売日: 2017/12/28
  • メディア: Prime Video


大日活が世界に誇る東宝陣地に堂々の殴り込み!『零戦黒雲一家』

基本情報

零戦黒雲一家 ★★★
1962 スコープサイズ 110分 @DVD
原作:菅沼洋 脚本:星川清司舛田利雄 撮影:山崎善弘 照明:藤林甲 美術:松山崇 音楽:佐藤勝 ギャグ協力:永六輔 特殊技術:金田啓治 監督:舛田利雄

感想

昭和18年、南洋の孤島バルテを守護するはみ出し者部隊に新任隊長が着任し、そのうち沈没した輸送船から女が漂着する。さらに捕獲した米戦闘機から米兵を捕虜にするが、敵陣営の空襲がいよいよ激化する。。。

■どう考えても東宝の独立愚連隊シリーズを意識した企画で、コメディタッチにすることも既定路線だったようで、なぜかギャグ協力として永六輔がクレジットされる。東宝加山雄三の役どころを裕次郎が演じるが、あまり生きてはいないなあ。先任の上等飛行兵曹を二谷英明が演じていつものようにライバル関係を構成するし、最後には真の戦友になる。たとえ獣のようになっても生きぬいて日本へ帰るんだという二谷のキャラクターがドラマ上の最大の見どころで、漂着した渡辺美佐子との腐れ縁がメロドラマの華を添える。

■というか、渡辺美佐子を新しい切り口にして、兵士たちの心情が吐露されるという脚本の仕組みで、実は大きな役どころなのだ。渡辺美佐子の登場で、彼女を慰問隊の歌姫から慰安婦に零落させてしまった二谷は激しく懊悩し、落ちこぼれだった浜田光夫は男としての成長を自覚する。ドラマ的な主役は実は二谷英明だったような気もするよな。ラストのあの選択と行動も含めてね。

■それに対して裕次郎は確かに立役ではあるのだが人間像にひねりがなく、妙にまじめで面白みがない。とはいえ、お話の構成としてはちゃんと綺麗に決着をつけてくれるからウェルメイドな戦争活劇ではあるんだな。

■見ものは自衛隊全面協力で訓練機を零戦にリペイントしたり、米爆撃機自衛隊の機体を転用して、豪快な飛行、空爆シーンを撮影したところ。東宝でもここまで露骨なことはしていないので、スペクタクルとしては見ごたえがある。硝煙の似合う監督、舛田利雄の誕生だ。きっと東宝もちょっと驚いただろうな。

■一方、特撮シーンも少なくはなく、ミニチュア撮影はふんだんにあるが、さすがに操演は東宝のようにはいかず厳しいカットも多い。特に弾着から海上への着水というシーンは、ミニチュアの挙動を撮り切れていない。とはいえ、日活名物のスクリーンプロセス合成を多用したりしてキャメラワークは案外意欲的なんだけど。

■映画の雰囲気的には東宝が『ゼロファイター大空戦』で本作を参照していることは確実で、さすがに後出しじゃんけんなので、映画の出来としては本作を上回っている。裕次郎&二谷が加山&允に置き換わっているわけだ。東宝としても日活にここまでやられると意識せざるをえないよなあ。

インチキ投資話に一億円突っ込むオヤジは愛妻を奪還できるのか?ヌルい韓国活劇『無双の鉄拳』

無双の鉄拳 [Blu-ray]

無双の鉄拳 [Blu-ray]

  • 発売日: 2019/12/03
  • メディア: Blu-ray

基本情報

無双の鉄拳 ★★

感想

■人身売買組織に誘拐された愛妻を取り戻すために、借金まみれで首が回らない魚市場の仲買人がポンコツな仲間たちと強制捜査を開始する。。。というお気軽な活劇映画。最近の韓国映画らしいエッジの効いたどす黒いサスペンス要素があるかと思えば、それはほんの味付け程度で、基本的に気楽でコミカルな家族映画。
■正直、お話も演出も中途半端で特に後半は凡庸すぎて欠伸が出る。主演のマ・ドンソクのいいところが出ていない。『新 感染』が面白かったのはマ・ドンソクの大活躍のおかげだったわけだが、本作のキャラクターは工夫が足りない。
■悪役のファイナンス会社の社長を演じるキム・ソンオはノリノリの怪演で、金の力で人間の偽善を暴くことを商売&趣味とする悪魔的な人物を演じるが、終盤にキャラクターが卑小化するのは勿体ない。ちょっと草野大悟の若い頃を思い出したよ。
■借金だらけなのにキングクラブの投資話になんと1億円(単位が違うのかなあ。字幕ではそうなっていた気がするけど)も突っ込む無茶なオヤジなのに、金にルーズなその性格設定が自業自得として彼を追い詰めるのではなく、実にお気楽に回収されるので呆気にとられる。もともとそういうお気軽な映画だったわけで、先鋭的な韓国映画を期待するとガッカリしますよ。
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平成ガメラ発、シン・ゴジラ行き?当時の政権は「戦後最大の危機」にいかに対応したか?『太陽の蓋』

基本情報

太陽の蓋 ★★★★
2016 ヴィスタサイズ 130分 @DVD
脚本:長谷川隆 撮影:小宮由紀夫 照明:林大樹 美術:及川一 音楽:ミッキー吉野 VFXプロデューサー:平興史 監督:佐藤太

感想

■当然のことながら封切り当時から話題になっていた本作をこのタイミングで観るのも、ある意味有意義なことですね。東日本大震災に伴って発生した福島第一原発事故に対する「戦後最大の危機」対応を実録映画として描いた骨太な映画。しかし、封切り当時には「戦後最大の危機」が10年も経たないうちにまた発生するとは想像できなかっただろう。いや、当時からパンデミックへの危機感はありはしたと思うが。

■本作の眼目は東日本大震災の発生から5日間の主に福一の事故の深刻化に伴って右往左往する当時の民主党政権の動向を原則実名で描いたことにあり、それは製作者が民主党支持だからできたことである。不偏不党な映画ではなく、自分自身の旗印を明確にした映画である。

■もちろんメジャー製作の映画ではないから超大作ではなくて、配役も小粒なんだけど、ロケセット撮影に妙味があり、意外にも貧乏くささはない。何しろメインのスタッフは金子修介組の生え抜きで、平成ガメラシリーズに参加したスタッフが中心。監督の佐藤太は金子組の助監督の出身で『ウルトラマンマックス』の監督としても冴えていた人。本作も実に堂々としていて、淀みがなくて、十分凄いと思うよ。脚本の長谷川隆も同様のラインだけど、これもかなり上出来。福一が一号炉から四号炉まであって、ひとつづつ爆発してゆく様をサスペンス仕立てで積み上げる。実際そのとおりだったわけだが、映画としても実に面白い。

■問題の核心は、東京電力本店から政府の危機対策本部にリアルタイムな情報が伝達されなかったことだというのが本作の肝で、実際にその通りだったらしい。東電本店は福一とテレビ会議でつながっていて、すべてを把握しているのに、東電から危機対策本部に入っている社員は意図的にサボタージュしていたというのが主張の核心なのだ。だから政権は的確な判断のしようがなかったのだと言い訳する。でもそれは単なる言い訳ではなく、仮に自民党が政権を担っていたとしても同じようなことしかできなかったのではないかと問いかける。実に主張の明確な映画で、そこは清々しいほどだ。褒めれられていい美点だと思う。仮にいま立憲民主党が政権を握っていたら、新型コロナ対策はもう少し見栄えがしたものになっていただろうか?

三田村邦彦演じる菅直人はむしろ脇役で、神尾祐演じる福山哲郎が実質主役級の活躍。神尾祐がかっこよすぎるので語弊を招くのだが、ほんとにカッコいい。続いて大きい役割の首相補佐官を演じるのが青山草太で、これは『ウルトラマンマックス』からのスピンオフ。持ち前の清潔感のある誠実さが、嫌味なくて良い味ですよ。菅原大吉はほんとはもっと上手い人なんだけど、枝野幸男を茫洋とした雰囲気で演じるのは特殊な演出意図だろうか。

■政府中枢の対応と並行して、福一に努める地元の青年の家族のエピソードと、新聞記者とその家族の姿が描かれて、当時の日本全体の姿を包括的に描くことにも成功しているから、凄い偉業ですよ。

■しかも、本作は『シン・ゴジラ』と全く同じ時期に封切られていて、お話の肝の部分が共鳴している。いまなお原子力非常事態宣言は継続中で、根本的な解決は未了のまま、壊滅的事象へのカウントダウンは留保中という結論は、東京駅前で凍結されたシン・ゴジラの存在そのものなのだ。同時期に製作され公開された二本の映画はまるで双子の兄弟のように、驚くほど似ているのだった。


これぞ元祖女賭博師?知られざる野川由美子の傑作『賭場の牝猫』シリーズ

※ついにアマプラに登場です!

知られざる傑作シリーズ

■なぜかフランスでHDリマスター版ブルーレイが発売されているという知られざる女ヤクザ映画。日本でも既に誰の記憶からも消えてしまったはずなのに、なぜフランスで?しかも、大映の女賭博師シリーズの二番煎じでしょ?と思ったのは大間違い。実はこちらのほうが先に製作されている。たった1年の差ですが、ひょっとすると大映は日活のこのシリーズに触発されたのではないか。

■実は観ればわかるとおり、主演の野川由美子が見違えるような好演を見せる女性映画であり、ヤクザ映画なのだ。野川由美子ってなんだかプログラムピクチャーのお色気要員として雑に扱われている感じで、鈴木清順の映画で主役もやっているけど、必ずしも綺麗に撮ってくれないから、なんだか野性味と力感はあるけど大味な女優という印象だった。後年は芝居の上手さに感心することも多くなったけど、このシリーズを観ると、野川由美子の女優としてのポテンシャルの高さがよくわかる。だれしも野川由美子が好きになる。ほんとに綺麗なんだもの。こんなに綺麗でフォトジェニックで映画向きの女優だったとは。

『賭場の牝猫』

1965年 スコープサイズ 88分
脚本:上田潤、淺田健三 撮影:中尾利太郎 照明:吉田一夫 美術:中村公彦 音楽:河辺公一 監督:野口晴康

イカサマ賽を作った象牙細工師の父親が何者かに殺された。娘の雪は壺振りに身をやつして真犯人を探ろうとするが、インテリヤクザの伊東と知り合い、女の武器を最大限に活用するんだと、身体に入れ墨を彫られる。。。

■舞台は現代の東京の下町で、素人娘が女壺振り師に変化してゆくプロセスを意外とじっくり見せる良心作。野川由美子がキップのいい啖呵を切るのは終盤で、もっぱら菅井一郎の人情刑事とインテリヤクザ伊東との交流の中で女心を演じて見せる。とにかくHDリマスターの威力が猛烈に綺麗で、陶然とするモノクロ撮影。しかも野口晴康の演出が実に的確で、低予算映画のはずなのに、妙に贅沢な映画に見える。

■中尾利太郎の撮影も秀逸で、とにかく野川由美子を魅力的に見せることに精力を傾け、鈴木清順のような雑な扱いはしない。深川あたり(?)の住まいの情景や、犯行現場のスラムの情景などもシャープなロケ撮影が見事。

二谷英明とのメロドラマも的確で、河原での二人のやり取りとラストシーンの構図が綺麗に呼応しているし、正攻法の演出で気持ちが良い。

『賭場の牝猫 素肌の壺振り』

1965年 スコープサイズ 86分
脚本:淺田健三、西田一夫 撮影:永塚一栄 照明:高橋勇 美術:横尾嘉良 音楽:河辺公一 監督:野口晴康

■雪はトルコ風呂で働きながら、姉の旦那を撃った犯人を探っていたが、ある日死んだ伊東にうり二つのヤクザが逃げ込んできて。。。

■シリーズ映画のお約束、他人の空似もの(?)ですが、なかなか込み入ったお話を仕組んでますよ。父親が殺されたあと、姉があったことがわかり、しかもその旦那はヤクザの組長で射殺事件があったという過去が語られる。その姉が清次を慕っているという設定もろもろが判明する。

■野口晴康という人は活劇も非常に器用に見せてしまうので、ほんとに野川由美子のプロモーションフィルムのよう。シャープなモノクロ撮影で、髪の毛の黒のディテールと顔の白さと眼もとのシャープなアイラインのコントラストがホントに綺麗なので、見惚れてしまうなあ。

『賭場の牝猫 捨身の勝負』

1966年 スコープサイズ 80分
脚本:淺田健三、西田一夫 撮影:中尾利太郎 照明:土田守保 美術:川原資三 音楽:河辺公一 監督:野口晴康

■死んだ父親の故郷に帰った雪は、芝居小屋の権利をめぐる二つのヤクザの組の対立に巻き込まれる。さらにインテリヤクザ山口が間で何事かを画策しており。。。

野川由美子の女博徒のキップの良さも板について、すっかりヤクザの世界に染まっているが、田舎の組の組長の長男だが堅気の男と恋に落ちる。しかし、恋の成就はかなわず、次の旅に出るという、いかにもシリーズものの定番を綺麗に踏襲した端正な一作。キャメラが中尾利太郎に戻って、ますます端正なモノクロ撮影を堪能させてくれる。

野川由美子の芸達者ぶりも生かされているし、野口監督の演出は絶好調。ラストにはちゃんと井沢八郎が登場して歌謡ショーもたっぷり見せる。自らインテリヤクザと自称するとぼけたトリックスター的な男を宍戸錠が半分冗談めかして演じる。しかも、いかにも続きがありそうな終わり方だが、シリーズはここで打ち切り。大映のカラー作品『女の賭場』がヒットしてシリーズ化してしまったために、断念したのだろう。


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