手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく ★★★☆

手塚治虫ブッダ 赤い砂漠よ!美しく
2011 ヴィスタサイズ 111分
DVD
原作■手塚治虫 脚本■吉田玲子
音楽■大島ミチル キャラクターデザイン・総作画監督■真庭秀明
美術監督■行信三 演出■古賀豪
監督■森下孝三

ブッダの誕生から出家までを描く、三部作の第一作だが、実質的な主役は奴隷から身分を隠してコーサラ国で将軍に成り上がろうと野望を燃やすチャプラという架空のキャラクターで、彼と母親の悲劇をクライマックスとしている。この母子を堺雅人吉永小百合が演じて、手塚治虫らしい性的倒錯を隠そうとしない演出が立派。クライマックスはこの母子の近親相姦的な最期であり、その演出は見事。シッダールタが荒くれの盗賊たちに襲われそうになる場面も、単なる強盗ではなく性的な雰囲気をちゃんと出しているからさすがだ。ただ、全体にメロドラマ部分の描写にコクが足りないのは、男の花園である東映だからかなあ。
■一方のシッダールタの側には女盗賊ミゲーラとの幼い愛と別離が描かれるのだが、ここも恋愛表現が足りないのは残念。ただ、ライ病その他の病人たちの姿を描いているのは立派。その後の初陣の場面では、戦場の死屍累々と常に視線を下に向け、地上に死した者や傷ついた者たちの無残な姿ばかりを目に焼き付けるシッダールタの描写なども偉い。まあ、これが無ければ宗教を描くことなどできないから当然といえば当然だが、『二百三高地』を製作した東映ならではのことでもあるだろう。
■世評ではやけに評価が低いのだが、決してそんなにつまらない映画ではないし、トンデモ映画でも底抜け映画でもない。アニメの作画は場面によってバラつきがあるが、総じて陰影の表現はジブリのアニメなどより丁寧だし、十分に見応えがある。ただ、観客が混乱するのは、タッタという超能力少年が15年の時間を経過しても子供のままだったり(超能力者だからずっと子供のままなのかと思いきや、第二部では成長して松山ケンイチが演じるらしい!!)、チャプラの顔つきも妙に幼いため、時間経過がつかみ難いという難はある。特に、タッタはなんでこんな変な表現になっているのか、謎だ。シッダールタはちゃんと年相応に顔つきが変化してゆくのに、キャラクターデザインの問題かなあ。
■なお、音楽は大島ミチルが担当しているので、もう活劇場面から内省的な場面まで安心して観ていられる。劇映画らしいメリハリのある劇伴で、見せ場を際立たせてくれる。こうした正統派の劇伴は、いまやハリウッドでも絶滅しつつあるから貴重だ。
■制作は東映アニメーション芸術文化振興基金から5千万円の助成を受けて製作された。

手塚治虫のブッダ -赤い砂漠よ!美しく-

手塚治虫のブッダ -赤い砂漠よ!美しく-

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video


参考



日本映画における宗教映画の数々。でも最高峰は『競輪上人行状記』だと確信します。
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