おはん ★★★☆

おはん [東宝DVD名作セレクション]

おはん [東宝DVD名作セレクション]

  • 発売日: 2015/09/16
  • メディア: DVD

おはん
1984 ヴィスタサイズ 112分
BS2録画
原作■宇野千代 脚本■市川崑日高真也
撮影■五十畑幸勇 照明■望月英
美術■村木忍 音楽■大川新之助、朝川朋之
監督■市川崑

■ずいぶんと久しぶりに再見したが、やはり前作「細雪」に比べると遥かに傑作であって、五木ひろしが主題歌でド演歌を披露するという瑕疵も吹き飛ぶくらいに、だらしない男女の三角関係を濃密に描きつくして、しかも市川崑らしいグラフィカルな映像美に溢れている。デビュー作である五十畑幸勇のキャメラが絶品で、その後は徐々に頽廃の道を辿ることになるのだが、この作品は間違いなく傑作である。セット撮影の重厚な美術も優れているが、ロケ撮影の風景の切り取り方に冴えがある。
■分かれた女房と密会を重ね、互いに隠微に燃え上がる、だらしないアホな夫婦を吉永と石坂が好演し、特に石坂は新境地を拓いた。製作者には「夫婦善哉」が頭にあったはずだが、石坂には森繁にような巧さはないかわりに、柄のよさが自然な雰囲気として活かされている。
■一方、大原麗子が、多分映画のキャリアでは最高に違いない色気と巧さを見せる。ラストでは、主演の三者に加えて、彼らの痴態を傍観しながら女としての人生をはじめようとする香川三千の、それぞれの複雑な表情を湛えた笑みを配置して、人間の営みの不思議さと愛おしさを、底意地の悪さの中に美しく描きあげて感動的である。なぜか溝口健二の「赤線地帯」のラストのぞくぞくする感動を思い出していた。
■主題歌が五木ひろしなのに、劇伴はマーラー交響曲第5番嬰ハ短調第4楽章というのも人を食っている。

■ちなみに、この原作は1958年か59年に、豊田四郎池部良山田五十鈴淡島千景でクランクインしたものの、途中で撮影中止が決定されて完成しなかったという事件があった。池部良の関西弁が下手すぎて山田五十鈴が降りるといい出し、浪費した製作費の損害も弁償したという逸話が残っているが、どこまで本当かどうか。巨匠の撮影が予定通りに進まないのは東宝も織り込み済みのはずなので、何か特別の事情があったに違いない。


参考

maricozy.hatenablog.jp
細雪』はいろんなバージョンがあり、大映版も捨てがたい。ちゃんと特撮による台風の水害シーンもある。
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp

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