あゝ予科練 ★★★

あゝ予科練 
1968 スコープサイズ 103分
DVD
脚本■須崎勝弥
撮影■仲沢半次郎 照明■川崎保之丞
美術■中村修一郎 音楽■木下忠司 特撮■矢島信男
監督■村山新治


 昭和十八年、土浦海軍航空隊では、予科練の新入隊員が、厳しい訓練に日夜明け暮れていた。桂大尉(鶴田浩二)は厳格な実力主義で彼らを鍛えてゆくが、あるものは脱落して自殺し、あるものは適性無し(桜木健一)として罷免される。だが、戦況は愈々逼迫し、訓練生は期間短縮で修了し、前線へ送り出されてゆく。そして、フィリピンの基地で桂大尉と再会し、桂大尉の信念で司令部の命ずる特攻攻撃への参加を免れるが・・・

 東映の戦記映画3部作の第3作目。翌々年の「最後の特攻隊」は正式に第4作とは謳われていないようだ。

 予科練の訓練生たちが一人前に成長するまでの時間も与えられず、特別攻撃隊として出撃せざるをえなくなるまでを誠実に描いた戦記映画で、「若鷲の歌」を要所要所に取り入れて、リアルに戦争を経験した軍国少年世代も、その後の世代でファッションとして戦争に憧れる若者(危ないですね)にもストレートにアピールする作風は、”通俗の王者”東映らしいスタイルだ。

 零戦の空戦場面は矢島信男が担当し、少ない見せ場ながら、安定したミニチュア・ワークを見せる。戦闘機のコックピットからの主観映像や、米軍の爆撃機の機銃掃射をアニメ合成など、なかなか本格的な描写が見られる。特に、ラストの鹿屋飛行場から編隊を組んで蒼空の彼方に消えてゆくまでを長い1カットで描き出した情感溢れるラストカットが見事。「最後の特攻隊」にもいくつかのカットが流用されているようだ。

 鶴田浩二はここでも特攻に反対しながらも、抗えない運命なら自ら進んで先頭に立って若者たちの見本とならんと決意する軍人を演じる。これは東映戦記3部作の基調和音であるらしい。その後「最後の特攻隊」でも踏襲されるので、その印象が強くなるのだが。

 この時期の東映戦記映画は、まだ敵国である英米に対する感情的な怨念については突っ込んでおらず、もちろん、大元帥である天皇に対する感情や思いを直裁に表現することは明らかに避けられている。あくまで主眼となるのは、太平洋戦争で醜の御楯として散華していった兵たちの生き死にを抒情的に描き出すことにとどまっており、そのことがこのシリーズの美点となっている。

 戦争に対する作者の本音が表面に躍り出てくるのは、笠原和夫の「あゝ決戦航空隊」以降のことのようだ。そして、東映戦記映画の集大成が「大日本帝国」になるのだろう。


参考




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