大日活が世界に誇る東宝陣地に堂々の殴り込み!『零戦黒雲一家』

基本情報

零戦黒雲一家 ★★★
1962 スコープサイズ 110分 @DVD
原作:菅沼洋 脚本:星川清司舛田利雄 撮影:山崎善弘 照明:藤林甲 美術:松山崇 音楽:佐藤勝 ギャグ協力:永六輔 特殊技術:金田啓治 監督:舛田利雄

感想

昭和18年、南洋の孤島バルテを守護するはみ出し者部隊に新任隊長が着任し、そのうち沈没した輸送船から女が漂着する。さらに捕獲した米戦闘機から米兵を捕虜にするが、敵陣営の空襲がいよいよ激化する。。。

■どう考えても東宝の独立愚連隊シリーズを意識した企画で、コメディタッチにすることも既定路線だったようで、なぜかギャグ協力として永六輔がクレジットされる。東宝加山雄三の役どころを裕次郎が演じるが、あまり生きてはいないなあ。先任の上等飛行兵曹を二谷英明が演じていつものようにライバル関係を構成するし、最後には真の戦友になる。たとえ獣のようになっても生きぬいて日本へ帰るんだという二谷のキャラクターがドラマ上の最大の見どころで、漂着した渡辺美佐子との腐れ縁がメロドラマの華を添える。

■というか、渡辺美佐子を新しい切り口にして、兵士たちの心情が吐露されるという脚本の仕組みで、実は大きな役どころなのだ。渡辺美佐子の登場で、彼女を慰問隊の歌姫から慰安婦に零落させてしまった二谷は激しく懊悩し、落ちこぼれだった浜田光夫は男としての成長を自覚する。ドラマ的な主役は実は二谷英明だったような気もするよな。ラストのあの選択と行動も含めてね。

■それに対して裕次郎は確かに立役ではあるのだが人間像にひねりがなく、妙にまじめで面白みがない。とはいえ、お話の構成としてはちゃんと綺麗に決着をつけてくれるからウェルメイドな戦争活劇ではあるんだな。

■見ものは自衛隊全面協力で訓練機を零戦にリペイントしたり、米爆撃機自衛隊の機体を転用して、豪快な飛行、空爆シーンを撮影したところ。東宝でもここまで露骨なことはしていないので、スペクタクルとしては見ごたえがある。硝煙の似合う監督、舛田利雄の誕生だ。きっと東宝もちょっと驚いただろうな。

■一方、特撮シーンも少なくはなく、ミニチュア撮影はふんだんにあるが、さすがに操演は東宝のようにはいかず厳しいカットも多い。特に弾着から海上への着水というシーンは、ミニチュアの挙動を撮り切れていない。とはいえ、日活名物のスクリーンプロセス合成を多用したりしてキャメラワークは案外意欲的なんだけど。

■映画の雰囲気的には東宝が『ゼロファイター大空戦』で本作を参照していることは確実で、さすがに後出しじゃんけんなので、映画の出来としては本作を上回っている。裕次郎&二谷が加山&允に置き換わっているわけだ。東宝としても日活にここまでやられると意識せざるをえないよなあ。

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