母べえ ★★★

母べえ
2008 ヴィスタサイズ 132分
MOVIX京都(SC6)
原作■野上照代 脚本■山田洋次平松恵美子
撮影■長沼六男 照明■中須岳士
美術■出川三男 音楽■冨田勲
VFXスーパーバイザー■田口健太郎(白組)
監督■山田洋次

■昭和15年の東京、ドイツ文学者の父親を治安維持法違反で特高に逮捕され、残された一家は母べえと2人の娘は途方にくれるが、父親の教え子の山ちゃんや妹が訪れて一家を支えてくれるが、時代は一直線に太平洋戦争へと向かって突き進み・・・

山田洋次が旧世代左翼としての生真面目さを隠そうともせずに披瀝した、古臭い意味での、絵に描いたような”反戦映画”。特に、奈良の叔父さんこと鶴瓶が退場するまでの、日中戦争下での、治安維持法下の息詰まるような暮らしぶりの表現にこもった怨念は、今の時代に製作さえる映画として突き抜けた主張をもたらしそうな予感を含んで見ごたえがあったのだが、終盤の作劇に工夫と戦略性が不足しており、結局のところ旧式の左翼系”反戦映画”の枠組みを一歩も出ていない。一般国民は戦争の一方的な犠牲者で、あの時代はひたすら暗く、陰鬱であったという旧左翼系の時代感に支配されている。実際には、太平洋戦争突入は多くの国民に喝采を持って受け入れられたはずだが、そうした光景は例外的な背景として霞んでいる。そのことは画面構成も顕著で、家の狭さを強調するように、画面には必ず障子や欄干などが入り込み、人間を圧迫する時代の空気を具体的な映像として提示している。

■そうした意味では、さすがに技術スタッフの働きは、日本映画の正統といえる重厚なもので、実に立派な画作りだ。日本映画の淡彩な色彩設計は、映画館のスクリーンでなければ、その真価を味わうことはできないから、薄暗がりや闇の質感を正確に蝕知したければ、映画館での鑑賞をお奨めする。

VFXは最近松竹と仲の良い白組が担当し、青空を編隊飛行する戦闘機や、画面の奥に見える町並みや通過する電車、かすかに遠望される焼け跡といった地味なエフェクトを担当している。しかし、玄関の外に雪が吹き抜けてゆく場面など、いかにも大型扇風機で雪を送ってますという、物理的にリアリティのない雪の表情で満足した本編班の特殊効果には疑問が残る。確か、操演は鳴海聡だったと思うが、あの雪降らしは担当外だったのだろうか。

■ラスト近くの輸送船が沈没する場面は不必要だし、現代の場面も蛇足にしか見えない。吉永小百合のラストの台詞も凡庸だ。山田洋次は近年の内外の戦争映画を観ていないのだろうか。過去の歴史と今現在の時代をどう関連付けて語るか、というこうした映画の工夫の肝になる部分に、戦略性が皆無なのだ。

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