死の商人・裕次郎が軍需工場に殴り込み!『太陽への脱出』

基本情報

太陽への脱出 ★★★
1963 スコープサイズ 110分 @DVD
脚本・山田信夫舛田利雄 撮影:山崎善弘 照明:藤林甲 美術:松山崇 音楽:伊部晴美 特殊技術:金田啓治 監督:舛田利雄

感想

■戦乱のベトナムに日本の死の商人が武器を密輸していることを知った記者は現地へ飛ぶ。バンコクには中国人を装って武器を売りさばく二人の元社員の姿があった。だが、彼らは事の発覚を恐れた本社から地下に潜るよう指示され、常に監視の目が光っており、記者に協力することを決心した杉浦は空港で刺殺された。頑なに記者への協力を拒んでいた速水は日本へ帰ることを決心するが、暗殺者の魔手が迫っていた。。。

裕次郎、死す!というのが一大イベントであったという本作。日活が裕次郎をアイドルとして扱ったことをよく示している。本作で裕次郎バンコクの現地妻とベッドシーンを演じ、ラストには軍需工場に殴り込んで社長の送り込んだヤクザたちに蜂の巣にされて絶命するのだ。

■そのため、単なるアクション映画ではなく、社会派映画として構想し、しかもバンコクで大ロケーションを敢行している。実際、撮影スタッフの粘りもあり、ロケーションの成果はなかなか見事なものだ。特に、傷ついた裕次郎の道行きとか、マーケットの場面など、現地ロケの効果バツグンだ。裕次郎が演じるのは初の海外赴任で無邪気に喜んでいたら会社から武器を売るように命じられ、さらには世論をかわすため事故で死んだことにされてしまうという男。故郷を失い、良心も失ったニヒルな男として登場する。

■その相方を演じるのが当時日活映画にはよく出ていた梅野泰靖で、ずいぶん大きな役なのだ。そして、裕次郎の現地妻を演じるのが岩崎加根子という異色の配役は、いかにも曰く因縁がありそう。日活専属女優にはそんな役は演じさせられないという話だろうと想像する。もちろん、ルリ子には振れないだろうし、小百合もいずみも、そりゃ無理筋。ということで、加根子が、私が裕次郎さんの恋人役なんて!と喜んで引き受けたという流れかと邪推する。でも実際、とっても良い役で、キレイに撮ってもらえるし、中盤の見せ場を支える。空港で裕次郎を逃がす場面などは流石に舛田演出も綿々とやりすぎだが、気持ちは分かる。本作の見所は加根子と殿山泰司だからね。

■なにしろ大作なので美術は松山崇だし、メリハリのきいた舛田演出なので、裕次郎と梅野の葛藤とか、中原中也の詩にメロディを付けちゃった『骨』を歌う場面など、ムードアクションらしい良い場面も少なくないが、裕次郎が日本に帰ってからの終盤に蛇足感が漂う。

■ちなみに、当時のキネ旬からコンテンツを引き継いでいる映画.COMによれば、物語の終幕は映画と異なり、軍需工場は裕次郎のダイナマイトによって大爆発することになっていたらしい。当時のキネ旬のあらすじ紹介は決定稿ではなく、かなり早い段階の準備稿レベルの内容が書かれている事が多く、不正確というよりも逆に参考になる事が多いのだが、どうも初期の構想ではそうしたスペクタクルが用意されていたようだ。

■実際、特殊技術には金田啓治がクレジットされているのに、特撮らしい特撮は航空機の夜間飛行シーンの1カットだけという不可思議な状態で、当然期待する大爆破シーンがないのはいかにも肩透かしで、君の死は無駄にしない、このことはちゃんと報道するからね、で終わってしまうのはさすがにカタルシスに欠けるし、竜頭蛇尾の印象だ。何らかの横やりがあって変更になったか、予算ぐりの問題で中止になったか、ミニチュア撮影はしたものの完成度に難がありカットされたか、いかにも裏がありそうだなあ。

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