北の零年 ★★★

北の零年
2005 スコープサイズ 168分
レンタルDVD 
脚本■那須真知子
撮影■北 信康 照明■中村裕
美術■部谷京子 音楽■大島ミチル
VFXプロデューサー■尾上克郎 VFXスーパーバイザー■道木伸隆
VFX■デジタルメディア・ラボ、マリンポスト、ハンマーヘッド東映ラボテック
監督■行定 勲


 徳島藩主と衝突した淡路の稲田家家臣は明治政府によって北海道の開拓地へ送られることに。酷寒の原野にたどり着いた主従546名は、生き延びるための戦いを始める。札幌に品種改良された稲を貰い受けに出かけた夫(渡辺謙)は、何時になっても戻らず、妻(吉永小百合)と娘(石原さとみ)は裏切り者とののしられる村を捨て、吹雪の中に踏み迷う・・・

 行定勲が「春の雪」の前に撮った、東映映画が社運を賭けた一作。「男たちの大和」といい、東映は頻繁に社運を賭けた映画を連発するのだ。しかも、なぜかそうした映画は当たる。東映映画のしぶとい映画屋魂のなせる業だろうか。

 実際、もっと大味な大作かと思いきや、制作費15億円の大半はフィルム代に使ったのではないかと思われるほど、舞台設定はこじんまりしている。なにしろ開拓村なので、セットも小さく、主な舞台は村の広場のような平坦な地面であり、登場する主従の数も、どうみても20〜30名程度で、数百人は一体どこに隠れているのかと怪訝になるほどだ。もちろん、こうした弱点は、撮影所システムでの大作に不慣れな若手演出家には無理も無いことなのだ。

 ところどころで、撮影設計にばらつきが見られ、ナイトシーンでもばっちりライトを当てた綺麗な場面とノーライトで狙った場面がチグハグで、まるで木村大作のような平板なカットも散見される。観客にとっても撮影担当予定だった篠田昇が急逝したことは痛恨の極みだ。

 だが、むしろ、そうしたこじんまりとした舞台設定のなかで、主人公夫婦と柳場敏郎、石田ゆり子夫婦を対比させて、石田ゆり子に平然と澄ました吉永小百合に女の本音で絡ませたエピソードの設定や、いつの間にか村を牛耳る香川照之の設定など、いかにも東映映画ならではの作劇で、那須真知子の腕っぷしがうまく発揮されている。細部には怪しい箇所がボロボロ見えているが、「デビルマン」に続いて、やはりこの脚本家の骨太な構成力には惹かれる。実際、これは得意のアクション映画の骨法を生かした西部劇なのだ。

 ハリウッドスタイルの撮影方式で、フィルムを42万フィート、時間にすると約78時間分を廻したという行定勲の巨匠ぶりも立派なもので、この後には文芸大作「春の雪」を撮りあげているのだから、昨年は行定の年で良かったのではないか。豊川悦司渡辺謙の贅沢な使い方もうまくはまっているし、予想以上にいろんな意味で愉しい映画に仕上がっているのだ。すべてはサユリに奉仕するために仕組まれた、サユリ原理主義映画である。

 VFXの見せ場も多く、冒頭の小鳥のCGから、イナゴの大群の場面まで、尾上克郎指揮の地味目な大活躍をみせる。視覚効果にはハンマーヘッド橋本満明の名も見える。イナゴの場面は、カット数も多く、見ごたえのあるエフェクトだ。音楽が大島ミチルなので、どうしても「ゴジラ×メガギラス」を思い出してしまうのだが。

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