とんだアワビの抜け殻映画?森永健次郎版『潮騒』

基本情報

潮騒 ★☆
1964 スコープサイズ 82分 @DVD
企画:笹井英男 原作:三島由紀夫、脚本:棚田吾郎、須藤勝人 撮影:松橋梅夫 照明:高島正博 
美術:西亥一郎 音楽:中林淳誠 特殊技術:金田啓治 監督:森永健次郎

感想

谷口千吉の『潮騒』が結構な傑作だったので、その次の映画化にあたる本作を観てみた。ちょうど10年後のリメイク作ということになるわけだが、これがなかなかの凡作で。。。

■もちろんお話は同じのはずだけど、かなり印象は異なる。本作は意外と原作に忠実で、なぜか小池朝雄が語っているナレーションは原作小説から。ハツエの頑固者の父親の台詞なども谷口版『潮騒』よりも原作に忠実なようだ。クライマックスは石山健二郎ならではのがらがら声での怒鳴り芸が堪能できる見せ場で、神島の男は生まれや財産やない、神島の男は気力や!とまくし立てるのが最大の見どころ。なんと通俗な台詞かとバカにしていたら、実は原作通り。三島由紀夫の書いた台詞だったのだ。谷口版ではこのオヤジはなぜか台詞が少なくて、それでいて存在感だけが拡大してゆくという話術が凄くて、中村真一郎の脚色の冴えに驚く。銭湯で娘ハツエの噂話をする若衆に無言のまま制裁を加える場面なんて、実に良い演出だったのに、本作は全く工夫が無い。

■しかし困るのは、シンジとハツエのドラマがさっぱり盛り上がらないこと。このあたりの脚色は完全に失敗している。灯台の娘との三角関係の描写も中途半端で、なんと松尾嘉代が登場するのに、嫉妬が足りない。このあたりも谷口版の脚色は秀逸で、ちゃんと通俗に盛り上がるのに比べて、何がしたいのかわからない。灯台守なんて清水将夫を配役しながらまったく脇役で出番も少なくて、脚本ではもっと出番があったのを編集段階でカットされたのではないかと疑いたくなる。

■クライマックスは島に係留された神島丸が台風の暴風で沖合に流されかけるという展開で、沖縄近海で颱風に遭遇する原作の規模を縮小しているが、これはこれで悪くない。ちゃんとミニチュア特撮を金田啓治が撮っていて、海上の暴風雨の描写は円谷特撮にひけをとらないし、ミニチュアもかなり大きなものを使っているようだ。ところが、ライバルであるヤスオの人物描写が谷口版よりもなお杜撰なので、ちっとも劇的に盛り上がらない。

■昭和39年に伊勢の神島でロケしたのも善し悪しで、当時のリアルな漁港風景や村落の情景は味わえるものの、土俗的な風土感が希薄で、神の存在を台詞などで強調するものの、逆にそうした精神世界が感じられなくなってしまった。

補遺

■実はこのころ日活に旧労組とは別に日活撮影所労組が結成され、本作の神島でのロケは15時以降、組合員が稼働できないので、非組合員や俳優陣だけで撮影が敢行され、小百合や光夫もレフ板を持って照明の補助を行ったという。実はこの日活撮影所労組結成の布石は小百合の代表作『キューポラのある街』の過酷な撮影現場にあったのだが。。。

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