平成ガメラ発、シン・ゴジラ行き?当時の政権は「戦後最大の危機」にいかに対応したか?『太陽の蓋』

基本情報

太陽の蓋 ★★★★
2016 ヴィスタサイズ 130分 @DVD
脚本:長谷川隆 撮影:小宮由紀夫 照明:林大樹 美術:及川一 音楽:ミッキー吉野 VFXプロデューサー:平興史 監督:佐藤太

感想

■当然のことながら封切り当時から話題になっていた本作をこのタイミングで観るのも、ある意味有意義なことですね。東日本大震災に伴って発生した福島第一原発事故に対する「戦後最大の危機」対応を実録映画として描いた骨太な映画。しかし、封切り当時には「戦後最大の危機」が10年も経たないうちにまた発生するとは想像できなかっただろう。いや、当時からパンデミックへの危機感はありはしたと思うが。

■本作の眼目は東日本大震災の発生から5日間の主に福一の事故の深刻化に伴って右往左往する当時の民主党政権の動向を原則実名で描いたことにあり、それは製作者が民主党支持だからできたことである。不偏不党な映画ではなく、自分自身の旗印を明確にした映画である。

■もちろんメジャー製作の映画ではないから超大作ではなくて、配役も小粒なんだけど、ロケセット撮影に妙味があり、意外にも貧乏くささはない。何しろメインのスタッフは金子修介組の生え抜きで、平成ガメラシリーズに参加したスタッフが中心。監督の佐藤太は金子組の助監督の出身で『ウルトラマンマックス』の監督としても冴えていた人。本作も実に堂々としていて、淀みがなくて、十分凄いと思うよ。脚本の長谷川隆も同様のラインだけど、これもかなり上出来。福一が一号炉から四号炉まであって、ひとつづつ爆発してゆく様をサスペンス仕立てで積み上げる。実際そのとおりだったわけだが、映画としても実に面白い。

■問題の核心は、東京電力本店から政府の危機対策本部にリアルタイムな情報が伝達されなかったことだというのが本作の肝で、実際にその通りだったらしい。東電本店は福一とテレビ会議でつながっていて、すべてを把握しているのに、東電から危機対策本部に入っている社員は意図的にサボタージュしていたというのが主張の核心なのだ。だから政権は的確な判断のしようがなかったのだと言い訳する。でもそれは単なる言い訳ではなく、仮に自民党が政権を担っていたとしても同じようなことしかできなかったのではないかと問いかける。実に主張の明確な映画で、そこは清々しいほどだ。褒めれられていい美点だと思う。仮にいま立憲民主党が政権を握っていたら、新型コロナ対策はもう少し見栄えがしたものになっていただろうか?

三田村邦彦演じる菅直人はむしろ脇役で、神尾祐演じる福山哲郎が実質主役級の活躍。神尾祐がかっこよすぎるので語弊を招くのだが、ほんとにカッコいい。続いて大きい役割の首相補佐官を演じるのが青山草太で、これは『ウルトラマンマックス』からのスピンオフ。持ち前の清潔感のある誠実さが、嫌味なくて良い味ですよ。菅原大吉はほんとはもっと上手い人なんだけど、枝野幸男を茫洋とした雰囲気で演じるのは特殊な演出意図だろうか。

■政府中枢の対応と並行して、福一に努める地元の青年の家族のエピソードと、新聞記者とその家族の姿が描かれて、当時の日本全体の姿を包括的に描くことにも成功しているから、凄い偉業ですよ。

■しかも、本作は『シン・ゴジラ』と全く同じ時期に封切られていて、お話の肝の部分が共鳴している。いまなお原子力非常事態宣言は継続中で、根本的な解決は未了のまま、壊滅的事象へのカウントダウンは留保中という結論は、東京駅前で凍結されたシン・ゴジラの存在そのものなのだ。同時期に製作され公開された二本の映画はまるで双子の兄弟のように、驚くほど似ているのだった。


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