七つまでは神のうち ★★★

七つまでは神のうち [DVD]
七つまでは神のうち
2011 ヴィスタサイズ 82分
DVD
脚本■三宅隆太
撮影監督■長野泰隆 照明■児玉淳
美術■福田宣 音楽■遠藤浩二
監督■三宅隆太

■これはまた非常に捻ったお話で、よくもこの脚本で通ったものだと思うし、演出的にも非常に微妙な素材なのだが、空中分解せずに、最後にはちゃんと負のカタルシスを提供することに成功している。これはホラー映画ではあるが、いわゆるJホラー的な心霊実話テイストのものでもないし、『呪怨』的な「幽霊モンスター」(たった今命名した)ものでもない。いや、むしろその両方であるとも言える変な映画である。ホラー映画であるには違いないが、色んなところが変な具合にその枠をはみ出している。そのグニャグニャした非現実性は、アメリカ映画よりも、イタリアの怪奇映画の雰囲気に似ている気がする。
■いくつかのエピソードが一体いつになったら絡むのかと思いきや、後半になってやっと物語の心棒が見えてくるという構成もかなり掟破りだし、被害者と思われた主人公たちが実は加害者だったという逆転劇は定番の反転術だが、その後のなかなか一筋縄ではいかない。なにしろ、○○が物理的な暴力を振るうという、これまた掟破りの趣向を導入するから、普通ならバカにするなと観客が怒り出しそうなものだが、あまりにも無慈悲で残酷なラストでは、何故か不思議な安らぎすら感じさせるから、全く、三宅隆太という人、変な人である。
■しかし、この感覚に少し見覚えがあると思ったら、それは中川信夫の『地獄』であった。人の罪の意識が幽霊を見せるというのが心理主義的怪談映画の基本理念であるが、今時の心臓に毛の生えたような現代人に罪の意識や良心の呵責を思い出させるためには、幽霊も武装化しないと成り立たないというのが、三宅隆太のホラー映画の現代性だろうか。

エンド・オブ・ホワイトハウス ★★☆

OLYMPUS HAS FALLEN
2013 スコープサイズ 120分
ユナイテッドシネマ大津(SC1)

北朝鮮のテロリストに武装占拠され、大統領を人質に取られたホワイトハウス。唯一の頼みは、ただ一人生き残った元シークレットサービスの男だが、かつて大統領の妻を見殺しにした過去があり・・・

■ハリウッドのアクション映画ならではの、ホワイトハウス攻略戦の部分はさすがの大迫力と緊迫感で、面白さは保証つきといっていい。こうした大嘘をリアルに映像化できるだけでハリウッド映画は観る価値がある。ただ、後半は予想通り地味に失速してゆき、竜頭蛇尾の印象は拭えない。

■なにしろホワイトハウスの陥落後は照明の切れた室内での右往左往になるので、とにかく画面が暗い。撮影監督はコンラッド・ホールで、あの名手コンラッド・L・ホールの息子なのだが、後半はあまりにも暗すぎる。いまどき珍しくアリを使ったフィルム撮影で、暗い照明は意欲の現われではあるだろうが、アクション映画にこうした深刻な暗さは不要だ。なにしろ、誰がどう動いて何をしているのかが、一目瞭然でなければアクション映画のカタルシスは得られないからだ。

■しかも主演がジェラルド・バトラーなので、どうしても画面が地味になる。大統領夫人を事故で見殺しにしてから現場を離れてデスクワークをしているが、ひと暴れしたくてうずうずしているという本音の部分をもっと豪快なユーモアで解消したほうが観ていて楽しいはずだが、この配役ではどうも乗れない。これがセガール主演だったら、もっと楽しい映画になっていたはずだ。

■脚本の弱さが後半の失速の原因で、大統領の息子の救出というエピソードも案外捻りが無いし、その後のケルベロス計画についても、画面的にはディスプレイが点滅するだけで尻すぼみ感が否めない。ケルベロス計画の真の狙いには、フクシマ以降の日本の状況を踏まえた批評性が感じられるので、単なるバカ映画ではないのだが、大統領役のアーロン・エッカートも大統領代行になるモーガン・フリーマンも見せ所が無いのは、やはり脚本の未熟さゆえだと思う。

呪怨 白い老女 ★★★

呪怨 白い老女
2009 ヴィスタサイズ 60分
DVD
原案・監修■清水崇 脚本■三宅隆太
撮影■金谷宏二 照明■藤川達也
美術■井上心平 音楽■ゲイリー芦屋
監督■三宅隆太

■呪われた家に引っ越した5人家族が”呪怨”に触れた司法試験浪人の青年の手によって惨殺され、新たな”呪怨”が生まれるまでを、おなじみの呪怨的パズル話法で描いた低予算のビデオ作品。そもそものビデオ版『呪怨』と同じくらいの低予算ぶりで、その後のオズの倒産を予見させるジリ貧ぶり。

■しかし、内容的には見所が多く、非常に陰惨で残虐な一家皆殺しを、直接描写を最小限に止めながらも生理的な嫌悪感を催す嫌な画角で淡々と描いた部分には戦慄するし、最も残忍な殺され方をした少女とその同級生の交流と悔悟の念を軸にドラマを締めくくるあたりは、非常にいい狙いだと思う。正直、その話を”呪怨”のパッケージの中でやる必要があるのかは不明だが、真っ正直にこの陰惨なドラマを描くよりも、”呪怨”であることによる救いが期待できるのは事実だ。

■でも、正直なところ時制と視点をばらばらに分解する”呪怨”スタイルよりも、普通のホラーとサスペンスの話術で語ったほうがテーマははっきりしたと思う。さすがに60分では尺不足なので、80分くらいは欲しいと思うが。

南明奈は本来主演のはずだが、構成上のバランス的にムロツヨシがどうしても強烈に目立つことになる。テレビの人気者が、実際、よくこんな役を演ったと思う。エライ。

■製作は東映ビデオ、CELL、制作はオズ。

贖罪 ★★★☆

贖罪 DVDコレクターズBOX(初回生産限定)
贖罪
2012 ヴィスタサイズ 300分
DVD
原作■湊かなえ 脚本■黒沢清
撮影■芦澤明子 照明■永田英則
美術■松本知恵 音楽■林祐介 VFXスーパーバイザー■石井教雄
監督■黒沢清

■「フランス人形」「PTA臨時総会」「くまの兄妹」「とつきとおか」「償い」の5本の連続ドラマ。こんな企画が飛び出してくるところがWOWOWの侮れないところ。地上波ではもちろん無理だし、映画でも成立しがたいミニシリーズ300分という頃合加減にも味がある。
湊かなえという人の書く物語の独特のえぐさをどう捉えるべきなのか未だに判断がつかないのだが、韓国映画に似ているのではないかと、仮に考えている。という意味で、本作は黒沢清韓国映画的に発展した仮の姿と、個人的には見える。(続く)

ミッドナイトFM ★★★

MIDNIGHT FM
2010 スコープサイズ 106分
DVD

■FMの深夜放送の番組最終日、パーソナリティの女性の元に、妹と娘を人質にしたと電話が入る。脅迫者は次々と彼女を試すような質問と要求を突きつけるが、しくじると妹が責め殺されてしまう。娘の命は、そして脅迫者の真の狙いとは・・・

■キム・サンマンが脚本と監督を担当したサスペンス映画。ラジオ局だけで展開するのかと思いきや、スタジオを飛び出してヒロインの実家に向かいながら生中継が始まり、マスコミ批判まではじまるという盛りだくさんで濃い口の味付けがいかにも韓国映画らしい。それでいてちゃんとサスペンス映画の定石を利用しつくそうという貪欲なサービス精神が空回りしていない。スケール的には日本でも撮れる種類の映画だが、こういう純サスペンス映画は何故か日本映画ではあまり省みられない。本作も、もっとスマートな話にもできるはずだが、これでもかこれでもかと要素をぶち込んだ脚本は努力賞ものだと思う。

ジョディー・フォスターの『ブレイブワン』という映画も女性パーソナリティを主人公にしたムーディなサスペンスで、結構好きなのだが、本作はさすがにああいう雰囲気ではない。もっとアグレッシブで攻撃的なのだ。ヒロインのスエの華奢な風情も良いし、ラストの苦々しさも上出来。やっぱり、『ブレイブワン』に似てるよこれ。

ファインド・アウト ★★★

GONE
2013 スコープサイズ 94分
ユナイテッドシネマ大津(SC2)

■連続殺人鬼に監禁され殺されそうになったところを命からがら脱出した経験がある姉の妹が失踪。あの犯人が帰ってきたと考えた姉は警察に駆け込むが、頭がおかしい、妄想だと取り合ってくれない。タイムリミットは今夜と考えた姉は一人で捜査を開始するが・・・

■というお話で、警察では彼女の拉致監禁自体も信じておらず、ヒロインはその後精神病院に入院しているという逼迫した状況下で、孤独な犯人追跡を始めるが、そもそも妹の失踪は彼女の妄想じゃないのかという含みを残しながら、いかにも怪しげな町民たちが次々と登場して、意味ありげな言動を繰り広げるというサスペンス。確かに、ラストの解決については何パターンか用意してあったのかもしれない。思わせぶりな脇役やエピソードがほったらかしになっているのはその名残ではないか。

■しかし、クライマックスにはちょっと意外なひと捻りが用意されているし、犯人の意外性やその異常な犯意を描くことではなく、ヒロインの行動を描くことが主眼ですよという趣旨は徹底されているので、決して何かに失敗しているわけではない。サスペンス映画というよりも、復讐アクション映画なのだ。

■本来こうしたヒロインは精神的にも肉体的にも虚弱であったほうがサスペンスが盛り上がるのだが、本作はヒロインの設定がユニークで、護身術を習っているので格闘技に通じ、天性の口の上手さで、次から次へと上手い嘘を操って関係者から証言を引き出してゆくそのテクニックは、まさに詐欺師の域ですよ。それは、本作がサイコサスペンスでもサイコスリラーでもなく、能動的な行動の映画、アクション映画であることを示している。

■一方で、犯人の語る森での暮らしの部分など、不気味な仄めかしが効果的で、本作のもうひとりの主役は、闇深い”森”であることを物語っている。”森”の深淵とは人の”心”の深淵の隠喩であろう。受動的に植えつけられたトラウマをこんどは能動的に探り当て、立場を逆転させることで生き返り、成長するという、そんなお話なのだ。だから犯人が何者で何を考えたのかということはここでは重要ではないのだ。

■主演のアマンダ・セイフライド(サイフリッド?)は眼の大きさが一種異様な雰囲気で、精神的な不安定さを感じさせるルックが成功している。他にも鍵屋の親子などもほんとに良い風貌の配役で、楽しい。監督はエイトール・ダリアというブラジル人。で、撮影は小規模作品らしくレッドワン(エピック)を使用している。

オブリビオン ★★★

OBLIVION
2013 スコープサイズ 124分
ユナイテッドシネマ大津(SC5)

■異星人の侵略を撃退したものの月を半分失い、地球を汚染させた人類は土星の衛星タイタンへの移住計画を進めていた。荒廃した地球上で海水を利用した核融合炉の監視を行っている主人公とその女性パートナーは単調な任務を楽しげに満喫しているようだった。だが、ある日NASAの宇宙船が不時着し、生存者の中に彼が何度も夢で見た女性の姿があったことから彼の世界認識は徐々に崩れてゆく・・・

■舞台設定とかSFのギミック等は案外こじんまりしているものの、さすがにトム・クルーズ主演の大作娯楽映画らしく大変楽しい映画に仕上がっている。ジョセフ・コシンスキーという監督はビジュアルセンスに秀でているようで、ギミックの数を限定したうえで、それぞれを劇的に使い倒す作戦とみた。そしてそれは見事に成功している。地球監視用のドローンという球形ロボや、主人公の乗る飛行メカなど、念入りに見せ場が作られている。物語のスケールは意外と小さいのだが、映像のルックは贅沢だ。

■中盤から登場するオルガ・キュリレンコがとにかく可愛くて仕方が無い。若い頃の水野美紀伊東美咲に似たチャーミングな女優だ。でも正直なところ、ドラマ的にはトムと公私共にパートナーとなるアンドレア・ライズボローのほうが良い味を出しており、後半可愛そうな三角関係に陥ってからは、メロドラマ的に気持ちよく泣かされる。NASAの宇宙船内での振舞いなんて、ほんとに短い描写なのに、彼女の気持ちの切なさに鼻の奥がツンと来る。いかにもSF的な図と地の逆転劇がかなり綺麗に物語られるのだが、それだけにとどまらず、メロドラマ要素も適宜取り入れた効果は絶大だった。

■さすがに超大作映画で、淡彩で影の薄いルックを綺麗に描写しており、デジタル上映では発色、精細感ともに極上であった。撮影には世界最高画質とも言われるソニーのシネアルタF65が使用されたそうだ。なお、空中タワーの撮影では、ブルーバックやグリーンバックの合成ではなく、背景にデジタル映像を映写して撮影する一種のフロント・プロジェクションが使用されている。これは予算削減に大きく寄与しているのではないか。しかも仕上がりは非常に綺麗で、全く違和感が無いから凄い。撮影監督はクラウディオ・ミランダ



インポッシブル ★★★☆

THE IMPOSSIBLE
2012 スコープサイズ 114分
TOHOシネマズ二条

■2004年のスマトラ島沖大地震で発生した大津波に呑まれた西洋人一家がばらばらになりながら命からがらシンガポールに脱出するまでを実話に基づいて描く超大作で意欲作。監督は『永遠のこどもたち』が注目されたJ・A・バヨナで、何故かスペイン映画である。

■まあ、何が凄いといって、大津波に飲み込まれるという体験を疑似体験させるという映画になっているところで、強烈な音響効果とVFXで、大津波体験映画になっている。加えて、生還したその後も地獄のような苦痛が待っていることを赤裸々に、というか、えげつなく描き出す。単純に感動して泣いて終わりという映画ではないのだ。

■観客に大津波の経験=恐怖を体験させること、そして死と再生を体験させること、それがこの映画のテーマである。そのために、監督は恐怖映画や怪奇映画の話法を取り入れている。飛行機でタイのリゾート地に到着する場面から始まって、シンガポールに特別機で脱出する終幕は、往年の怪奇映画で呪われた城に主人公が馬で到着したり、幽霊屋敷に入居した家族が命からがら逃げ出すといった説話構成をなぞっている。それは物語のテーマからの要請でもあるし、観客の心理操作のためにのテクニカルな要請でもあるのだろう。ナオミ・ワッツの経験する過酷な運命が、映画のビジュアル的にはまさに恐怖映画そのものであることは論を俟たないだろう。

■VFXの数々が非常にリアルにできているのに感心したのだが、昨今ありがちないかにもCGアニメ的なアクションや質感やキャメラワークはほとんど排除されており、リアル志向は徹底している。それもそのはず、メイキング記事を見ると、1/3スケールの大規模ミニチュア撮影が行われているのだ。ただし、波に浚われる椰子の木などはCGで動きを精密にシミュレーションしてはめ込み、万全を期すという方法論に感心した。水の質感がCGによるシミュレーション映像とは根本的に違うリアリティを持っているのは、大規模ミニチュア撮影の賜物だったのだ。特撮博物館には29万人の観客が入場したそうだが、あれに出かけた人たちはこの映画を見逃すことは許されないと思うぞ。特撮魂はスペインにもあったのだ。

■そして、機中でのラストシーンも良いのだ。主人公たちはたまたま未曾有の恐怖から全員生還できた。でも...という後ろ髪を引かれる重い現実がちゃんと映像化されているからだ。このラストシーンのVFXカットも1カットで重い意味を訴えてくる見事な演出効果である。もろもろ含めて必見。

エル・シド ★★★

El Cid
1961 スコープサイズ 184分
NHKBS

サミュエル・ブロンストンの3時間超大作路線の一作で、さすがはNHK、ものすごく綺麗なマスターを使用している。それでこそ70ミリ撮影の効果が発揮されるというものだ。監督はアンソニー・マンで、いやあ、見事な采配ぶりで、気持ちよくメリハリのきいた3時間映画である。ただ、2/3のところでやっとインターミッションが入るのだが、第2部はこうした超大作にありがちな冗長なモブシーンの連鎖に終始し、ドラマ的に失速している。その原因はスペインの伝説的な英雄を主人公に据えたところにある。なにしろ伝説的な人物なので、人間性を掘り下げることができないからだ。その代わりに、相方のソフィア・ローレンが間接的に主人公が何故英雄になれたのか、何故彼だったのかという問いかけを積極的に行ってゆく。しかし、それは非常に宗教的なものであって、やはりドラマには馴染まないのだ。

■第1部の面白みは、ロドリゴチャールトン・ヘストン)とシメン(ソフィア・ローレン)の大メロドラマにあり、許婚から敵に反転し、その後も接近と離反を繰り返す愛憎綾なす数奇な運命の盛り上げは流石に上手いし、アンソニー・マンの演出、ロバート・クラスカーの流麗な撮影、美術の様式美の完成度は非常に高い。ただ単に物量が大きいだけという3時間超大作ではないのだ。サミュエル・ブロンストンの美術チームはよほど優秀だったらしく、どの映画も美術セットを見るだけで、そのデザイン性の高さと渋い陰影表現にウットリする。

■第1部の見せ場はメロドラマだけではなく、大規模なオープンセットの中で戦われる最高戦士同士の一対一の死闘の場面も秀逸。アンソニー・マンは西部劇の監督らしく、こうした場面を非常に念入りに撮っており、『ローマ帝国の滅亡』のクライマックス同様、今観ても古く感じない。どころか、70ミリ撮影の細密なパンフォーカス画調の中で、ひりひりする間合いと激突の迫真性は新鮮に見える。

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