大いなる陰謀 ★★★☆

LIONS FOR LAMBS
2008 スコープサイズ 92分
高槻ロコシネマ9(SC3)

ロバート・レッドフォード9・11以降のアメリカの狂態について深い憤りと悔悟の念を込めて描き出した、若者に対する啓蒙映画。脚本は「キングダム 見えざる敵 」のマシュー・マイケル・カーナハン
■物語は、ある日の午前7時から8時過ぎまでの1時間強の間に3箇所で起こった出来事を、並行して描き出す。上映時間が92分と、異様に短いのは、この約1時間の出来事に全てのテーマを集約してみせるという手法に由来している。実際のところ、ハリウッド映画としては製作費も少ないはずで、撮影のスケールも明らかに小さい。アフガンの山間部のアクション場面など、ロケではなくステージ撮影で、ILMVFXでスケール感を拡張してはいるものの、見るからに狭苦しい。豪華キャストも映画の価値に賛同して、ほとんど手弁当で参加したのではないか。
ノンポリのシラケ大学生のなかに知性と将来性を見出し、世界の現実に目を向けるよう必死に啓蒙しようとする全共闘世代(意訳)の大学教授(ロバート・レッドフォード)のエピソードが中心となり、対テロ戦争に決着を付けるため新作戦を進める上院議員トム・クルーズ)が懇意の記者(メリル・ストリープ)に御用記事を書かせようと迫るエピソードと、その作戦の真っ只中で誤って敵陣に取り残された二人の若い兵士の運命が同時並行で描かれる。その若い二人の志願兵こそ、大学教授がもっとも将来を嘱望し、その純粋な使命感に自らのベトナム戦争当時の青春を投影していた大学生であった・・・
■全編が対テロ戦争に突入して世界の反感を買うことになったアメリカに対する苦渋に満ちた批判的総括で貫かれており、戦争開始を後押ししたマスコミに対する批判も矛先も鋭いし、ベトナム戦争のなかで学んだ教訓をアメリカの対テロ戦争の過ちに対して活かすことのできなかった世代の責任と無力感を正直に吐露する。そして、次の世代の若者に希望を託して映画は終わる。大学教授の役はレッドフォードの姿そのものであり、この映画はレッドフォードの遺言状ともいえるほど直截なメッセージ映画となっている。その切実で誠実な主張には大いに頷けるものがあるが、映画として見た時に表現に深みが無いのは、レッドフォードの演出家としての腕の悪さのためであろう。特にアクション場面に全く精彩が無く、肝心のクライマックスが胸に迫らないのは、ひとえに演出の悪さによる。
■しかしレッドフォードはそんな映画作家としての筋の悪さも隠そうとはせず、いい論文を書く能力はないが、若者の将来性を伸ばす能力には恵まれた大学教授として登場するのだ。すべてが、いまこれだけは若い世代に伝えておかなければという止むにやまれぬ気持ちの迸りで成り立った、熱い映画である。その思いはトム・クルーズにも伝染し、共和党ホープとして大統領を狙う野心家でタカ派上院議員を巧みに演じ切る。高齢の母親を介護する女性記者を演じるメリル・ストリープの、また敗北であった小さな戦が招来する若い世代の大きな犠牲に対して流す涙の重みに注目しよう。
■小学生にはまだ理解できないだろうから、中学生、高校生、大学生には必見の映画である。配給会社はこんな大雑把な邦題を付けないで、もっと若い世代にアピールする宣伝を心がけるべきだ。