理由はよくわからないけど確実に面白い不思議な活劇『ロスト・フライト』

基本情報

Plane ★★★☆
2023 スコープサイズ 107分 @アマプラ

感想

シンガポール発、東京行きのジェット機が電気機器の故障でフィリピン南部のホロ島に不時着するが、そこは反政府ゲリラの巣窟だった。。。

■航空会社はすぐに事故対応に当たるが、フィリピン政府の対応は24時間以上かかるし、そもそも実質的に統治下にない島なので、会社の危機対応担当者はすぐさま傭兵部隊を救援に送る。

ジェラルド・バトラースコットランド人で英空軍出身だけど、ワンマンアーミーではなく、あくまでリアルなおじさんとして振る舞う。乗客のなかに護送中の殺人犯がいて、やむをえず一緒に行動することになるのがお話のポイントで、普通ならバディ映画としてコテコテに細部を盛っていくところだけど、実にさらっとしている。それはこの脚本全体にそうで、航空会社の危機管理担当者と機長が対立したりするのかと思えば、そうでもなくて、意外にサラサラ展開する。そういう意味では、人間どうしの葛藤は薄くて、ドラマが薄い。でもなぜか不思議に面白い映画で、その淡白さは70年代から80年代前半くらいのアクション映画を彷彿させる。音楽だって、必要最小限しか入っていない。

■この映画の面白さの源泉はおそらく演出と編集によるもので、機長が初めて人殺しをするシーンはじっくりと1カットの長廻しで見せておいて、その後のスケールアップするアクションは小気味よいカッティングで刻む。そのメリハリが効いているし、傭兵部隊の到着以降はとにかくプロらしい的確な反撃を積み重ねて痛快に見せる。でも反政府ゲリラの本拠地なので、多勢に無勢で、持ち堪えるにしても時間に限りがあるのだ。一方でジェラルド・バトラーはあくまでリアルなおじさん、草臥れたおじさん像を堅持する。戦闘能力には限りがある。

■護送中の殺人犯がマイケル・コルターで、元々が傭兵という設定。まさに筋肉スターって感じで、犯罪者なのに妙に頼りがいのあるやつ。でも、なんで殺人を犯したのかもペラペラと説明しないあたりが、作者の貫禄を感じさせるところ。監督はジャン=フランソワ・リシェという人だけど、なかなか筋のいい人らしい。脚本家のリアル志向もあるでしょうね。

■ちなみに撮影監督はブレンダン・ガルビンで、なんとあの実録映画『ヴェロニカ・ゲリン』を撮ったキャメラマンですよ。基本的にドキュメンタルな作風の人なんだろうな。

■「何かいい考えはないか?」「ない!一つ一つ眼の前のできることから片付ければいいんだ!」そんなとても大切な人生訓まで教えてくれる、実は立派な教育映画なんですけどね。脚本家の人生経験がにじみ出てるということかなあ。勉強になりました。


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