それいけ!アンパンマン よみがえれバナナ島 ★★★

それいけ!アンパンマン よみがえれバナナ島
2012 ヴィスタサイズ 47分
DVD
原作■やなせたかし 脚本■金春智子
音楽■いずみたく近藤浩章 キャラクターデザイン・作画監督■前田実
監督■矢野博之

■突如暗雲に覆われたバナナ島を救うため、アンパンマンたちは巨大な氷鬼に立ち向かうが、島の王女・バンナはなぜ縁もゆかりも無い者たちが島のために戦うのか、偽善ではないのかと問いかける...

東日本大震災の衝撃を受け止めながら製作されたというアンパンマン劇場版。本作も例によってテーマ設定は結構深い。というか、非常にストレートに扱うところがこのシリーズのいいところ。なにしろ幼児向けの映画だから、もって回った言い方をしても伝わらないからね。バンナ姫が、バナナ島はいつまでも永遠にバナナがたくさん実って栄えていくものと思い込んでいたと述懐する場面など、非常に切実な表現だ。バナナ島のことなど気にしたこともないのに、何で災難が起こったからといて救いに来るのか、それは偽善ではないのかとバンナ姫が語りかけるのも凄い。

■バンナ姫はアンパンマンたちを偽善者と疑い、距離を置き、むしろバイキンマンと心をかわしてゆく。その焚き火を囲む場面の描写も繊細で美しいのだが、対するバイキンマンが既に物語の枠をはみ出してしまいそうなくらい、実は大人であるらしいことが表現されている。自分の立場もアンパンマンたちのことも、実は全て正確に理解したうえで、自分の役割を演じている風情が仄めかされているのが興味深い。本作のもうひとりの主役はバイキンマンである。

■そして実質主役がバンナ姫で、中性的で元気一杯、でもひねくれているという役柄を漫画映画的な作画の楽しさと、木村佳乃の声質がぴったりで、とても魅力的なキャラクターになっている。クライマックスはアンパンマンの素直な(素直すぎる)想いをやっと理解し、自ら戦うことを決意するのだが、このあたりはお得意のアクション演出が気持ちよく、大いに盛り上がる。

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