ワルキューレ ★★★

VALKYRIE
2009 ヴィスタサイズ 120分
TOHOシネマズ二条(SC9)

OPERATION WALKUERE
■第二次大戦末期、ナチスの暴虐に対するレジスタンスを企図するドイツの将軍たちは、ヒットラー暗殺、クーデターによる政権奪取を企むが・・・
■実際にあったヒットラー暗殺計画と、その失敗の顛末を硬派に描いたブライアン・シンガーの新作だが、正直なところこの監督には多くを期待していない。その立場から見れば、本作は意外に面白い。史実を知らないというまっさらな状態で観たのも幸運だったかもしれない。案外健闘しているとはいえる。
■しかし、脚本上の工夫不足が災いし、ヒットラー暗殺計画までのサスペンスも薄味だし、その後の偽の指令書で予備軍を動員して政権を奪取するクーデター作戦「ワルキューレ」と、その挫折を描く政治劇の部分も劇的にコクがない。映画のありかたとしては、226事件を描いた小林恒夫の「銃殺」などのほうがよほど面白し、クーデター劇としては山本薩夫の「皇帝のいない八月」などのほうが、よほど燃える。
■物語としては226事件によく似た構成を持つのだが、単純に言えば、主人公トム・クルーズの動機付けが弱い。普通の作劇なら、アウシュビッツホロコーストを知って衝撃を受けるといった動機付けが設定され、観客の感情移入を促すところだが、トムははじめからナチスに批判的でアフリカ戦線に左遷されている設定で、主人公が変化して行くという正統派のドラマが組まれていない。主人公の姿勢は終止普遍である。この作り方は、ヒーロー活劇のものである。
■監督の盟友らしい音楽のジョン・オットマンは何故か編集まで担当しているが、劇伴のあり方としてはあまり褒められたものではない。打楽器(というか効果音?)を下品に使って煽っていくハリウッド映画に典型的なスタイルは、恥ずかしい限りだ。
■主演のトム・クルーズは好演なのだが、その立ち居振る舞いから、身体の欠損というリアリティが感じられないのは、演出不足だろうか。例えば、「山猫」のアラン・ドロンの黒い包帯のようなエロティシズムが全く放射されないのは、トムという俳優の美点でもあり限界でもあろう。

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