インポッシブル ★★★☆

THE IMPOSSIBLE
2012 スコープサイズ 114分
TOHOシネマズ二条

■2004年のスマトラ島沖大地震で発生した大津波に呑まれた西洋人一家がばらばらになりながら命からがらシンガポールに脱出するまでを実話に基づいて描く超大作で意欲作。監督は『永遠のこどもたち』が注目されたJ・A・バヨナで、何故かスペイン映画である。

■まあ、何が凄いといって、大津波に飲み込まれるという体験を疑似体験させるという映画になっているところで、強烈な音響効果とVFXで、大津波体験映画になっている。加えて、生還したその後も地獄のような苦痛が待っていることを赤裸々に、というか、えげつなく描き出す。単純に感動して泣いて終わりという映画ではないのだ。

■観客に大津波の経験=恐怖を体験させること、そして死と再生を体験させること、それがこの映画のテーマである。そのために、監督は恐怖映画や怪奇映画の話法を取り入れている。飛行機でタイのリゾート地に到着する場面から始まって、シンガポールに特別機で脱出する終幕は、往年の怪奇映画で呪われた城に主人公が馬で到着したり、幽霊屋敷に入居した家族が命からがら逃げ出すといった説話構成をなぞっている。それは物語のテーマからの要請でもあるし、観客の心理操作のためにのテクニカルな要請でもあるのだろう。ナオミ・ワッツの経験する過酷な運命が、映画のビジュアル的にはまさに恐怖映画そのものであることは論を俟たないだろう。

■VFXの数々が非常にリアルにできているのに感心したのだが、昨今ありがちないかにもCGアニメ的なアクションや質感やキャメラワークはほとんど排除されており、リアル志向は徹底している。それもそのはず、メイキング記事を見ると、1/3スケールの大規模ミニチュア撮影が行われているのだ。ただし、波に浚われる椰子の木などはCGで動きを精密にシミュレーションしてはめ込み、万全を期すという方法論に感心した。水の質感がCGによるシミュレーション映像とは根本的に違うリアリティを持っているのは、大規模ミニチュア撮影の賜物だったのだ。特撮博物館には29万人の観客が入場したそうだが、あれに出かけた人たちはこの映画を見逃すことは許されないと思うぞ。特撮魂はスペインにもあったのだ。

■そして、機中でのラストシーンも良いのだ。主人公たちはたまたま未曾有の恐怖から全員生還できた。でも...という後ろ髪を引かれる重い現実がちゃんと映像化されているからだ。このラストシーンのVFXカットも1カットで重い意味を訴えてくる見事な演出効果である。もろもろ含めて必見。

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