感想
■架空の港町で伝説の人魚のこどもルーと遭遇した三人の中学生は、人魚が音楽好きであることを知り、一緒にバンドを始める。踊る人魚で町興しを狙う大人たちは人魚を捕獲するが、海から巨大なバケモノが上陸する。それこそ人魚のパパだったのだ。。。
■というファンタジータッチの冒険物語で、主人公の中学生男子の成長を描く、主筋はオーソドックスなお話。なにせ、脚本を吉田玲子が担当しているから、基本的に堅牢な構築である。ただ、監督が湯浅政明なので、独特のデフォルメされたうねうねした、ある種気持ちいいような気持ち悪いような動画が、それこそリアリティを超えた漫画映画ならではの感興を呼ぶ。
■正直、人魚の女の子の物語としてはあまり面白くなくて、『崖の上のポニョ』の失敗の上に屋上屋を重ねる真意が図りかねる。巨大なパパも、いかにもトトロだし、そんなに宮崎駿に頼らなくてもいいものをと思う。中学生三人組の小さなお話として始まって、中盤からお約束通りに異生物の捕獲、虐待、大きな災厄、救出という定番の段取りを綺麗に踏襲する。その様は、先日観た『ペンギン・ハイウェイ』と全く同じ。教科書通りのお約束通りの展開だ。
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■ただお話として無理があるのは、終盤の町の水没のスペクタクルで、これは人魚たちの超能力ではなく、「お蔭様」のたたりということなのだが、「お蔭様」がどんな存在なのかが不明だし、なぜ祟るのかもピンと来ない。しかし、映画としてはこの街の水没シーンが最大の見せ場だし、実際非常に良くできている。明らかに東日本大震災の津波災害を下敷きにしていて、ファンタジーが最もリアルに接近する接点となっている。人魚たちは人間を取って食う魔物ではないということをスペクタクルな背景の中で描いて、非常に美しく感動的なシーンになっている。本作は一種の怪物映画であって、人間と怪物の負の歴史を背景にしているのだが、その共存こそが共栄の道であることを示す。人間と自然と魔法の共存共栄。その理想的な交流の様子が素直に感動的に描かれる。
■加えて、人魚に肉親を取り殺された恨みを抱く二人の老人のエピソードの結末が突出して感動的で、動画と音楽も凄いことになっているので、思い出すだけで泣けてくる。主人公の少年の祖父の母親が海で落命する様を独特の湯浅アニメで描き出すのだが、そのおばさんの肉感のリアルな表現が凄い。
■またこの映画、編集がいいんだよね。ベタベタしそうな場面を長刀で断ち切るようにスパっと展開してくる。カミソリのような切れ味の名編集だ。
■しかし、考えて観るとこのお話、海底原人ラゴンにそっくりですよね。音楽好きの半魚人で、奪われた子供を救いに親が上陸して、島が海に沈むの。ひょっとしてクレジットにspecial thanksあったかなあ。
■追記:湯浅政明の新作は、なんと『日本沈没2020』だった。ほら、やっぱり海底原人ラゴンだったでしょ!
www.famitsu.com
■製作はフジテレビ、東宝、サイエンスSARUほか、制作はサイエンスSARU。
☟このアートブックはちょっと気になるなあ。参考
こちらは公式サイトです。まだ残ってますね。
lunouta.com