エル・シド ★★★

El Cid
1961 スコープサイズ 184分
NHKBS

サミュエル・ブロンストンの3時間超大作路線の一作で、さすがはNHK、ものすごく綺麗なマスターを使用している。それでこそ70ミリ撮影の効果が発揮されるというものだ。監督はアンソニー・マンで、いやあ、見事な采配ぶりで、気持ちよくメリハリのきいた3時間映画である。ただ、2/3のところでやっとインターミッションが入るのだが、第2部はこうした超大作にありがちな冗長なモブシーンの連鎖に終始し、ドラマ的に失速している。その原因はスペインの伝説的な英雄を主人公に据えたところにある。なにしろ伝説的な人物なので、人間性を掘り下げることができないからだ。その代わりに、相方のソフィア・ローレンが間接的に主人公が何故英雄になれたのか、何故彼だったのかという問いかけを積極的に行ってゆく。しかし、それは非常に宗教的なものであって、やはりドラマには馴染まないのだ。

■第1部の面白みは、ロドリゴチャールトン・ヘストン)とシメン(ソフィア・ローレン)の大メロドラマにあり、許婚から敵に反転し、その後も接近と離反を繰り返す愛憎綾なす数奇な運命の盛り上げは流石に上手いし、アンソニー・マンの演出、ロバート・クラスカーの流麗な撮影、美術の様式美の完成度は非常に高い。ただ単に物量が大きいだけという3時間超大作ではないのだ。サミュエル・ブロンストンの美術チームはよほど優秀だったらしく、どの映画も美術セットを見るだけで、そのデザイン性の高さと渋い陰影表現にウットリする。

■第1部の見せ場はメロドラマだけではなく、大規模なオープンセットの中で戦われる最高戦士同士の一対一の死闘の場面も秀逸。アンソニー・マンは西部劇の監督らしく、こうした場面を非常に念入りに撮っており、『ローマ帝国の滅亡』のクライマックス同様、今観ても古く感じない。どころか、70ミリ撮影の細密なパンフォーカス画調の中で、ひりひりする間合いと激突の迫真性は新鮮に見える。

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