■ちなみに『女殺油地獄』の与兵衛の「豊島屋油店の段」での心理の流れとしては、とりあえず切羽詰まって最悪自害することも考えながら、それでも何かあれば、そのときにはというお守り的な気持ちで脇差しを懐に呑んでいたのだと思う。何しろ、不良なので。豊島屋にやってきた父母の話を聞いて、涙を流したというのは実は口だけのことで、内心では、「ふん、とんだ愁嘆場だったぜ、馬鹿らしい」くらいの気持ちだったと思う。それよりも、渡りに船と大金がもたらされたので、当座の借金返済のためには、もうそのことしか目にない。お吉のことは近所のキレイなお姉さんくらいに憧れてはいたが、与兵衛ももう童貞ではない。遊女とも遊び歩く、性の世界では経験豊富な若者だから、すでにお金に目がくらんでいて、お吉がかつて純に憧れたお姉さんであることすら、意識の外に飛んでいる。だから、与兵衛の決定的な殺意、犯意は、皮肉にも父母の良かれと思ってもたらした大金が惹起したもので、父母の真情などはなから眼中になかったのだと、個人的には、そう解釈する。なんとなく、ふらふらと気安いお吉に頼んでみようか、くらいの気持ちだったものが、父母の持ってきた大金で、完全に強盗モードに切り替わったのだろう。三浦しをんは、両親の嘆きを聞いて、真に涙したという解釈をとるけど、まあ、近松じいさいは、そこのところはなんとでも読めるように書いているので、正解はないのだ。
■ちなみに、人間国宝の豊竹咲太夫は、「即やめてやるよ、LOTO6が当たったら。4億円当たったら、即やめてやる!」とLOTO6にご執心だったようです。今年、亡くなられたようですが、結局4億円は当たらずということでしょう!ちなみに「女殺油地獄」については、「ああいう(お吉のような)世話焼きのおばはんというかね、いるんだよね、大阪には。あの芝居は、大阪の風土というのが実に大切で。」とか、「僕らの十代後半ぐらい、昭和三十五年から四十年にかけてはね、大阪は筆舌につくしがたき文化不毛の地だったわけ」とか、非常に含蓄の深い発言があり、興味津々です。1960年代前半て、大阪あかんかったのか。知らなんだ。
www3.nhk.or.jp
■まあ、橋本治の『浄瑠璃を読もう』『もう少し浄瑠璃を読もう』という大著が後に出版されていて、このジャンルでは近年の決定版じゃないかと想像しますが、まだ読めてません。