金環蝕 ★★★☆

金環蝕
1975 スタンダードサイズ 155分
NHK BS2
原作■石川達三 脚本■田坂啓
撮影■小林節雄 照明■渡辺長治
美術■間野重雄、今井高司 音楽■佐藤勝
監督■山本薩夫

■昭和39年の九頭竜川ダム落札事件にまつわる自民党政治家の裏の活動や、事件を嗅ぎまわる高利貸し等の有象無象の姿を戯画的に活写する山本薩夫の力作。原作の石川達三の小説は昔は店頭で文庫版を見かけたような気がするが、近年は全く見かけなくなった。というか、石川達三の名前自体、店頭で見かけないなあ。

■なにしろ、実際の事件をベースに組み上げられた小説なので、一定のリアリティの保証があるが、それ以上に面白いのは、政治家、官僚、高利貸し、業界紙記者といった登場人物たちの、凝った、あるいは凝り過ぎた役作りだ。さらに、それらをスタンドプレイにならないように、まとめあげた山本薩夫の統率力はやはり凄い。たとえば、東映などもオールスターの競演作を作ったりするが、完全に演技的な交通整理ができているとは限らない、というか、ほぼできていないのが通例だが、曲者を揃えて、物語の方向性と各場面の方向性を見失わないのは大変なことだ。しかも、各人の演技が凄い。

終戦後のどさくさで火事場泥棒的に財を成した謎の高利貸し演じる宇野重吉は漫画すれすれのメークと演技で、一世一代の怪演。電源開発の社長で、前半で実質主役並みの活躍を見せる永井智雄は、官僚出身の社長という食えない男を正確に演じ切る。凄いリアリティだ。(続く)
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