俺はノモンハンの戦いを見た!日本に勝ち目はない!『戦争と人間 完結編』

基本情報

戦闘と人間 完結編 ★★☆
1973 スコープサイズ 184分 @アマプラ
企画:大塚和、武田靖、宮古とく子 原作:五味川純平 脚本:武田敦、山田信夫 撮影:姫田真佐久 照明:熊谷秀夫 美術:横尾嘉良 音楽:佐藤勝 協力監督:河崎保、ニキタ・オルロフ 監督:山本薩夫

感想

(最終更新 2022/5/7)
■昭和12年の南京事件から昭和14年のノモンハン事件までの期間、日中戦争の戦火を拡大線とする軍部に対して一定の距離をおきながらも巧みに商売に利用しようと画策する伍代財閥の面々と、科学的な分析にもとづき戦争に勝ち目がないと批判的な次男俊介、反戦活動に精を出す次女順子とその夫耕平のそれぞれの戦いを描く戦争大河浪漫。

■もともとは第四部で完結のはずがいくらなんでも製作費がかかりすぎるので第三部で完結の運びとなった超大作。製作は日活だけど、実質的には日活労組で、共産党系の政治的なパイプを最大限使用してソ連のモスフィルムの協力下で法外な大規模撮影を敢行した。なんとも、タガの外れた得体の知れない超大作。いったいどこから製作費が湧いて出たのか勘ぐりたくもなるというもの。

■終盤の1/3はモスフィルムの協賛で撮影されたノモンハン事件の再現で、大スケールなのは間違いないけど、どう考えても冗長。逆に今の映画技術で撮れば、もっとメリハリのきいた迫真的な場面が作れるところだ。こうした部分は確実に映画技術は進歩しているのだ。しかも、モスフィルムから借りてきたフッテージには大掛かりなミニチュア特撮も含まれるから、なかなか味なものではある。当時、ソ連映画でも戦争映画には操演によるミニチュア特撮が駆使されていたのだ。

■しかし考えてみると本作は完全に北大路欣也の主演作という構成になっている。前半は山本圭吉永小百合のメロドラマが秀逸で、特に軍隊内のモーレツしごき教室山本薩夫ならではの念入りな残虐演出や地味ながらリアルな脇役陣の熱演が凄いし、中国人捕虜を突き殺せなかった標耕平(山本圭の代表的な役柄だから憶えておいてね!)と彼をかばう種田上等兵のエピソードも秀逸だし、死んだと思っていた耕平が生きていることを憲兵の尋問で悟る場面の作劇の見事さも堪能させる。憲兵が読み上げる耕平の魂のこもった手紙の文言を途中から吉永小百合が諳んじる場面は本作の白眉と言える名演出で、本当なら吉永小百合憲兵にもっと猛烈なビンタを食らってボロボロになりながら抵抗するところだが、さすがに山本薩夫は遠慮している。意外とスターには遠慮する人なのだ、ヤマサツ先生。

■標耕平は自分の部隊が中国の村を焼き討ちする場面で残虐行為に加担せず上官から虐待され瀕死のところを八路軍に救われる。この場面の八路軍の登場で、佐藤勝によるテーマ曲が高らかに鳴り響くので、ヤマサツ先生の旗色は鮮明なのだ。もちろん赤ですよ!

北大路欣也は前半で統計数値の分析によって日中、日ソの戦力は日本と比較にならないことを科学的に解き明かし、後半では最前線に飛ばされてノモンハン事件の実相を体験し、瀕死の生還を果たすことになる。そして、ノモンハン作戦の現地指揮官たちはみな詰め腹を切らされて自害に追い込まれる。なぜ負けたのか、何が敗因だったのか、今後の戦略にどんな教訓を残すべきか、その分析調査もしない間に、現場に責任だけが押し付けれられ、不都合な事実はなかったことにされる。そして第二次世界大戦が開始され、日本は無謀な戦火拡大路線に迷い込むことになる。その行く末はすでに決しているというのに。というのがこの三部作の最終的な結論だ。とりあえず北大路欣也で締めくくったけど、伍代家の一族がどうなったのかを描かないと、やっぱり映画は終わりませんよね。

■でも、本作の北大路欣也はとても良いですよ。ちゃんと良家の御曹司に見えるし、後半のやつれぶりもリアルで、目だけがギラギラしたラストもひとりで三部作を支える気迫だ。なんと同じ年に『仁義なき戦い 広島死闘篇』が撮影されているので、大充実の年だったのだ。

■女優陣ではなんといっても「百姓娘 苫」を演じる夏純子が役得で、ひとりでハツラツとしている。この人、若いのにデビュー当初から貫禄があって、比較的若いうちに引退してしまったので、いつまでもあの頃の鮮烈なイメージがそのまま残っていて、なんだか甘酸っぱい気持ちになるよね。ホントにイイ女だよね。

■本作の奇妙なところは、俳優座文学座劇団民藝の三巨頭が協力しているのに配役が小粒なことで、メインキャストは豪華だけど、脇役陣はほとんど知らない人という謎のキャスティング。リアリティを狙って敢えてそうした節もあり、実際、名前も知らない脇役たちが大充実の演技を見せる。吉永小百合を攻め上げる憲兵(田村貫。もうひとりは上田耕一だから知ってる!)も知らない人だし、山本圭を助ける種田上等兵井上博一)も知らない人だ。

■この種田上等兵(原作では谷田らしい)のエピソードには実は曰く因縁があり、映画の描き方が妙にねじれていて説得力を欠くのだが、それもそもはず、本当は被差別部落の出身者で軍隊内でも差別されているという設定だったのだ。それが完成版では単なる「前科者」になっている。これは脚本を読んだ映倫から、このまま撮ると部落開放同盟から『橋のない川』みたいな上映妨害を受けるから、再考したほうがいいよとアドバイスされていて、それでもいったんそのまま撮影したものの、ラッシュを見た映倫から再度同じアドバイスがあったので、わざわざリテイクして台詞を改変したもの。ヤマサツ先生はここでも妥協している!もちろん、ソ連の協力も得て撮った映画が、部落解放同盟の糾弾や上映妨害を受けて上映中止などになっては元も子もないし、共産党にもソ連にも示しがつかないと考えて、引っ込めたのだろうが、なんとも締まらない話ではある。まあ、こんなところに唐突に部落差別問題を中途半端に持ち込まれても観客も困るけどね。。。

■ちなみに、日本映画には珍しくスプリット・ディオプターレンズが使用され、手前と奥の両方にピントがあった、ダイナミックな構図が描出される。もちろん、手前には滝沢修の大アップがあるわけ。いわゆる画角を引いて撮るパンフォーカスとは異なり、クローズアップと背景が両方解像しているという不可思議な画になる。これは姫田キャメラマンのこだわりだろう。つい最近まで、合成で人工的に作った映像だと思ってましたが、専用レンズで一発撮りできるんですね!アマゾンプライムビデオのリマスターは比較的新しいものらしく、ちゃんと照明効果が再現されているから陰影に見ごたえがある。

■それにしても伍代家の没落が描かれないと終わった感がないですよね。特にあのゲスの極み、長男の英介(高橋悦史)の生き様、死に様が気になってしかたない!

ちなみに、ノモンハン事件ソ連ロケでは、山本圭が私費で同行してソ連軍の参加した大規模撮影を見学しているうちに、戦闘場面に参加してしまったそうだ。
日本兵役の現地エキストラに監督の指示が伝わらないので、結局念のため日本から持参した兵装で監督の指示通りに動きまわり、実際に二十カットくらい写っているらしい。

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