『氷点』

基本情報

氷点
1966/スコープサイズ
(2001/1/3 レンタルV)
原作/三浦綾子 脚本/水木洋子
撮影/中川芳久 照明/渡辺長治
美術/間野重雄 音楽/池野 成
監督/山本薩夫

感想(旧ブログから転載)

 妻(若尾文子)の浮気中に娘を殺された主人(船越英二)は密かに犯人の娘を養女とし、”汝の敵を愛せよ”の教えを隠れ蓑に妻の不貞への復讐を企む。そんな境遇の中でも純真に成長した娘(安田道代)をいつしか兄(山本圭)は深く愛するようになるが、娘は兄の友人(津川雅彦)に心を寄せていた。だが、彼に横恋慕する母親は二人の仲を裂こうとし、ついに娘の出生の秘密を暴露する。もはや娘には自殺するしか道は残されていないのだった。

 後の大映テレビの異常な世界観はこの映画から始まったのではないかと思われるほどに不自然かつ強引な物語展開には全盛期の水上洋子の繊細な作風は微塵も感じられないし、かといって物語のテーマが骨太に掘り下げられているようにも見えない凡作で、わざわざ山本薩夫を担ぎ出すような企画ではないことは確かだろう。

 肝心のヒロインが安田道代ではTV版「氷点」の内藤洋子の可憐さに到底及びもつかないし、実際この1~2年後には確実に開花する演技力の片鱗さえ感じられない状態であるのは、この映画の限界を如実に示しているだろう。

 ただし、この奇矯な世界観の中で苛烈な火花を散らすのが大映東京を代表する若尾文子船越英二の因業な演技合戦で、人間の悪(”灰汁”といってもいいかもしれない(笑))を造形させれば右にでるもののない山本薩夫の演技指導が容赦なく不気味な人間像を現出させているのは、さすがというべきかもしれない。本来倫理的には否定すべき人間のなかにむしろ人間の魅力を見出さないではいられないその作風から眺めればむしろこれこそが正統派の山本薩夫演出なのかもしれない。

 後に「盲獣」となって変態演技の頂点を極めることになる船越英二は言うまでもなく、増村保造でもここまで突き落とさないだろうと思われるまでに中年女の醜悪な心理をさらけ出さされる若尾文子の存在感が凄まじく、夫から不貞を責められても頑として認めず、かと思えば娘の恋人を横取りしようとして、却って相手から軽蔑されるという容赦ない醜悪さを不条理なほどの美の中に昇華させた演技は当時の若尾文子だけが成しえた奇跡というべきだろう。

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