昭和維新だよ!新興伍代財閥満州ゲス物語の開幕『戦争と人間 第一部 運命の序曲』

基本情報

戦争と人間 第一部 運命の序曲 ★★☆
1971 スコープサイズ 195分 @アマプラ
企画:大塚和、武田靖、宮古とく子 原作:五味川純平 脚本:山田信夫 撮影:姫田真左久 照明:岩木保夫 美術:横尾嘉良、深民浩 音楽:佐藤勝 応援監督:磯見忠彦 特殊技術:日活特殊技術部 監督:山本薩夫

感想

昭和3年張作霖爆殺事件前から、昭和6年の柳条溝事件、昭和7年上海事変までの昭和初期の中国大陸の激動の時代、新興財閥 伍代家のえげつない満州進出の謀略と関東軍への強硬な扇動工作を描く、戦争大河浪漫。

■とはいえ端的に言ってドラマが完結しないので、この映画だけ観てもあまり面白くはない。本来なら単体で面白くなるように構成するはずだけど、なにしろ原作ありきの企画なので勝手にメリハリつけるわけにもいかず、オリジナルのキャラクターを出し入れれするのもご法度だろうから、脚色は苦労しただろう。でも山田信夫の得意ジャンルではないと思うがなあ。じっさいのところ八木保太郎とか橋本忍とか新藤兼人くらいの大御所が書くべきところだよね。そして、その方が面白くなったと思うよ。いつもの山本薩夫の映画はもっとずっと面白いからね。

■とにかく字幕とナレーションが多くて、当時中国大陸で起こった代表的な事件を網羅するという原作の執念をそのまま残している。正直、映画的にはいらんと思うけどね。教育映画かよ。

■なので、お話の如何よりもキャラクターが興味の中心となる。つまり伍代家の男たちのゲスさ加減が面白みの核心だ。芦田伸介が濃厚に演じる、当主の弟の喬介が特に出色で、「お主、儂とひと汗かいていかんか?」というのが口説き文句の絶倫男で、その相手が女スパイ風の岸田今日子。二人の入浴シーンもあるけど、誰が嬉しいのかな?いや楽しいけど。

■一方輪をかけてひどいのが高橋悦史演じる長男の英介で、チャイナドレスの栗原小巻を目で追いながら「良い腰してる」と思わず独白するゲス野郎で、しかも関東軍に守られたホテルで思い通り乱暴狼藉に及ぶ。正直ミスキャストという気もするけど、あまりに愚劣な人間なのでかえって愉快なほど。でも山本薩夫がこれまで描いてきたリアルな悪人たちの人間像に比べると全然薄っぺらだ。

■本作で目立つのは高橋幸治演じる高畠という雇われ社員で、『傷だらけの山河』の儲け役(気が弱いためアクの強い強欲な一族に馴染めず発狂する!)を演じた高橋幸治がまたも屈折した役を演じる。運送業を開拓するために満州匪賊の頭目丹波哲郎だけどミスキャスト!)と渡りあうが、最愛の妻(松原智恵子)を拉致され、しまいには朝鮮人抗日組織によって殺害される。それでも伍代公司を去らず、強欲な伍代財閥の生き様、死に様を見届けたい一心で会社に居残るというナイスな役柄だ。第二作はどうなったんだっけかなあ。

■すでにロマンポルノに転向していた日活では、別の配給系統で劇場公開し、興行的にも大ヒットを記録して、山本薩夫の代表作ともなったし、実質的な製作母体だった日活労組も喜んだウィンウィンな幸せな映画だが、実際のところ日活にはこうした超大作の製作経験が乏しく、日活映画全盛期にも東宝東映大映のような桁外れの超大作は敢えて(?)製作していない。エース投入の姫田チームの映像設計もあまり見るべきところがなく、東宝東映ならベテランのキャメラマンがもっと重厚な画作りをしていたはずで、リマスターの時期が古くて明るすぎるのも良くないが、どうも映像面では平板で大味だ。だから日活にはこうしたスペクタクル大作は無理なんだって。

■しかし大資本家の傲慢な生態なら『傷だらけの山河』の方がずっと面白くてリアルだし、山本薩夫の映画なら、もっと良いのが他にいくらもあるから、あまり勧める気はしないのだが、まあ日本映画史を俯瞰するためには必見というところだな。

■あと、日本特撮映画史の研究家の人は、必見ですよ。なにしろ有名作なのでね。撮り切りのミニチュアワークは意外に悪くないしね。ホントは満州の街や原野の情景なんかにもっと作画合成を上手く使いこなせば、スケール感も出て上出来なんだけど、そのあたりの塩梅も日活にはノウハウが不足しているのだ。

参考

maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
こっちの方が絶対面白いし人生勉強、社会勉強になります。『傷だらけの山河』です。こちらも訳ありの速成映画で技術的には相当雑です。でも無類の面白さ。これが山本薩夫の真骨頂。
maricozy.hatenablog.jp

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