感想(旧ブログから転載)
強訴の咎で村を追われ、ヤクザになった主人公(仲代達矢)は尊皇攘夷を唱える水戸天狗党の力を借りて仇のヤクザに復讐を遂げ、農民を救うためにその後も行動を共にするが、目的のために手段を選ばない指導者たち(加藤剛、神山繁)の内ゲバに利用され、次第に絶望してゆく。
裏切り者と断罪された中村翫右衛門を襲撃する内ゲバシーンがおそらく全編のクライマックスで、公開当時吹き荒れていた学生運動の過激派たちの行く末を見事に先取りしたあたりは、山本薩夫の面目躍如(?)だろう。
しかし、映画としてもっとも疑問なのはそのように散々組織に都合良く利用されて嫌気がさし、愛人(若尾文子)のもとへ身を寄せていた主人公が最終的にはノコノコと天狗党に復帰してしまうことで、これではあまりにもお人好しすぎて、単なるバカにしかみえないことだ。せっかくの興味深い素材が十分に料理できていないのは、脚本の詰めの甘さによるものだろう。
それにしても、キャスティングだけ見るとどこの映画だかわからない状態で、大映末期の苦境が偲ばれる。当然ながら天狗党のモブシーンなど全くなく、なんだか加藤剛と神山繁がこっそり運営している秘密結社みたいにみえてしまう。天狗党残党の悲惨な最期には大映の運命が黒々と暗示されているようにみえてならないし、なかなかお気楽には楽しめない映画なのだ。
(99/8/23 スタンダードサイズ V)