継承せよ、敗北の意味を!Amazon Prime Videoで『仮面ライダー BLACK SUN』革命的に配信開始

【最終更新:2022/11/1】
仮面ライダーBLACK SUN→BLACK SUN?→黒い太陽?→七三一部隊?と、酒飲みの与太話でゲラゲラ盛り上がっておしまいになりがちな、コンプライアンスと忖度で世知辛い昨今、本気でそれをドラマ化する連中が現れた。白石和彌東映映画の面々だ。

■真正面から差別問題をテーマに据えて、反怪人デモと反差別デモのぶつかり合い、国連で「怪人の命も人間の命も重さは1グラムも変わらない」と演説する少女活動家、さらに舞台は1972年に遡って連合赤軍事件からオウム真理教事件までを彷彿させる革命と裏切りの物語に発展し、怪人日本発生説の起源をめぐって先の大戦中の人道的犯罪行為が炙り出される。。。おじさんの喜びそうなネタを全部詰め込みましたね!よくできました!

■正直なところ1972年パートの練度が不足していて、現在と並列で描かれる展開にも苦しいところがある。本来なら1972年パートは16ミリ撮影で画調を荒らしておくとか、芦澤明子が『氷の轍』で試みた実験も参照すればよかったのだが。それに、そもそも創世王とかキングストーンとかいったギミックの意味付けが明確になるのが終盤なので、前半に展開される1972年の山岳ベースの事件はドラマ的な方向性が掴みにくいのだ。創世王を殺す!と言われても、そもそも創世王って何?宇宙人?怪物?という状態ではドラマに感情移入ができない。というか、キングストーンなんて、最後まで意味がわかりません。
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■当初は樋口真嗣が特撮監督の予定だったので、もっと特撮的な斬新な見せ場があるのかと思えば、意外にもこじんまりで、実際樋口真嗣を担ぎ出すほどの内容ではなかった。田口清隆にしても、役不足の感がある。監督の演出意図は実物と造形物で撮り切る方針らしく、アクション演出も仮面ライダー初期の肉弾戦を踏襲するし、創世王は巨大なハリボテだ。もっと斬新な特撮演出を期待していたのだが、でもドラマ部分が期待のはるか上を滑空するので、目が離せない。要はこれイーストウッドの『グラン・トリノ』なんですよ。

■1972年のゴルゴム革命(?)のリーダーゆかりを演じるのが芋生悠という新進女優で、なかなかの昭和感を醸し出す。そのルックスは、特に目元が、別役実の作品が十八番の京都の某舞台女優にそっくりなので、娘かと思ったほど。(違いますよ)ただ、ブラックサンとシャドームーンの三角関係を構成するこの役柄も思ったほどの活躍がないまま、呆気なく殺されてします。とにかく簡単に人や怪人が死ぬんですよ。しかも残酷に。

■一方、実質の主演でもある少女活動家役の平澤宏々路の女優力も圧巻で、第9話から最終話に至るドラマの見せ場はみんな彼女がかっさらう。こんな実力派の若手女優が存在したのかと驚嘆した。特に第9話の終盤は、シリーズ中のクライマックスでもあって、誰しも鳥肌が立つ見事な見せ場。そして東映魂の発露を見せつける。これぞ東映精神の継承そのものだ。大島渚の『忍者武芸帳』かと思ったよ。(東映じゃないけど)

■脚本の高橋泉はところどころにさらっと良い台詞を書いていて、

葵「負けた人から何を受け継ぐの?」
光太郎「・・・敗北の意味だ。」

とか

ゆかり「私たちは誰も特別じゃない。遺したものを誰かに受け継ぐだけの、歴史の通過点だから。

とか、とても良いと思います。よく書いた!

■あまり期待はしていなかったけど、白石和彌樋口真嗣と田口清隆の座組の面白さで観始めたところが、グイグイと真正面からテーマを突きつけてくる豪胆さに圧倒され、2日で全部観ちゃいましたよ。実際に昨今の劇場映画以上の充実感を感じさせる熱い傑作なので、これを見逃す手はないよ。

■若者は負け続けてきた。われわれは負け続けてきた。それがこの国の歴史だった。でも何度負けても、悪い奴らがいる限り、われわれは戦いをやめない。その戦う意志が、50年前の若者から現代の若者に継承される。それだけがこの国の最後の希望だからだ。

勝利ではなく、敗北を描く。歴史の影に埋もれた敗残者たちの怨念を描く。それこそが時代劇を発祥とする東映映画の不滅の精神なのだし、おれたちの心を鷲掴みにしてきた特撮ドラマのエッセンスでもあるからだ。

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