来年になったら春は来るだろう。しかし夏はわからんぞ、秋はもっともっとわからん!日本は、この日本は…『日本沈没』 ★★★☆

日本沈没
1973 スコープサイズ 140分
DVD
原作■小松左京 脚本■橋本忍
撮影■村井博、木村大作 照明■佐藤幸次郎
美術■村木与四郎 音楽■佐藤勝
特技監督中野昭慶
監督■森谷司郎

■久しぶりに見直したが、前半は特撮スペクタクル、後半は人間ドラマという構成の特徴に改めて気づいた。前半のクライマックス、360万人の死者、行方不明者を出す第二次関東地獄地震は中野特撮の真骨頂であると同時に、井上泰幸の特撮美術の見せ場でもある。特に海抜ゼロメートル地帯の長屋が壊滅してゆく場面のミニチュアワークは見事なもの。しかも、ミニチュアの崩壊場面に、被災者の悲鳴や叫び声を被せるという前代未聞の音響演出が強烈な臨場感を生んでいる。これはこの映画の新たな工夫である。

■後半は、本来特撮スペクタクルであれば描くべき日本列島の水没場面をほとんど描かず、国土の崩壊状況を、状況の点描といったレベルで何か所か示すだけで、本格的な沈没シーンは見られない。これは予算や製作期間の制約にもよるだろうが、後半はドラマの見せ場と腹をくくったためであろう。特撮スペクタクルのクライマックスは中央破砕帯が裂ける場面だが、ここはミニチュアの縮尺も大きすぎで、正直ボリューム不足であり、衛星軌道上からとらえた日本列島の大俯瞰が日本列島の沈没を示すだけという、少々肩すかしな構成になっている。

■しかし、この映画の見どころは、やはり後半に集中しており、名場面の連続である。佐藤勝の名スコアの貢献大であり、心斎橋あたりを酔っぱらって彷徨う藤岡弘の場面、「来年になったら春は来るだろう。しかし夏はわからんぞ、秋はもっともっとわからん!日本は、この日本は・・・」の名台詞とともに、胸に迫る。いしだあゆみと再会するのは出来過ぎだが。

■配役はかつての東宝特撮のおなじみは敢えて避けて、しかもオールスターキャストにもしないという、かなり捻くれたもので、これによって、主要キャストに見せ場が集中するという計算か。

© 1998-2024 まり☆こうじ