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2011 ヴィスタサイズ 141分
ユナイテッドシネマ大津(SC5)
原作■川本三郎 脚本■向井康介
撮影■近藤龍人 照明■藤井勇
音楽■ミト、きだしゅんすけ 美術■安宅紀史
VFXスーパーバイザー■小田一生
監督■山下敦弘
■1971年の朝霞自衛官殺害事件の首謀者と週刊誌記者の危険な接近遭遇を描いた実録青春映画。まさかこんな事件が映画化されるとは夢にも思わなかったので、奇跡の映画化といっておこう。昭和は遠くなりにけり。
■安田講堂の陥落後から始まるとおり、学生運動に乗り遅れた革命家志望の男と週刊誌記者がおれたちの祭りを夢見て邂逅したことから、それぞれの青春の消耗戦が始まり、罪なき自衛官の血が流される悲劇を出来する。脚本としてはもっと面白くするやり方もあったろうと思うし、ラストの妻夫木聡の泣きは「涙そうそう」にしか見えないという時点で決定的な失敗だと思うが、それでも非常に興味深いし、十分に面白い映画だ。
■松山ケンイチ演じる活動家はあからさまに胡散臭い人物として描かれており、功を焦った妻夫木が深入りしすぎたという失敗談と定義されている。松山ケンイチの役柄は作り方によっては、信用できないけど、危険な魅力を放つ不可思議な存在として、もっと深堀りできたはずだと思うのだが、それには至っていない。ただ、撮影が上手いので、ところどころのカットに、非常に卑しい表情を写し取っている。対する妻夫木も、カットによっては今スケベ心を出しましたよ、というショットがきちんと作ってあり、なかなか侮れない。
■淡彩で陰の多い画調でくすんだ時代感を描いた近藤龍人の撮影が見応えがあるし、ナイトシーンの粒子のざらついたタッチなど、時代背景にぴったりだ。煙草の煙が頻出するが、もっと部屋の中にもうもうと充満した感じを照明効果で出すと60年代風になりますよ。
■配役も立派で、あまり見かけない脇役が非常にリアルな芝居を見せる。特に妻夫木の先輩役の古舘寛治は素晴らしい実在感だ。京大パルチザンの滝田修(役名は前園)を演じるのが山内圭哉というのもツボで、いつ笑わせてくれるのかと思っていると、大真面目で、案外説得力がある。平成の時代に、こうした役柄を真正面から演じられる役者はほとんど絶滅したから、うまい戦略と言えるだろう。ちゃんとバリケード封鎖された時計台も登場しますよ。