【死ぬまでに観たいこの一本】『ヤングパワー・シリーズ 大学番外地』

f:id:maricozy:20200703201456j:plain
出典:https://www.kadokawa-pictures.jp/official/42509/
■70年安保に向かって68年ころにピークを迎える全共闘を中心とする学生運動については様々な評価がありますが、既成左翼への幻滅から新左翼が生まれ、いわゆるノンセクト・ラジカル全共闘としての運動の中心となり、学園紛争は激化、各地で機動隊と市街戦が戦われました。現在の香港の民主化デモのようなことが日本国内でも起こっていたわけですが、彼らが本気で目指したものは単なる民主化ではなく、「革命」なのでした。69年1月には、東大安田講堂で籠城戦が戦われ、学生たちの敗北に終わります。これが70年安保闘争における学生運動のわかりやすい天王山であって、弾圧され先鋭化した赤軍派らは完全に地下に潜って武装化を進め、69年11月には大菩薩峠事件で武装訓練中の赤軍派が大量検挙されます。
■といった当時の騒然とした社会情勢の中で、倒産寸前だった大映が何を思ったか打ち立てたヤングパワー・シリーズという映画がありました。といっても、その存在を知ったのはつい先日のこと。映画史的には全く未発掘の空白地帯ですね。察するに、ヤングパワー・シリーズじたいは、学生運動が全世界で燃え上がり、ヒッピーやサイケやフラワームーブメントなど、大人から見れば奇抜で奇妙な風俗が蔓延する昭和元禄の若者の新風俗を切り取った、若者向けの刺激的な青春映画として企画されたものでしょう。その第一作は『新宿番外地』(脚本:高橋二三、監督:帯盛迪彦)で、新宿を舞台に、サイケやアングラが織りなす当時の世相を残酷に切り取る青春残酷映画だったようです。
www.kadokawa-pictures.jp
惹句が奮ってますよ。こんな感じです。そういう企画意図だったわけです。

新宿―出口のない裸の街!
怒り、叫び、セックスし、フーテンし、ゲバる若者たち!
燃えたぎるヤングパワーの実態を描く――

■そして第二弾が目をつけたのが学園紛争。しかも、学生運動のバリスト中の大学構内で何が起こっているのかを描いた非常に珍しい一作です。確かに、増村の『偽大学生』などもあり、全く前例がないわけではないが、基本的にどの映画会社も敢えて企画しないタイプの素材ですね。映画会社の重役は思想的にも共感しないし、作者たちも既に松竹ヌーヴェルバーグの前衛たちはメジャーを退社して、ATGとかで前衛映画を撮っているので、普通のスタイルの劇映画は作らない。そんな中で、本来ならATGとか独立プロが作るような素材を堂々と劇映画にしてしまった大映は、いい意味でどうかしている。この時代に真正面から学生運動を劇映画として描いた、実は唯一無二の貴重な映画なのです。
■しかも脚本は須崎勝彌ですよ!東宝戦記映画でおなじみのあのおじさんですが、当時四十代半ばで働き盛り。しかも前作が大映の戦記大作『あゝ陸軍隼戦戦闘隊』というのも意味不明な感じを増幅します。どうしたんでしょうか。監督はテレビ映画しかみたことのない、個人的には未知の監督、帯盛迪彦です。
■さらに!さすがにこの時代は、メジャー五社ではほとんどカラー映画に切り替わっている時期だというのに、モノクロ映画!既に、特別な芸術的な意図を持った映画か、よっぽど低予算な作品しかモノクロでは撮影していないこの時期のことですから、明らかにこれ以上ないくらいに低予算の企画だったわけです。しかし、このモノクロ撮影に惹かれるじゃないですか。60年代後半にはモノクロ、ワイド撮影のフィルムや機材が完成の域に達しているので、ちゃんと撮ればかなり品質の高い映像が撮れるはずなのです。しかも、かなりドキュメンタルな撮影が行われたフシもあり、興味津々。
■肝心のお話は大江健三郎の原作で増村保造が監督した『偽大学生』を半分くらい踏襲している気がするけど、助監督の金子正義が原案を兼ねて、かなり本格的な青春映画になっているらしい。以下の梗概は当時のキネマ旬報の紹介記事そのままだけど、これを読むと結構本格的なニューシネマに思えますよね。特に悲劇的なラストがどのように演出されているのか是非、観てみたい。本当にこの梗概のとおりに展開してくれるなら、傑作間違いなしと思えてくるじゃありませんか!ポスターのビジュアルを見ると、どうもコメディ映画に見えるので困るのですが、あらすじを読むと完全にシリアスな青春映画なんですよね。しかも、モノクロだし。
movie.walkerplus.com
■主演の梓英子はさすがにあまり知らないので、本来ならもう少しこの時代のアンニュイなファッションが似合う女優が望ましいところですが、河原崎建三学生運動のリーダーを演じているのは興味深いですね。きっと持ち前の頼りなく不甲斐ない雰囲気で学生運動の空虚さを体現していることでしょう。大島渚の『儀式』の主人公満州男を演じるのはこの後のことです。創造社の小松方正はきっと無責任な旧体制の象徴である学長でしょうし、内藤武敏が教授役なのも納得の配役です。学長室でチョメチョメする罰当たりなシーンもあるらしいですよ。なにしろ、惹句がこんな感じですから、青春映画というよりも、エロと残酷の風俗映画として売りたかったわけですね。

ゲバ棒の中のフリーセックス!
バリケードの中の残酷なリンチ!
にえたぎるスチューデントパワーの実体をあばく!

■以上のように、こんな映画、日本映画の歴史において、ホントに他に類例がないのですよ。ああ、死ぬまでに一回、観ておきたい。
www.kadokawa-pictures.jp

参考

■こちらのレビューも何故か妙に好意的で熱いのです。みんな好きなのね。まあ、好きな人しかわざわざ観ようと思わないからね。
filmarks.com
maricozy.hatenablog.jp