必死剣 鳥刺し ★★★

必死剣 鳥刺し
2010 ヴィスタサイズ 114分
MOVIX京都(SC6)
原作■藤沢周平 脚本■伊藤秀裕、江良至
撮影■石井浩一 照明■椎原教貴
美術■中澤克巳 音楽■EDISON 
監督■平山秀幸

■配給は東映だが、撮影は日活撮影所と庄内ロケが中心で、東映京都の時代劇スタッフは参加していない。何映画かと聞かれると、エクセレントフィルム映画と応えるのが正しい気がする。映像にもドラマにも貧乏くさくは無いが、東映映画らしさは無い。

■制作規模は現在の日本映画の体力から言えば、大作になるのだろうが、美術セットのスケール感とか配役の微妙さとかで、大作には見えないのが悲しい。特に弱点なのは、ヒロインの池脇千鶴に決定的に色気が不足していることと、海坂藩のバカ殿を演じる村上淳とその愛妾を演じる関めぐみの配役の謎加減にある。この映画のメインターゲットはじいさんばあさんにあるはずなのに、この重要な二役を、それ誰ですか?という役者に演じさせたのでは娯楽映画にならないではないか。大体、関めぐみという女優、近頃なぜかよく見かけるのだが、特に美形でもなく、演技は生硬だし、観ていていつも不思議なのだが、事務所力のなせる技ということか?

■主演の豊川悦司は真面目に演じているし、熱演はわかるが、もう少し痩せるべきではないか。閉門蟄居から明けた身体があのぷよぷよ加減では、虚無感も悲壮感も生まれない。対する剣豪に吉川晃司というのも、実に微妙で、じいさんばあさんは納得するのだろうか?

■物語も藤沢周平おなじみのバリエーションで、まあどれを観ても一緒という気がするが、「魔界転生」で時代劇に失敗した平山秀幸の雪辱戦としては、しかし一定の成功を収めている。単純な物語を114分も引っ張るため、中盤は大いに退屈する。その責任は脚本にもあり、東映配給なのだから、東映ドラマツルギーで構成すればいいのに、チャンバラもクライマックスに集中させてしまったため、中盤は延々と世話事の世界に付き合わされることになる。

■しかし、それでもちゃんと水準作に仕上げてくれるのが平山秀幸の偉いところで、クライマックスには、近年お目にかかれないほどの気合の入った、大チャンバラを見せてくれるのだ。このあたりは、森一生の「薄桜記」を手本にしたと思しい演出も悪くないし、一対一の決闘と一対多数の殺戮戦という豪華な見せ場となっている。厳しく言えば、その殺陣の見せ方は未熟で、山田洋次の時代劇のほうが重厚で殺気が漲っていた気がするが、最後の最後に姿を見せる秘剣鳥刺しの描写には、呆気にとられつつも息を呑む。なぜ、平山秀幸がこの映画を撮るのか、という意味が一気に氷解する。そして、監督デビュー作が「マリアの胃袋」であり、「愛を乞う人」が上質の怪奇映画であったことを、すぐさま想起する。なんと誠実な監督だろう、平山秀幸という人は。

■ただ、欲をいえば、森一生のようにではなく、三隅研次池広一夫のように撮ってほしかった気はするのだ。森一生の「薄桜記」よりも、池広一夫によるリメイクで大映末期の小傑作「秘剣破り」を愛するものとしては。

■製作はエクセレントフィルムズ、東映テレビ朝日ほか、制作はエクセレントフィルムズ。

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