感想
■自動車セールスマンの浅井(田宮二郎)の恋人増子(若尾文子)は男に妻(藤原礼子)がいることを知るが、男に無理やり離縁された妻は嫉妬から狂死する。だが、浅井はアパートに居候する増子の姪っ子(水谷良重)に手を出してしまう。。。
■徳田秋声の有名な私小説の映画化なので、文芸映画かと油断していたのだが、なんのことはないドロドロに爛れた嫉妬劇で、ほとんど恐怖映画に近い。増村保造は耽美的な映画は苦手で、『刺青』は成功しなかったけど、本作では怪談映画並みにドロドロした愛憎関係を見事な恐怖演出で見せるから、みんな『刺青』じゃなくて、本作を観ればいいと思うよ。こっちの方がずっと怖いよ!
■まず凄いのは、浅井家で起こる妻の狂乱シーンで、田宮二郎に延々と追いすがる藤原礼子の場面は見事な演出。藤原礼子は大映で比較的大きな脇役を任せられるけど、所詮潰れた大映なので、どうも忘れられがち。そのなかでも、この演技は特筆ものでしょう。増村演出も『刺青』ではどうも空回ししがちだった修羅場だけど、本作は見事に成功している。ちゃんとできるじゃないの。当然ながら。浅井家の廊下などのリアルな狭さを活かしたシネスコ使いの画角も見事だと思う。追い詰められる感じが臨場的に迫る。
■若尾文子は、自分自身も藤原礼子と同じ境遇になっていることを知って、同じように狂乱する。水谷良重をさんざん打擲する場面のあややの大暴れも他に例を見ない凄いもので、まるで怪獣映画。後年、五社英雄もキャットファイトを好んで描いたが、増村をもっと見習うべきだったよね。
■さらに、逃げ出した水谷を追いかけてアパートの階段の上下で追い詰める場面の恐怖演出(構図、カッティング)は間違いなく絶品の名場面なので、みんな参考にすればいいと思う。ウィリアム・ワイラーもかくやという階段使いの演出技。この場面、激しい乱闘のあとなので着物が乱れていて、若尾文子の姿は完全に幽霊に見える。そういう計算になっている。そして、若尾はゆっくりと階段を降りるだけだけど、水谷良重の逃げ方の段取りと芝居付が演出の肝で、恐怖シーンの見せ方は、恐怖する側のリアクションの芝居で成り立っていることを熟知している。心理的な芝居ではなくて、身体全体を使う身のこなし的な技術だけど、水谷良重の弾むような俊敏な逃げ方の身のこなしは見事な芝居だと思う。
■ラストシーンの静かだけど、これから起こるべき修羅場を感じさせる不穏な幕切れも秀逸だったし、増村は新藤兼人とは名コンビだけど、本作も非常にレベルが高い。そして、こんな毒々しい演出は新藤兼人にはできないだろうから、新藤兼人も喜んだことだろう。ああ面白かった、怖かった!

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